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最強老人、初の対人戦

村人はライカを探しながらウェンが入っていった森を気にする。次第に村の人々は森の入口周辺に集まり始める。日が真上に来る頃、森の奥から走る足音が聞こえてくる。全員がその足音へ目を向けると【星座の夜の華】を握りしめたライカが出てきた。それを見たロウジィは真っ先にライカへ駆け寄り抱き寄せる。


「ライカ!すまなかった…!」


「お父さん!私の方こそごめんなさい!これ、【星座の夜の華】。これで依頼の装飾ができるよね?」


「ライカ……お前という娘はなんと……」


村の皆はそんな光景にほっこりしながらも一緒にいるはずのウェンの姿がないことにウェンの父はライカへ駆け寄る。


「ライカちゃん。うちのウェンと一緒じゃないのか?」


「ウェン君は私を助けてくれた後にフォレストキーパーを足止めするって……」


ウェンの父は目を大きく見開き森へ足を向かわせるが村の人々に慌てて止められる。しかし、ウェンの父は必死に森へと入ろうとする。


「離せ!ウェン!ウーウェン!」


「テンプルトンさん!やめとけって!ディープフォレストの中には猛毒を持つモンスターだっているんだ!農家のあんたがいっても無駄だ!」


ウェンの父はそれでもディープフォレストの中へ入ろうと足を踏む。その時、鎧の人物が森の入り口に向かってくる。村人はその人物を見て一斉に下がる。


「おい…白い鎧に黒鉄の大剣……Aランク冒険者の銀の閃光(フラッシュ)だ…!」


銀の閃光(フラッシュ)と呼ばれる鎧の人物は村人の元へと近づく。村人たちはウェンの父以外は後ろへ下がる。ウェンの父は銀の閃光(フラッシュ)の威圧感に負けずに見つめ返す。


「あんた、冒険者なのか?」


「…そうだ。Aランク冒険者だ。とある依頼を受けてここへ調査しに来た。」


ウェンの父は祈るように銀の閃光(フラッシュ)の目の前で膝をつく。


「冒険者さん。金はいくらでも払う……うちの息子をたった一人の息子をこの森から救出してくれ…大事な、大事な我が家の宝なんだ……」



銀の閃光(フラッシュ)はウェンの父と目線を合わせて肩に手を置き優しく声をかける。


「承知した。ただし、金ではなくこの村にある食料を少し分けてもらいたい。それでいいか?」


「……!わかったいくらでも持って行ってくれ!」


銀の閃光(フラッシュ)はそのまま立ち上がるとディープフォレストの中へと足を踏み入れていった。村人たちはそれを見送ってウェンの父は慌てて食料の準備を始める。


「みんなすまない。干し肉が余っている者がいたら分けてほしい。俺は水を用意する。」


声を聞いて真っ先に動いたのはロウジィだった。任せてくれと大きな声で言い放つと、全力で自宅の方へと走っていった。それにつられて村人たちも走り始めた。


【ディープフォレスト】


薄暗い森へ入った銀の閃光(フラッシュ)はさっそく森の調査をしながらウェンを探す。森の調査依頼というのは、最近初心者向けダンジョンの【ディープフォレスト】から初心者冒険者がボロボロで戻ってきて冒険者をやめていくことが多くなったため調査を依頼されたのだ。聞いた話によるとモンスターのレベルが格段に上がっていること、そしてモンスターのスキルが多くなっていること。その二つの真相を探ることが目的だ。

数分歩いてると、確かにレベルが高いフォレストウルフやツリースパイダーが多く見られるが、別に初心者が大苦戦するほどのレベルではない。スキルも確かに多いが、これも苦戦する程ではない…銀の閃光(フラッシュ)の主観ではなく、きちんとギルドが定めた項目を頭に入れてなおこの感想が出てくるのだ…つまり、初心者冒険者の質が下がっていると結論付けることができるが、まだ調査の余地はあるのかもしれない。そう考えながら進み、ウェンの姿を探す。


「暗い麦色の髪、小柄、半袖短パン…どこだ…?」


辺りを見渡しながら探していると打撃音と共に【番人モンスター】特有の魔力を感じて足早に向かってみると村人が言った特徴と同じ少年が【番人モンスター】であるフォレストキーパーと戦闘をしているのが見えた。10歳前後の少年が戦闘しているのもそうだが、一番驚いたのはそのステータスだった。


【ウーウェン・アレクサンダー・テンプルトン】


ジョブ:農家 レベル1


スキル:鑑定眼


このラインナップでフォレストキーパーに瞬殺されるどころか、戦闘を楽しんでいるようにも見える。銀の閃光(フラッシュ)は戦闘へ入ろうと柄に手をかけるが感じたことのない威圧感に動けなくなる。フォレストキーパーが出している威圧感だと思い無理にでも身体を動かそうとしたが気づく、この威圧感はあの少年から出ているものだ。と……

結果、銀の閃光(フラッシュ)はその戦闘を見守ることしかできずその場から動けなかった。数分戦闘を見る。少年はたぐいまれな身のこなしでフォレストキーパーの速射【矢】を軽々とよけて距離を詰めていく。そして、懐に入ると拳を前に出してフォレストキーパーの腹部へ命中させてフォレストキーパーを見事撃退した。フォレストキーパーは踵を返して森の奥へ消えると少年も踵を返して歩き出すがすぐに倒れてしまった。


「あのフォレストキーパーを…一撃で……この子は一体……?」


少年を抱き上げると銀の閃光(フラッシュ)はそのまま森の入り口に向かって歩いて行った。その間、全くモンスターに遭遇することなく無傷で帰ることができた。村へ戻るとウェンの父が駆け寄ってきた。


「ウェン!ウーウェン!」


銀の閃光(フラッシュ)の腕からウェンを抱き寄せると銀の閃光(フラッシュ)に向かって感謝をする。何度も頭を下げて涙を流しながら何度も何度も頭を下げる。そして、銀の閃光(フラッシュ)に依頼料の食料を渡す。


「本当にありがとうございました……無傷でどれほど大変だったか……」


ウェンの父の言葉に銀の閃光(フラッシュ)は首を横へ振って訂正する。


「無傷なのは、その少年が自分で身を守ったからです。私はただ、みていることしかできなかったんです……」


言葉の真意を問おうと首をかしげると銀の閃光(フラッシュ)は森であったことを事細かにウェンの父へ話す。村の人もウェンの父も銀の閃光(フラッシュ)の話を聞いてだんだんと目を大きくしていく…話が終わると皆はウェンへ視線を向ける。


「この子がフォレストキーパーを追い払ったのか……?」


「でも、非戦闘ジョブで、なおかつスキルも持ってない12歳の子供だぞ?そんなことがあり得るのか?」


「だが、Aランク冒険者さんが言っているんだ…本当なんだろう……」


銀の閃光(フラッシュ)はその様子を見てウェンの父へ再び声をかける。


「どのような稽古をつけたのかは知りませんが、このようなことは初めてです。もしかしたら冒険者になれる素質があったのかもしれません。では、私はこれで……」


銀の閃光(フラッシュ)はそう言って村を後にした。


ここから六年、ウーウェンが18歳の時まで時間が飛ぶ─────────。


いつものように農作業を終えたウェンは父へ声をかけてディープフォレストの中へと入っていった。あの騒動のあと、ウェンは村人たちに銀の閃光(フラッシュ)が言っていたことが本当かを問われて何食わぬ顔で首を縦に振っていつもやっている修行のことも伝える。それを聞いた父は少し考えてから渋々、ディープフォレストの中へ行ってフォレストウルフを一匹倒してここへ持ってこいと無理をいうとウェンはすぐに森へ走っていきフォレストウルフを一匹生きたまま戻ってきた。そこから父の対応は早かった。農業を続けることを条件にウェンだけディープフォレストの中へ出入りを許可した。ウェンは目を輝かせて父へ勢いよく抱き着き大変歓喜した。そして一年、年齢を重ねるごとにディープフォレストの草を刈ったり木を伐採して風通しを良くして専用の修行場も作ったりした。


「父さん。修行に行ってきます!夕飯までには帰ってきます!」


「あぁ!十分気を付けてな!」


最初こそ違和感があった父を含めた村人たちだがそれにも大分慣れてきた。今ではディープフォレストから大きなツリースパイダーを運んできてもウェンなら普通か…と気にしなくなっていた。一方のウェンは修行場が増えたことで一層強くなり今ではフォレストキーパー相手に99勝99敗99引き分けのとてもよい勝負をするようになっていた。今日もフォレストキーパーと戦うために森の奥へ向かっていた。


「さぁて…すぅ……おぉーい!エテ公ぅ!!今日も来たぞぉぉ!」


森の中へ響いたウェンの声を聞きつけて奥からエテ公ことフォレストキーパーが出てくる。木漏れ日に照らされた白い毛が揺れるとフォレストキーパーはウェンに向かって矢を何本も放つ。最初に対峙したときは毒の矢などを放っていたが、毎日ウェンが来るのを見て状態異常の矢を使わずにただの矢を使ってウェンのいうことを聞いているように思える。


「……はは、相変わらず強いな…だが私とて、負けてはいられない!」


ウェンは距離を詰めてフォレストキーパーへ向けて拳を乱打する。フォレストキーパーは攻撃を避けられずにウェンの乱打を受けてその場に膝をつく。


「今日は私の勝ちだな。これで、100勝99敗99引き分け……私の勝ちだな!」


フォレストキーパーはため息を吐きながらその場に仰向けになる。ウェンは爽やかに笑いながらフォレストキーパーに【ディープフルーツ】を何個か渡す。フォレストキーパーはそれを食べると余ったフルーツをウェンに渡して一緒に【ディープフルーツ】を食べる。


「…なぁ、エテ公。私はそろそろ村を出て旅に出ようと思うんだ…いつまでもここでのさばっているわけにもいかないし、なにより私はもっと色々な強者と戦いたいんだ。」


「おあ、おあお、あおあ(いいと思うぞ。我に勝てたのなら他の奴にも勝てるだろう。)」


「応援してくれるのか。エテ公。ありがとな。今日、父さんと母さんに話してみるよ。もしかしたら、明日から来なくなるかもしれないが、寂しがらないでくれ。」


「おあ、あお、あお、おおあ(ふん、清々するわ。毎回森に来ては秩序を乱しおって……)」


フォレストキーパーは少し涙ぐみながらフルーツを食べ終えるとすぐに立ち上がって森の奥へと消えていった。ウェンはその背中を見送ったあと「ありがとう」と一言いって深々と礼をしてディープフォレストを後にした。空が赤くなるころ、夕飯の匂いが立ち込め始める村の中へと戻り、ウェンは汗を流して食卓へ着いた。神妙な面持ちに父も母も何かを察しており、ウェンが口を開くまで黙々と食事を続けた。夕飯が始まり数十分、ウェンは器を置いて口を開いた。


「父さん。母さん。お話があります。」


「……なんだい?」


「遠慮なく言ってみな。」


二人の優しい視線を感じながらウェンは息を整えてゆっくりと口を開いた。


「明日、この村を出て行こうと思う。」


「……それで?」


「より強い相手と手合わせをしたんだ。」


「冒険者になりたいわけじゃないの?」


母の問いかけにウェンは首を横に振る。どちらかと言えば傭兵のような生活だと伝えると両親はうなずいて相槌を打つ。ウェンが話を終えると母は奥へ入ってしまって、父は口を開く。


「冒険者なら安定して生活ができるんだが、お前ももう18歳だからな。それがお前の出した答えなら文句はない。しかし、アドバイスをしておくと傭兵よりも冒険者の方がいいと思う。まぁ最終的に決めるのはお前だから俺は何も口出しはしない。」


「ウェン!これを持っていきな!」


奥から母が出てくると鞄と長袖長ズボンを投げつけてきた。村では見たことのないきれいな絹の服にウェンは目を見開いて母へ視線を向ける。


「心配することはないよ!これくらい買えないで何が親だ!明日の朝出発するんだろ?」


ウェンはうなずくと父と母に抱擁してそのまま日没になって就寝した。そして、明け方。村の人たちはウェンを出迎えていた。


「みんな!」


「よぅウェン!もう出発だろ?」


「頑張れよ!」


皆に見送られながら村の入り口まで来ると奥から赤紙を揺らしたライカが走ってくる。ライカは村人を押しのけて前に出るとウェンの手を握る。


「ウェン君!これ、お守り!」


手に握らせていたのは、青い花びらの首飾りだった。見覚えのあるその花びらを見てウェンはライカの手を握り返す。


「ありがとう。ライカちゃん。大事にするね!」


「ウェン君、いつか私も【王国装飾師】になるからいつか会おうね!」


「あぁ、いつか会おう!」


そして、ウェンは村から無事出発した。村を出て数時間。あぜ道を歩いていると冒険者とすれ違って挨拶を交わしたり、時々出てくるモンスターを倒しながら進んでいく。父からもらった地図を見るとここから近いのは冒険者が準備をするための町だ。いまだに傭兵になるか、冒険者になるか迷っているウェンはうなりながら歩いている。


「……父さんの言うように冒険者の方が安定して稼げるし、強い相手とも戦えるよな……でも傭兵の方が自由にやりくりできそうなんだよな……ん~……」


「おうおう、そこの農家の兄ちゃん!ちょっと待ちな!」


ウェンの前に出てきたのはいかにも盗賊だと言わんばかりの恰好した男がダガーを構えていた。ウェンはその男と目を合わせると数分間止まる。


「おいおい、何ボーっとしてんだ!このダガーが見えないか!?」


「いや、見えてるがそれが?」


「お前、この盗賊王アッシュ・カイザーを前にして驚かないとは肝が据わっているな……」


「盗賊王……ほう、強いのか?」


「……?強いに決まっているだろ!お前はレベル1の農家、俺はレベル34の盗賊だぞ!お前が勝てるわけ……」


アッシュの言葉を遮るようにウェンは懐へ潜り込み、そして拳を構える。アッシュはその行動が理解できず首をかしげる。


夢想拳掌流むそうけんしょうりゅう百華乱撃(ひゃっからんげき)!」


アッシュはそのままウェンの拳を腹部に何発ももらい吹き飛ばされた。宙へ舞うアッシュは落下の風で気を取り戻して急いでスキルを発動させて空中でウェンから距離を取って着地するが、着地点にはすでにウェンがおり拳を構えていた。


夢想拳掌流むそうけんしょうりゅう大雷八卦(だいらいはっけ)!」


固めていた拳を素早く広げてアッシュの腰へ掌底を叩きいれる。アッシュの腰に雷のようなしびれと衝撃が来ると着地できずに再び吹き飛ばされる。



「こいつ…なんなんだ……!スキルも使っている様子もない!レベルも1だし、ジョブは農家だ!なんだコイツ!何者だ!」


次はうまく着地したアッシュはダガーを逆手から順手に持ち替えてダガー通しをクロスさせてスキルを使う。


「スキル:クロス・スラッシャー!!」


夢想拳掌流むそうけんしょうりゅう……」


向かってくるアッシュに対してウェンは手を広げて構えてアッシュをギリギリまで引き付ける。アッシュのクロス・スラッシャーの間合いまで来るとウェンはアッシュの手だけを捕まえて合気道のように相手の力を利用して大きく投げた。


葛葉(かずらば)投げ【合気】」


アッシュはそのまま背中から地面に落ちると素早く立ち上がりダガーを構えるがウェンはダガーを叩き落として押さえつける。


「これで私の勝ちだな。」


「何言ってやがる!死んでないならまだ負けてない!」


その言葉にウェンは転生前の弟子の言葉を思い出して口角が上がる。そのまま手を離して距離を取る。


「……確かにそうだな。」


「攻撃してこないのか……?」


「殺しはしない。私の目的は手合わせだ。」


「……へ、とんだ甘ちゃんだぜ。俺に仲間がいたらどうするんだ?」


「いや、君の視線の動きから仲間はいないと判断した。」


アッシュは警戒を解いてダガーをしまう。そして肩の力を抜くと呆れた顔でウェンへ近づく。


「お前、意味が分からんな。なんでジョブとかレベルとかスキルとか使ってないのに俺に勝てるんだよ……」


「そのスキルとかレベルとかジョブとかどういう仕組みなのか私は知らない。私はただ、肉体を鍛えていただけだ。」


「余計に意味が分からん」



こうして、ウェンこと宮元 無蔵が転生して初の対人戦は見事勝利を収めた。




【キャラ情報】


【アッシュ・カイザー】


ジョブ:盗賊 レベル34


スキル:神速

   :ダガースラッシュ

   :縮地歩法

   :静足

   :クロス・スラッシャー

   :奪取


スラム街出身の少年。




【ジョブ解説】


【盗賊】

文字通りお尋ね者のジョブ。よく勇者パーティとかのシーフと間違えられるが全くの別物。人から金品を奪って生活をしている悪党である。スラム街出身が多いジョブ。協会から選定を受けずに何度か盗みを繰り返すと自然と【盗賊】ジョブを取得することができる。大体賞金がかけられているため町ではあまり見かけない。【盗賊】というジョブだけで警戒されるため色々と工夫が必要である。


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