Episode.2 呪われた王子との出会い
冒険者ギルド――街の冒険者や傭兵が依頼を受ける拠点であり、裏社会とのつながりもある雑多な場所。
私とアルスは、そこで新しい生活の第一歩を踏み出そうとしていた。
「ネルフィ様、登録用紙はお済みですか?」
黒猫姿の人工精霊アルスが、まるで本物の執事のように私の肩に乗って耳打ちする。
「ええ。これで……私も冒険者、か」
胸の奥で小さな高揚感と、不安が入り混じる。
ギルド職員が無表情に印を押す。
私は正式に“ハンター”として登録された。
◆◇◆◇
初依頼は、近郊の森に出没するEランク魔獣の討伐。
単純だが、資金も装備もない私にとっては願ってもない依頼だった。
「ネルフィ様、戦闘は危険です。……レオンハルト殿を誘うのは得策かと」
「ふふ、アルスもそう思う?」
私の視線の先には、昨日出会った呪われ王子――レオンの姿があった。
彼は周囲から避けられ、孤独に依頼掲示板を眺めていた。
けれど私は分かる。あの人は誰よりも誠実で、優しい。
「レオン、よかったら一緒に行かない?」
「俺が……ネルフィと?」
一瞬驚いた彼は、すぐに頬を赤らめ、深くうなずいた。
◆◇◆◇
森の中。
フォレストウルフの群れが姿を現す。鋭い牙を剥き、こちらへ突進してきた。
「来るわよ!」
私は即座に錬金魔法の触媒を取り出す。試作品の粘液コア――
「錬成開始! 起動――《キメラスライム》!」
粘液が膨らみ、光を帯び、青白いスライムが跳ねた。
「ぷるるん!」と愛嬌たっぷりの鳴き声。
「……おお? 喋った?」
「いや、まだ音だけ。でもいずれは言葉を……!」
スライムはウルフの牙を飲み込み、その性質を取り込んで強化されていく。
私は思わず笑った。
「名前はラム! これからは工房の仲間よ!」
◆◇◆◇
激しい戦闘の最中、レオンが呪いの力を解放する。
黒い霧のような瘴気が身体から立ち上り、触れた魔獣の生命を吸い取っていく。
「レオン、それ……」
「……嫌われるだろう。俺の力は、命を奪う呪いだから」
彼の声には深い諦めが滲んでいた。
けれど私は首を振る。
「いいえ。あなたは、私を守るためにその力を使った。
なら、それは立派な“武器”よ」
一瞬、彼の瞳に光が戻る。
その視線は、私を見つめ、まるで誓いを立てるように強くなる。
「ネルフィ……俺は、あなたのために戦う」
戦闘は勝利。
こうして、私たちの冒険は本格的に始まったのだった。