Episode.6 帝国の影、初めての刺客戦
ギルドからの新しい依頼を受けた私は、レオン、アルス、そしてラムと共に街の外へと足を運んでいた。
今回の依頼は「街道を荒らす小型魔獣の群れを討伐する」という、ごくありふれた討伐任務。資金を稼ぎつつ、工房のための信用を積み上げるのにちょうど良い案件だ。
「ネルフィ、街道に人影は見えない。護衛対象はいないから、純粋に殲滅戦だな」
「うむ。周囲に魔獣の気配が複数反応。ネルフィ様、数はおよそ二十体前後と推定されます」
アルスの透き通った声が耳に心地よく響く。執事の服を着た黒猫の姿だというのに、その冷静な分析は本物の軍師そのものだ。
やがて茂みの中から、牙をむき出しにした魔獣の群れが飛び出してきた。
「ラム、いくよ!」
「ぷるるっ!」
私の号令に、スライムのラムが弾けるように飛び出した。表面から生えた触手が魔獣に巻き付き、瞬く間にその動きを止めていく。取り込んだ素材を元にした力だ。
そこへレオンが駆け抜け、呪われた剣を一閃――黒い軌跡が走り、数体のロックウルフが音もなく崩れ落ちた。
「ふぅ……これで依頼は完了、かな」
「ネルフィのおかげで楽勝だったな。やっぱりすごいよ、君は」
笑うレオンに、私は軽く肩をすくめて返す。――その時だった。
ひやりとする殺気が、風に乗って背筋を撫でた。
「ネルフィ様、後方より複数の高速接近反応。戦闘……開始の兆候ありです」
「……来たか」
森の影から、黒衣の一団が姿を現した。仮面をつけた戦士と、黒い鎧をまとった騎士。その中央に立つのは、痩せた長身の男。
「ネルフィ・アウルディーン……ようやく見つけたぞ」
乾いた声が森に響く。
「……腐蝕帝国、ヴァルガルド」
私は呟いた。間違いない。あの帝国が私を狙って刺客を放ったのだ。
「ネルフィを狙うってことは……俺の兄弟か、その手下か」
レオンの声は低く、憎悪を押し殺したものだった。
「やれ。生かしては帰すな」
刺客の合図とともに、数人が同時に飛びかかってくる。
「レオン、正面は任せる! アルス、ラムは後方のカバー!」
「了解いたしました、ネルフィ様」
「ぷるる!」
私は懐から圧縮魔導具を取り出し、地面に叩きつけた。瞬間、光の網が展開し、迫る刺客の動きを鈍らせる。
「なっ……これは!」
「最新式の電磁封鎖網。特許はすべて私のもの。盗用は禁止されてるはずだけど?」
皮肉を口にしながら、私はもう一つの魔導銃を構え、狙撃した。銃声ではなく、青白い閃光が走り、敵の武器を焼き切っていく。
レオンは黒き呪剣で正面から敵を叩き伏せ、ラムは体を膨張させて二人を飲み込み、窒息させていく。アルスは黒猫の姿のまま、影のように動いて後方を撹乱する。
「……チッ、小娘が!」
中央の長身の男が動いた。周囲の木々が腐蝕し、葉が瞬く間に枯れていく。
「腐蝕魔法……やはりヴァルガルドの血筋か」
レオンが苦々しく呟いた。
私は息を整え、次の魔導具を展開した。
「これ以上、あなた達の好きにはさせない。――私はネルフィ・アウルディーン。奪われるだけの人生はもう、御免なんだから!」
閃光と轟音が森を照らした。刺客たちの影がゆらめき、戦いはさらに苛烈さを増していくのだった。