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怪物狩りのユーヴェ  作者: 栗鼠
ロイの怪物
4/6

式場にて

 洞窟から出たユーヴェは憲兵達へ洞窟内の状況を説明した後、五人の憲兵達と共に村へ急ぎ戻った。ユーヴェ達が村へ戻ると天幕の辺りが慌ただしく、彼らを見かけたアーレスの秘書ボイペイが血相を変えて駆け寄った。彼の背後には幾人かの冷や汗をかいた部下が追従する。

「魔術師殿!大変です、領主様が怪物に殺されました!此処の調査も重要であると承知しておりますが、至急どちらか街へ引き返してはいただけませんか!」

「なんと、領主閣下が!森にあった怪物の住み家は奴の使い魔や価値の無い物ばかりだったので、奴は既に痕跡を消して既に街へ入り込んでいたのでしょう。直ちに向かいます。」

三人は荷馬車へ馬を繋ぎ街道で引いた。

「洞窟の使い魔は全滅させました。応援を送り洞窟内の魔術触媒や石棺の回収をお願いします。」

ユーヴェはそう言うと五人の憲兵達を伴って馬を走らせ、二日後の夜に彼らは街へ到着した。門へ着くと三人は詰め所から出てきた家令に連れられ再び領主の屋敷へ戻ってきていた。五人の憲兵達は休む暇も無く村での状況を上官へ報告に走る。相変わらず街は眠ったように静かで有り出歩く者は居なかった。閑散とした街を抜けて門前へ到着した彼らへ家令はおもむろに尋ねた。

「これより前領主様のお葬式へ出ていただきます。ですが、貴方達は死体よりも臭い。お着替えをお願いします。よろしければ正装を差し上げます。」

「では三着、お譲りしていただきたいです。」

「では納屋の方へお願いします。血まみれの様相を見られては奥様や領主イアラケス様のたった一人のご子息であられるテネトール様が卒倒されます。」

「承知しました。」

きっちりとした家令から離れ三人は納屋へ向かった。広い屋敷の庭をのそのそとユーヴェが歩いていると隣へセネスが並び疑問を口にした。

「あの石棺の事だが、あれは本当に棺桶なのか?埃すら無い正真正銘何も無い箱、何か引っかかるだろう。」

「そうでないとすれば、何でしょう。何も無い箱か。ただの箱か?思えば呪い箱に似ている気がします。あれは何も入っていない箱の中身を想像させ、その想いが強ければ強いほど忠実に造形された物が箱の中に宿る術だったかと。」

「正しい術の名前は願い箱だ。だが、私もそう感じた。とすると中には恐らく怪物が入っていたのだろう。何故あの吸血鬼なのか。魔術で無ければ知りようが無い程古く、私も今回が初めての手合いだ。」

「魔術師が吸血鬼を望みますか?本物の吸血鬼は尋常ではない強さですよ。私はあの洞窟で会わなかった事に安堵すら覚える程です。」

それもそうだとセネスは笑い、三人は背負い物を地面へ下ろすと上着を汚れた机へ引っ掛ける。オーグは巨大な銃の掃除を始め、セネスとユーヴェは調合済みの薬液を補充しながら薬液をロングソードや弾丸へ塗る。

「注入器を用意します。」

そう言ったユーヴェはセネスの返事を待たず陳列する道具の中から鈍い鉄製の筒を取り上げた。大小様々な大きさの物を三つ、ユーヴェは慎重に机に並べて上部を捻り内部の部品を取り出して手早く組み立てた。オーグは一心不乱に銃口を鳥へ見せつけている。

「空気銃か。あの坊ちゃんは元気だったか?」

「かなり。」

「そうか。」

三人は黙々と作業を進めていると開け放たれた納屋のドアがノックされる。ユーヴェが振り返ると執事達が匂いのためか引きつった表情で良い香りのする木箱を二つ持って立っていた。

「お着替えをお持ちしました。オーグ様の正装はどうしても見繕えず申し訳ありません。また、式がそろそろ始まりますのでお支度はお早めにお願いします。」

ユーヴェとセネスが木箱を受け取ると執事達は礼を取り素早く扉を閉じた。足音が遠ざかるとセネスが冗談めかして言う。

「髭もこのままで行こうかな。」

「やめてください。」

銃を磨き終えたオーグは鳥を肩にのせて爆弾を組み立てていた。

「参列者の中に願い箱を使用した者がいるとも考えられるので、骨格や部位に違和感の有る者の髪を採取しましょう。」

「それが良いな。」

着替えながら二人は式典での行動を相談する。


 正装に着替え髭や髪を整えた二人は納屋を後に屋敷の門前へ並ぶ。そこには大勢の参列者がおり、皆街の名士や軍の将校等が受付をとられていた。

「師よ、受付ではこちらをお渡しください。先程一筆したためておきました。」

ユーヴェは懐から一枚の封筒をセネスへ渡す。

「ありがとう。私はいつも知人を探していたんだ。用意を忘れてな。」

セネスが軽くユーヴェへおどけると、

「セネスか!久し振りだな、怪物狩り。」

「何故此処に?」

「近くの砦に用が合って今朝付いたばかりで、領主殿とは何度か戦にも出た仲で参加した次第だ。」

鍛え上げられた厚い胸板の壮年がセネスを軽く抱き締め握手を交わす。

「紹介しよう、この立派な軍人は度々世話になっている友人のレイアスだ。お前も赤ん坊の頃に会っているが、覚えていないだろうな。レイアス、こちらは弟子のユーヴェだ。私はよりも腕が良い、もし怪物で困ったことがあればこの男を頼ると良い。必ず力になってくれるはずだ。」

レイアスは驚きを交えた鋭い眼差しでユーヴェを見据える。実はレイアスは目の前のユーヴェと言う男がセネスの弟子には見えなかった。てっきり領主が別途雇った魔術師だと思っており、それ程までに佇まいが『完成された魔術師』だった。

「では次があれば頼もう。その時はよろしくお願いします。怪物狩りユーヴェ殿。」

ユーヴェはよろしくお願いしますと言うとレイアスへ礼を取り、それを返答とした。レイアスを交えてこれまでの旅について暫く談笑した三人はようやく受付にたどり着いた。

「この度はお悔やみ申し上げます。魔術師セネスと魔術師ユーヴェよりこちらをお納め下さい。」

セネスは受付の家令へ封筒の向きを九十度変えて手渡した。恭しく受け取った彼は鍵の付いた木箱へその封筒を納め、きちっと礼を取ると二本の赤い花をセネスへ手渡す。

「火葬前にイアラケスのお胸へお供え下さい。乗り切らなければ火葬台へお願いします。」

「承知しました。レイアス、先に行っているぞ。」

片手を上げるレイアスを置いて二人は斎場、屋敷の大広間へ移動した。

 

 斎場に居る人々の殆どは男性だったが、時折王都で流行の袖飾りの多い上品なドレスを着て顔を家紋で染め上げた薄布で隠した女性もいくらかおり、夫と共に会話へ加わっていた。セネスは真っ先に顔を家紋で隠した屋敷の主である領主夫人と隣に座る息子テネトールの元へ進んだ。領主夫人はユーヴェ達が目の前へやって来ると、腰を折った二人へ言葉をかけた。

「よくもおめおめと・・、私の前へ姿を現せましたね。貴方達が街を離れた途端に賢明な夫イアラケスは喉を掻き切られ、どの葡萄酒よりも深い真紅の血の海へその四肢を萎えさせました。私は悲しみの余り毎晩褥を涙で濡らし疲労困憊です。貴方達を縛り首にしないのは村での使い魔程度の討伐という功績が合ってのこと。依頼は継続し恐ろしい吸血鬼を殺しなさい。これは命令です。」

「承りました。」

夫人は茹だった声を急に和らげると。

「夫は奥の部屋に眠っています。弔いの言葉と花を置くことを許可しますが直ちに狩りを再開しなさい。」

「はい。」

簡潔に答えたセネスとユーヴェへ顎をしゃくり二人を下げた。斎場を歩く二人は小声で話す。

「領主夫人殿も王都の流行にはしっかりと乗っておられたようだ。」

「言動には違和感はありませんでした。ですが、先程の叱責で周囲から距離を取られてしまいましたね。情報も得られそうに無いです。」

セネスは近くの菓子を摘まむと。

「レイアスに頼んでおこう。先に花を添えて例の生き残りの元へ行ってくれ。直ぐに追いつく。」

「承知しました。」

ユーヴェは真っ直ぐ奥の部屋へ入ると火葬台の上に、氷室から出されたばかりのイアラケスの遺骸が手袋と正装を着込み、化粧を施され頭を右手に向けて横たわっていた。ユーヴェは彼の胸の前へ歩み寄ると頭を下げながらしげしげと喉の傷を覗き込んだ。首の傷は縫合されていたが確かに記録通りに四本の傷が刻まれている。傷は右耳の真下から始まり、喉元をざっくりと切っていた。傷跡は中程が短くガタガタに皮膚が破れていた。ユーヴェは彼の胸へ花を置くふりをして床へ花を落とす。部屋の奥へ落ちた花を取るためユーヴェが回り込み耳元を見る。傷口の端は鋭くユーヴェは違和感を覚えた。

「これは細工か。どうなっている。」

ユーヴェは花を彼の胸へ置き屋敷を後にした。

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