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毛利と豊臣、ある雨の夜の密約

掲載日:2026/01/04

時は西暦1582年、羽柴秀吉は中国地方の備中高松城に侵攻、水攻めをしていた。

毛利輝元は備中高松城の救援の為、大軍を備中高松城の西に布陣し羽柴軍と睨みあいの状況となっていた。


梅雨に差し掛かるある雨の夜、毛利の陣では毛利輝元、小早川隆景、吉川元春の3人が軍議をしていた。すると、安国寺恵瓊が息を切らしながら3人のもとにやってきた。

輝元「何事だ、恵瓊。」

恵瓊「兵に呼ばれて陣の前に行ったのですが、男が2人おりまして...その...」


すると奥から毛利方の兵に囲まれた男2人がやってきた。

「お初にお目にかかります。輝元様ですな?私は羽柴秀吉と申します。横に控えるのは我が弟の秀長。以後、お見知りおきください。」


頭を下げた2人に驚く輝元、隆景、元春の3人とどうするべきか様子を見る恵瓊。

刀に手をかける隆景と元春。


すると

秀吉「できればこの殺気漂う兵達を下げていただきたい。ご覧の通り私達は刀も鎧もつけておりません」


確かに見た目は農民であった。隆景が恵瓊に本人か確かめるように目くばせすると恵瓊はただうなずくだけであった。


輝元「心配はいらん。この者は問題ない。何かあれば私が自ら斬り捨てるから我ら3人とこの者ら2人だけにしてくれ」


恵瓊は何か言いたげであったが隆景と元春が前にでてきたために兵とともに別室へと下がった。


5人は着座した。すると秀長が話だした。

秀長「皆様に我らから直接伝えたい事があり失礼ながらこのような姿で参りました。我ら兄弟に策があります。実は信長公への謀反の謀を練っているものがおります。その者を利用したいと考えております。協力いただきたい。」


隆景「聞き捨てならんな。主君を裏切る計画を知っていながら主君に知らせも止めもせんというのか?」


秀長「この計画は信長公に死んでもらわなければいけないのです。まずは聞いていただきたい。」


何かを言おうとした隆景と元春を輝元は制した。


輝元「策を聞こう」


秀長「信長公を討とうしているのは明智光秀です。信長公は今度京に滞在いたします。そこを狙う予定のようです。問題はその後のことで・・・」


続きを言う前に輝元は問いかけた。「一つ伺いたい。なぜそのことを知っている?」


秀長「簡単なこと。協力を持ち掛けられたのです。ですが直接討つのはさすがに気が引ける。ですから、わが軍は毛利氏を抑えるために動かないと約束したまで。我が兄との口約束ですがね」


微笑む秀長と秀吉。


毛利の3人が驚き言葉を発っせずにいると秀長が言った。


秀長「続きを話しても?」


毛利の3人に改めて秀長は微笑んだ。


輝元「うむ」


秀長「我らは京にいたる道に休息できる場所を確保いたしました。京から明智軍による謀反と信長が討たれたという知らせがあればすぐに軍を京に向かわせ明智を討ちまする。それまでの間戦をするふりを続けていただきたいのです。」


元春「明智殿が失敗する可能性があろう。相手はあの信長ぞ?」


秀長「明智にとって京は庭のようなもの。足利公のもとにいた頃から京に通じておりまする。明智が信長公を討つことを失敗する可能性は万に一つとありません。」


隆景「見返りはあるのか?」


秀吉が前に出ていった。

「この策がうまくいけば私は織田方の実質的な指導的立場になりまする。実は他にも何重に策を仕込んでおりますが、毛利様はそこまで知る必要はないこと。私が織田方の指導的立場になれば毛利家の領地を安堵いたしましょう。」


輝元「それだけの為にその策に乗れと?」


秀吉「毛利様に損はありません。私は本気で攻めない。それにこの策が失敗し私が討たれても私が軍を引き上げている間に軍を立て直すこともできましょう。失礼ながらわが軍に対して攻めあぐねていたのでは?」


元春「配下の城を攻められ、城の者は飢えに苦しんでいる。それを見捨てろと言っているように聞こえるぞ」


隆景「そう言っているのだろう」


沈黙があたりを包み雨が屋根をうつ音だけがしばらく聞こえていた。


輝元「その策は本当にうまくいくのか?自信があれば口約束ではなく書面にて残していただきたい。そうでなければ、この策は飲めぬ。」


秀吉が秀長に目くばせした。すると秀長がある書面をだした。


秀長「花押をいただければ密約の完了ですな」


驚く毛利の3人に対して秀吉が言った。

「わが策に乗っていただければ利益はあっても損はありません。輝元様、あなたのお考えで花押をいただければ幸いです」


輝元「・・・私はこの策乗ってみたい。2人はどうか?」


元春は刀に手を伸ばしたが隆景が抑えていった。


「我らは主君に従います。何があっても。」


元春は刀を手にし、震えていたがうなずいた。


秀吉「実にめでたい。毛利家にとって最良の日となりましたぞ。ではこちらの書面に花押をいただいたら帰ろうか、秀長」


秀長は秀吉と輝元の前に書をだした。二人は内容を確認後花押を押した。


二人は雨の中に消えていった。


二人の姿を見送ったあと元春が輝元と隆景に言った。

元春「この密約が成功すれば、城の多くの者は死ぬことになろう。その者たちの墓前になんと詫びればいい。」


隆景「詫びる必要はない。城の者は討ち死にしたのだ。そう思えばいい。」


輝元「・・・丁重に弔うことを約束する」


元春は何も言わなかった。ただ震える体を抑えていた。


恵瓊がすぐにやってきた。

恵瓊「いかがなりましたか?」


隆景「あの者は確かに猿顔であったが、ただの農民であった。戦にて荒らされた田畑のことに関して訴えてきたまで」


恵瓊「しかし、私はしかと顔を・・・」


隆景「黙れ恵瓊。あれはただの農民だ。よいな?」


恵瓊「・・・かしこまりました」



その後、あまり日をおかず停戦交渉の名目で秀長が毛利の陣へやってきた。

秀長「毛利様、策を実行するときがきました。よろしくお願いいたしまする。」


秀吉の中国大返しが始まった。この戦いの影響が織田家以外にも波及していくことを毛利はまだ知らない。


毛利と豊臣の密約 羽柴編


時は西暦1582年、羽柴秀吉は中国地方の備中高松城に侵攻、水攻めをしていた。

毛利輝元は備中高松城の救援の為、大軍を備中高松城の西に布陣し羽柴軍と睨みあいの状況となっていた。


そんな最中、秀吉の陣の側である人物が秀吉・秀長と3人で話をしていた。その様子を遠くから黒田孝高がみていた。彼は2人になにかあれば動けるように監視していたつもりだがある人物が去ったあと、2人の顔は強張っていた。


陣に戻ったあと、黒田は2人に問うた。

黒田「見かけぬ御仁とお話されていたが、何を話されていたのですか?」


秀吉「いやいや、そなたの策の水攻めの後、この水をどのように抜いておけばいいか相談をうけていただけだ。のう秀長」


秀長「左様。しばし試案したい。兄上と2人にしてくれないか。」


黒田「確かに我が策の後を考えておりませんでしたな。迂闊でありました。私は別室におりますので何かあればお声がけください」


黒田は2人の側をはなれながら、違和感を感じていた。当然策はあったがあえて無いことにし、2人の動向を注視することにした。


数日たった雨の日の夜、秀吉と秀長に相談したいことがあるがどこにもいないと蜂須賀正勝が黒田のもとにやってきた。


蜂須賀「女でも探しにいったのか?」


黒田「いくら殿でも戦中にそのようなことはせん。無礼であるぞ」


蜂須賀「失礼した。しかし、どこに行かれたのか・・・」


黒田「少し外を見てまいる。そなたも探しておいてくれ」


蜂須賀「承知した」


雨の中、黒田は単身外で捜索をしていた。


すると、秀吉と秀長が百姓の姿で雨の暗闇の中を戻ってきた。


黒田「どちらに行かれていたのですか。皆心配していたのですぞ」


秀吉「すまんな。先日話していたであろう。この雨だ。水攻めの様子を確認せねばと思うてな。周辺を確認するのもこの装束でいたほうがよいと思ったのよ」


黒田「秀長様がついていながら、このような装束でいかれたのですか」


秀長「すまん、黒田殿。しかし、そなた足を悪くしておろう。誘うにも気が引けてしもうた。許せよ」


黒田「無事であったのでこれ以上は申しません。周辺に城攻めの利を有するところはありましたか?」


秀吉と秀長は少しの間沈黙した。夜の雨の薄暗い中黒田のわずかな表情の変化を感じたのか秀吉が続けた。

秀吉「実によい利のある場所を見つけた。もうすぐこの城攻めも終わるだろう。のう秀長?」


秀長「いかにも。黒田殿も安心してくだされ」


黒田「かしこまりました。まずはお着換え下され」


2人を見送った黒田は何かあったことを感じていた。雨でさらに水位が高くなる高松城をしばらく見つめていた。

  


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