表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

最強老人、ギルドへ入れる?

世界の異常(バグ)を見た。レベルが1、ジョブが農家で、スキルは基本の鑑定眼しかない俺よりも年が下の男だ。男はまるでジョブ:武闘家のような動きで俺の間合いを図り、そして、そんな俺の攻撃をすべていなして俺に攻撃を当ててきたのだ。今も俺は青空を見て何が起こったのかを確認している。何度も何度も今の情報を確認する。ジョブ、レベル、スキル、そのすべてがやはり異常だ。背中を地面から離して男を見つめる。男はまだ俺が攻撃をしてくるのかと手を構えているが、俺は両手に持っているダガーを離して降参の意を表明する。


「やっぱり、何度考えても意味が分からん。お前の身体やスキル表示は異常だ。自分で違和感に気づかないか?」


「違和感?違和感はこの世界の規則性だ。スキル、ジョブ、レベル、何度も言うが私はそれらを理解できない。何のための指標だ?何の為にこの世界の人間はそれにすがる?それになんの意味がある?」


意味?指標?コイツは何を言っているのだ?この世界でスキル、ジョブ、レベルは信頼と評価の為のものだ。それをこの世の異常のように語るこの男は、一体何者だ?ダガーを拾い上げてしまって男へ近づく。


「ウーウェン…んじゃ、ウェンだな。ウェン。お前はなんでこの世のシステムに疑問を持っている?いや、疑問を持っているわけではなさそうだな。なんでこの指標に意味がないと感じるんだ?」


「君は、自分が理解できないものの上で立っていることに違和感を感じないのか?君は見たところジョブが【盗賊】となっているが、悪人なのか?……私にはそうは見えない。君のその目…その目は誰かに復讐を誓った眼だ。罪を犯してまで誰に怨みを抱いているのだ?」


その質問に俺は口がつまる……正直、図星だ。復讐のために盗賊になった…というよりも、盗賊にならざるを得なかったのが正しい。


生まれが東諸国のスラム街。盗みは当たり前、殺しは日常茶飯事。そんなこの世の悪いところ全部乗せの世界で物心つく頃には両親は病気で死に、俺だけが生き残って毎日食えるか食えないかの生活を送っていた。そんな俺のゴミ溜め人生を変えてくれた師匠がある男に殺された。殺された理由は「みすぼらしかったから」だそうだ。白髪の若い男で最後に師匠が目印として右の下瞼に消えない傷をつけた。目印とかなんとか言っているが師匠は別に復讐を望んでいなかった。


「あの子はただこの世の醜さに耐えられなかっただけ。その刃がたまたま私に向いただけなんだ……だから私のためにお前の一生を無駄にしないでほしい……アッシュ…いいことをすれば、必ず自分に返ってくるんだ。人間は鏡だよ……決して………決して……盗賊になんてなっちゃいけない……アッシュ……お前は戦士としての……」


師匠の最後の言葉だった。人間が鏡とか、良いことは巡り巡って自分に返ってくるとか訳の分からないことを言っていたが最後まで良い人だった。だから、復讐すると決めた。だから、白髪っぽい冒険者を見つけて戦いに挑んだ。その結果…結局俺は師匠の言いつけを破り盗賊となっていた。そんな俺の心の奥をこの男は今の短時間に見抜いたというのか…?


「俺は白髪で右の下瞼に傷がある男を探している。それが師匠の仇だ。師匠の仇うちのために俺は人を襲っている。盗賊とあるがスラム街の名残だ。この技術も何もかもスラム街の名残だ。」


「……殺しはしたのか?」


「気になるか?」


「いや、やってないな。お前の目は復讐に染まっているが、関係ない奴を殺すほど曇ってはない。殺しはしてないな…アッシュとやら、この世界のことをもっと私に教えてくれないか?」


そういうと目の前の男は急にお辞儀をして教えを乞うてきた。目的も見えない。意図が全く分からない。確実に俺を殺すために隙を作らせる作戦か?それとも何か別に目的が?ジョブ、スキル、レベルが分かっても人の考えまでは読み取れない。なら、俺のやり方で信用しないといけないようだ。頭を上げた男の目をじっと見つめる。男は俺と目が合うと見つめ返してくる。その瞳の奥に濁りはなく、本当に本心から教えを乞うているのが分かる。透き通るような瞳…逆にこちらの考えが見透かされそうな純真な(まなこ)。俺は鑑定眼を解いてウェンの前に手を出す。ウェンはその手を見て戸惑っているようだったが、「教えてやる」と俺が一言いうと嬉しそうに俺の手を両手で包み込み優しくだが、力強く握ってくれた。


「よろしく頼む。アッシュ!」


「あぁよろしくなウェン。」


もしかしたら、コイツと会ったのは何か俺の運命が変わったことの暗示だったのかもしれない。


─────────


なんやかんやで和解、そして互いを同行者としたアッシュとウェンは互いに互いのことを教える。アッシュ自身の身の上話、ウェンの目的。(その際自分の中身が異世界出身の転生者ということは黙っている。)仲が少し深まったところでアッシュとウェンは大きな門の前にたどり着く。


「ここは?」


「村出身の奴にはあんま馴染みないかもな。王国の西側…【サーペント】だ。商業ギルドが多くてそのおかげで中央よりもいい品物が手に入りやすい。」


「ほう…」


二人が門の前で感心していると門番が出てきて二人の前で仁王立ちをする。



「そこの二人!門の前で何をしてる!通行の邪魔になるから入らないのならどっかいけ!」


「悪いね。連れが村出身だから【サーペント】について解説してたんだよ。それじゃ、行こうぜ。」


二人は門番を超えて【サーペント】へ入ろうとすると門番は他二人の門番へ指示を出して二人を止める。


「……なんだよ。入るって言っただろ。」


「お前ら、何が目的でここへ来た?一人は犯罪歴のない盗賊にそしてもう一人は作物を持たない農家……何が目的だ?」


アッシュが戸惑っているとウェンが首をかしげながら何気なく口を開く。


「目的はない。強いて言えば、強い者に会いたい。そして願わくば手合わせしたい。それだけだ。」


ウェンの言い分に門番は首をかしげてもう一度、二人の情報を鑑定眼で見て顔を見合わせる。


「作物を売りたいの聞き間違えか?もう一度聞く……目的は?」


ウェンはもう一度同じことを言うとアッシュは額に手を当てて天を仰いだ。


「何か私は変なこと言ったか?」


「いや、俺なら別に通しているが……世の中が世の中だからな。こりゃ、大目玉もんだぜ。」


アッシュの言葉に続いて門番が眉間にしわを寄せて大きな声を上げた。


「不審者二名!直ちに確保しろ!!」


アッシュはすぐにスキル:神速を使用しその場から逃げる。ウェンも同じく門番の間をくぐり門から離れた。


「ダメだったか~」


「そりゃあな……それよりももう、この辺は来れないぜ。」


「それじゃ、どうすりゃいいんだ?」


「お前、強い奴と戦いたんだろ?やっぱ冒険者になることをお勧めするぜ。そっちの方がより強い奴に会えるからな。」


「だが、父からは聞いた話だと、自由度は少ないと言われたぞ?」


「そうだな。自由度は低い。だが、その中にも自由はある。好きなクエストを自由に選べる自由とか、依頼に応じて金額が変化する職だからその時の依頼料とかを自由に提示できる。」


「……だが、やっぱり傭兵のような職が性に合っているような気がするんだよ。私は。」


「傭兵はまず、王国騎士団に入った実績が必要になるぜ?そうじゃないとやっぱ誰も個人になんて依頼しないぜ?」


「そう…か……ギルドに入るにはどうすればいいのか教えてくれ。」


「いいぜ。だが、一緒にはいけない。」


「なぜ?」


「いや、俺のジョブを見たらわかるだろ?盗賊だぞ?公式に犯罪歴がないとしても「過去に盗みをしたことがある」って自分から公表してるようなジョブだぞ?」


「気になっていたのだが、ジョブは一生変わることはないのか?私のいた村では王国直属の協会の人が来て再選定というものがあるぞ?」


「それは、村、町、国保障のおかげでできてるだけだ。普通に再選定すると金がかかるんだ。俺はその三つのどこのコミュニティにも所属してないからな。再選定には多くの金貨がいるってわけだ。……それに、再選定してもお前は農家だったんだろ?」


「……そうだな。」


「国直の協会が再選定してもなお、農家ってことはお前は一生農家ってことだろ……いやそれよりもだ。俺は一生盗賊だ。だから一緒にギルドとかにはいけない。」


ウェンはしょんぼりとした様子で肩を落とす。ある程度距離が離れた二人は逃げ足を解除してそのまま歩いて何かいい案はないかを思案する。


「こうなったら、一か八かだな。」


「何かいい案があるのか?」


「あるぞ。」


アッシュは一枚の紙を懐から取り出してウェンへ広げて見せる。その内容はギルドからの招待状だった。


「ん?ギルドからの招待状?さっきの話と矛盾してないか?」


「お前……本当に村の中だけで育ったんだな……」


悲しそうな顔をしたアッシュは招待状を渡してきたギルド名について解説を始める。


「このギルドは特定の団体と提携している公営ギルドじゃなくて、ギルド長個人ですべてを管理している自営ギルドだ。それに加えて名前があの【灰影(はいえい)の旅団】と来た。これは断る一択だ。」


「【灰影(はいえい)の旅団】?」


「これは異名というか……通称というか……正式名称は【グレイ・ガレージ】…ギルド長グレイ・ハウンケルの管理のもと、合法から違法の範囲で依頼をこなす黒か白かわからないギルドだ。」


「違法ギリギリのとこでは働けないとはやはり根はいい奴のようだな。」


「なんでこのタイミングで俺を褒めるのかは分からんが、とにかくこのギルドは絶対にダメだ。世間一般でも公営ギルドの方がもっといっぱいいい依頼もある。どれも法律の範囲内だ。」


「……ん~私は別に白でも黒でもどっちでもいい。私より強い奴がいればそれでいい。そのためなら秩序ギリギリ(グレーサイド)でも問題ない。」


「戦闘狂がよぉ……」


アッシュは長考の後に大きくため息を吐いて招待状に血印を押す。それを合図に一羽の白い鳥が目の前に飛んでくる。その鳥の足に招待状をくくりつけるとアッシュは鳥を空へ大きく放り投げた。


「これで一応、返事はした。お前が覚悟決めたんなら俺も決める。お前が【グレイ・ガレージ】に入るなら俺も入る。返事は多分すぐに来る。それまでのんびりと過ごそう。」


「それにしても自営とはいえギルドから招待状をもらえるということはそのギルド長は見る目がある。」


「そうか?俺はそうは思わねぇがな……」


ここから返事の鳥が来るまでの一週間、二人は道なき道を歩き時にはモンスターを倒しながら目的もなく過ごすことになるのだった。



用語解説


【王国】

正式名称【サーガレオ】

西【サーペント】東【ガルーダ】北【レオネッサ】南【オーバルンズ】中央【サーガレオ】の五つからなる大国。西の商業、東の工業、北の自然に南の娯楽とそれぞれの役割を果たし、国を支えている。中央では安定した暮らしが送れるということでこぞって引っ越してこようとする人が多い。

今回二人が来た西側の【サーペント】は様々な商業が活発で、さらに西側へ行くと船で交易も行っている。海の支配者のような交易っぷりに【サーペント】と名付けられた。


【グレイ・ガレージ】


自営ギルドで【灰影(はいえい)の旅団】と異名がついている違法と合法が渦巻くことで有名なギルド。ギルド長のグレイ・ハウンケルが何でも屋として始めたギルド。言われているように違法な依頼も、法律内の依頼もなんでも引き受けるギルド。人数も少ないと噂なので違法の依頼も無理やり受理させられるという噂もある。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ