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第3話 自動車学校での出会い 苦悩 芽生え

時は高校時代に戻る。


隣を歩く由里子は、高校から友達になったので、私の小、中学校のトラウマになった出来事を知らない。

まぁ、言ったとこで


『ふーん。別に興味無い』


で終わるぐらいサッパリした性格の持ち主だ。

物事に対しても、人に対してもハッキリしているから羨ましくもある。

私はなかなかハッキリ自分の気持ちを言えないとこがある。


話を元に戻すが、先ほどの同級生男子の悪ノリで同級生男子が苦手になった事や、話せなくなったのはもちろんあるが、歳上だと恋愛の対象ではなく憧れの対象になりやすく、自分も楽だと思うようになったのがある。

それに仮に話していても歳が離れすぎてるから冷やかされる心配もないなと。


今後、私が万が一誰かに告白されても、こちらが誰かに告白するにしても、自分の気持ちを言えないのは変わらない。

つまり断るのも、言うのも出来ない。

それで色々悩むのも嫌だ。

もう面倒なことには巻き込まれたくないという言葉のが正しいのかもしれない。


その点由里子は好き、嫌いがハッキリしている。

ただ、ハッキリし過ぎて敬遠されてるのはあるみたいだ。


由里子はスタイルが良く、身長も私より少し低いが、それでも168センチ程ある。

由里子の顔は、目鼻立ちがハッキリしている。

特に黒目が大きく更に目が大きく見える。肌は色白で小顔。髪はよく手入れされていて黒髪のロングの髪をポニーテールしていた。セーラー服のスカート丈も程よい短さに調整していて、そのセーラー服から見える足も白く、また程よく筋肉もあり足フェチの私から見て綺麗なのだから、大多数の人も同じように思っていると思う。


同性の私が見ても守ってあげたくなるような見た目の持ち主だが、その見た目とは違い中身は正に竹を割ったような性格。


高校入学から彼女をよく知らない男子が見た目だけで告白してこっぴどくフラれているという光景を何度見てきたかわからないほどだ。

それは高校の男子生徒の間で広まり、由里子の事を高嶺の花だと思う人が増えてきて、由里子に告白する強者も高3の今ではいなくなった。


由里子自身も、今は恋愛に興味ないという感じだ。

モテるのに勿体ないとは思うが、当人が良いなら良いのだろう。

そんな由里子と喋りながら、私達は次の授業の為移動教室へと向かった。



それから数週間後に私は初めて自動車学校に向かった。

地元が田舎なのもあり、自動車学校は1校しかない。高校からは少し遠かったが、自転車で行ける距離だったし、家からだと歩いていけない距離ではなかったので良かった。


『あー!ドキドキする〜』


自動車学校への道のりの途中にある川沿いの土手の道を自転車のペダルをゆっくり漕ぎながら、私はそう口に出した。


私の行く自動車学校は、入校する時に担当の先生が決まっているらしく、自分では選択出来ないそうだ。

人気の先生や、ちょっと怖いから嫌だと噂される先生もいるので、公平に学校側が先生を割り振るらしい。

まぁ、学校という名前だからそんなものなのかもしれない。


ただ生徒の事も考えているらしく、どうしても合わないとなった場合は、申し出すれば先生を変えて自分の希望の先生になるようだ。


(私の担当の先生はどんな人かなぁ〜。優しいと良いなぁ〜。いや、神様どうか優しい人でありますように!)


最後は神頼みをしながら自転車を走らせていたらあっという間に自動車学校に着いてしまった。


自転車置き場に自転車を停めようと向かうと、私と同じ高校の生徒や、他校の生徒、その他わたしより少し歳上の一般の方がいた。

その人達をチラチラと見ながら私は


(みんな免許取りに来たんだよね?)


等とこの場所に来てそれ以外の目的等あるか!とツッコミたくなるような事を思っていた。


同じクラスの友達も今日の時点ではいなく、1人ドキドキしながら学校へ入った。

学校の中は建物は自体は古いが、綺麗に掃除されており書類も整理整頓されていて清潔感があるなと思った。


(さて、まずどこに向かってよいのやら)


私はどうして良いかわからずキョロキョロしてると、近くの女性事務員の方から


『こんにちは。今日が入校日?』


優しく聞いてくれた。


『あっ、はい。今日からです。説明会があるから15時に来てと言われて来たんですがどうしたら良いですか?』


と話すとその事務員さんは丁寧に説明してくれて、私はその日の入校説明会を無事に終えた。


第一関門突破したから、次は第二関門の担当の先生発表になった。

それぞれ名前の横に担当の先生の名前が書いてあった。

こんなドキドキしながら自分の名前を探すのは合格発表以来だ。


『あった!』


私の名前が書かれている部分を見つけて思わず大きな声が出た。

他の人は我先にって感じで見に行ってた中、私は人混みが苦手なのもあり人が引いてから行ったので、周囲には人が2〜3人しかいなかった。

ただその人達もお喋りに夢中で私の声は聞こえてなかったようだ。


(ふぅ〜、初日早々変な奴と思われなくて良かった)


安堵し、改めて担当の先生の名前を確認した。


私の担当先生は松成先生とあった。

まさか、この時はこの先生が私にとって、この先の人生で記憶に残る人になるとは夢にも思わなかったのだ。




自動車学校は、行き始めて知ったが私の地域では車校(しゃこう)と呼んでるらしい。

自動車学校とか、教習場とか言うのが長いとか、言いにくいという理由で若い人(この時の私も高校生だから若いのよ)を中心にそう呼んでるらしい。


車校では机上の勉強の学科と実際に車を運転する教習を行う。

学科は複数の人数で指定された教室で行われる。

普通の勉強と違うのもあり難しいと感じている子もいたが、私は正直普通の勉強(特に数学は無理、今も無理…(泣))が苦手だったので、逆に車校の勉強はとても楽しかった。


問題は教習の方なのだ…。

えっ?普通は勉強より運転のが楽しいんじゃないかなって?

まぁ、その理由はこの後出てくるのです…


『はぁ……』


つい深い溜息が出てしまう。

そのため息の理由…つまり教習が嫌な理由は担当の先生なのだ。

私の担当の松成先生は人気のある先生らしく、担当でない生徒からもよく

『松成せんせーい♡』

という、本当語尾にハートが目で見えるぐらいの猫撫で声で女子生徒や、一般の社会人女性が声をかけてくる。


私は正直この先生が苦手だ。

歳は50代ぐらいで年齢的には良いのだが、キャーキャーいつも言われていてうるさくてたまらない。

見た目がめちゃくちゃイケメンとか身長が180センチの高身長とかならわかるが、松成先生は身長は170センチ位でほぼ私と変わらない。顔もイケメンというよりはほんのちょっと童顔だ。目鼻立ちはハッキリというより全体的に全てのパーツが小さい感じ。年齢的な渋さを入れたとしても、渋くてカッコイイよりも可愛らしいという感じだ。

ただ髪の毛は黒髪でフサフサして、少し長めの髪型なのもあり、実年齢よりはすこーし若く見える。

そんな先生が何故人気なのかというと、口調が優しく話が面白いかららしい。


だが、残念ながら私はキャーキャー言われる男性は女性慣れしているチャラ男認定してるので、苦手意識が発動し、教習中話しかけられても


『はい』

『いえ』

『さぁ』


という二文字で会話を終わらせてしまうのだ。

そんな理由もあり先生との教習が苦痛なのだ。



もうすぐ冬休みという時期に、学校で由里子から

『どう?車校は?順調?』

と聞かれた。

『えっ?それ聞く?順調のわけないやん』

とゲッソリした顔で返事をした。


実はあまりにも教習が苦痛で予定を入れてないのだ。

私の行ってる車校は学科は決まった曜日と時間にあるが、教習の方は毎日、その日の当日とその翌日の予定表が張り出されていてそこに自分の都合の良い時間に自分の名前を書き込み、その時間の10分前に教習場に着いて先生を待っておくというルールになっている。


1日に先生の予定が空いていれば教習は2回までなら入れて良いらしく、早目に教習を終えたい人や遠方で何度も来れない人は1日2回予定を入れている。


私は、ここ1週間ちょっとの間で2回しか教習をしていない。

入校してすぐは早めに取るぞ!と思い予約をちょいちょい入れていたが、今は完全なるスローペース。

学科は週に3回あるからその時に教習を入れたら良いのだが敢えて入れずにそのまま帰っている。


(本当ならもうあとは学科少しで教習は終えてる状態なんだけどなぁ…トホホ) 


何て思っていると由里子が


『私、もうすぐ大学の推薦入試の結果が出るんだ。おそらく受かるから、もうすぐ車校デビューよ』


とニコニコしながら言っていた。


(数週間前は私もそんなテンションだったけど、今は苦痛でたまらんのじゃー)

と言いたかったが、そんな事も言えず笑顔で


『そっか〜。車校デビューもうすぐだね』


とだけ伝えるのが精一杯で、直ぐに話を昨日見たテレビの話題に変えたのだった。



『あー行きたくなーい!いやだー!でも免許欲しいぃぃー』


誰も通ってない川沿いの土手を自転車をゆっくり漕ぎながら愚痴を大声で放っていた。


さすがに学科のみばっかりしていてはダメだと思い教習の予約を取りに向かっていたが、嫌だという心の声がダダ漏れだ。

嫌だと思いつつも気付けば車校の自転車置き場まで着いていた。


『はぁ〜』


大きな溜息が出た瞬間


『ふふっ』


と、笑い声が聞こえた。

ふと、横を見ると嫌だーっていう気持ちばっかりが優先して気付かなかったが、他校の制服を着た小柄の黒髪ショートカットの焦げ茶色のフレームの眼鏡姿がとても似合う女子生徒がいた。


『ごめんごめん。溜息がすごいなと思って。つい笑っちゃった。』


その子はニコニコ笑いながら私に話しかけてきた。


『いえいえ!こちらこそ、いきなり入口付近で溜息ついちゃってすみません!』


私は少し早口で謝った。


その子はまた笑いながら


『何で敬語?高校の制服だから同い歳だよね?私は宮近 圭。制服のラインの色が違うから同じ高校じゃないよね?私は鶴峰高校。あなたは?』


と聞いてきた。


『私はみほ。加藤みほ。豊北高校だよ。』


今度は敬語抜きで答えた。


『じゃ、みほちゃんだね。私の事は圭で良いよ。それでみほちゃんは、何で溜息ついてたの?車校嫌いなの?あっ、初対面なのにいきなり色々質問攻めしてごめんね。私、カウンセラー目指していて、人の悩みを聞くのが少し癖になってて』


圭という女子は初対面の人との距離の詰め方が上手く、またカウンセラー志望という事で私の溜息の理由を知りたいようで聞いてきた。


少し迷ったが、人に話すと気楽になれるかもしれないと思い、


『免許は取りたいんだけど。担当の先生がチャラくて苦手なんだ。』


私は簡潔に理由を伝えた。


圭は首を傾げながら


『この車校にチャラ男の先生とかいたかな?若い先生もいるっちゃいるけど少ないし、この車校って年配の先生ばっかだけどなぁ』


と言った。


『担当は松成先生だから若くはないんだけど、あの誰とでも話すのが嫌なんだ。だって、だってね、私が教習する前なのにギリギリまで楽しく話してるんだよ?でも、私との教習の時は全然楽しく喋ってくれないし…』


初対面の圭に私は不満をこぼした。


『ん〜、私も松成先生が担当だけど普通に話すよ?むしろ緊張をほぐすためにどうでも良い雑談してくれる。でもここは危険だよとか、この運転はこうしたがしやすいよ?とかちゃんとしたアドバイスもくれるから助かってる。あの人かなり人気の先生だから、担当になれなかった子達は悔しがってるって噂だよ?』


私は、自分が感じている不満とは違う意見が圭の口から出てきてびっくりした。

また、更に圭は続けて


『みほちゃんさ、松成先生とちゃんと教習以外でも話してる?あの先生、周囲の生徒から人気なのは歳下の子供だからといって無下に扱わないのと、きちんと話を聞いてくれるからだと思うよ?』

と言った。


その言葉に私はハッとした。

そういえば、勝手に松成先生をチャラ男扱いしていた。

先生は私に教習中も、待合室で待っている時も見かけては何度も話しかけてくれていたのに私が二文字返事しかしなかったからかもしれないと気付いた。


『確かに…そうかもしれない…。私ね…』


私は圭に小、中学校で起きた出来事で同年代の男の子が苦手な事や、男の人の近くでその男の人が別の人達と喋るのをみると自分に何か言われてる気がする事を伝えた。


初対面なのもあるが、この圭という子は話しやすい雰囲気を持っているのと距離の詰め方がやはり上手なのもあるのか、同じ担当の先生だという事と、自分がこんな事を悩んでるというのを知ってもらう事で車校に行く気持ちが軽くなるような気がしたからだ。


『なるほどね…』


圭はつぶやいた。


『ん〜。人によってトラウマになる出来事は違うからわからないけど、みほちゃんにとってはそれがかなり強いトラウマなんだよね?

無理にとは言わないけどそれは少しずつ攻略しないと今後困るよ?松成先生は本当チャラ男じゃなくてきちんと人と接することが出来る人だよ?一度その先入観を取っ払って話してみたら?』


とアドバイスをしてくれた。


『あっ!もうこんな時間じゃん!立ち話が長くなってごめんね。みほちゃん教習の予約取りに来たとかなんじゃない?とりあえず予約表だけ確認しに行こう。私は今日は学科メインで教習の予約が空いてればと思って来ただけだから』


『いやいや、私が勝手に身の上相談したからごめーん』会話しながら私と圭は自転車置き場から2人で車校に入った。


中に入ると受付があり、その付近にホワイトボードに予約表の紙が貼られており私はこの後空いてる時間と明日の予定を確認していた。

圭は学科の前に予習するということで、中に入って直ぐに手を振ってわかれた。


(う〜ん。今日だと18時台が空いてるなぁ。今が17時ちょっと過ぎだからこのままここで待つかぁ)


私が予約表を見て名前を書いていると後ろから


『おっ、みほ!』


と声を掛けられた。


振り向くと松成先生だった。

さっき圭に言われたのもあり私は少しだけ先入観を拭い松成先生に対して


『こ、こんにちは。えっと、先生は今の時間は空き時間なんですか?』


二文字以外の言葉かつ、疑問形で返答した。

私にしては頑張ったほうだなと自分なりに褒めてみた


『おぉ。今の時間は空き時間でな。ちょっとコレを吸いに外に出てた』


車校の先生の着る制服の上に着た紺色のジャンパーの右ポケットからタバコを出して私に見せながら笑顔で答えてくれた。


『あっ、タバコとか吸われるんですね。私の母も以前吸ってましたよ。今は止めましたけども』


等とどうでも良い情報を言ってしまったが、とにかく会話をせねばと考えた末の言葉なのだから仕方ない。


『あと…えっと、そう!この後の18時10分からの教習の予約を入れたのでお願いします』


会話が途切れないように何とかしようと色々試行錯誤してたので、スムーズに言葉が出なかったがとりあえず予約した事は伝えれた。


何せ、今までが


『はい、いえ、さぁ』

のこの3つの単語しかして発していなかったから何を会話して良いかわからないのだ。


私がいつもの単語のみではなく、話をしようとしているのを松成先生もわかったらしく


『みほ、今日はたくさん喋ってくれるな。先生嬉しいぞ』


としみじみ言ってきた。


そして何と私に

『みほは俺の事苦手なんだろうなと思っててなぁ。上杉先生に代わってもらおうかなと思ってたんだが大丈夫か?』


と聞いてきたのだ。


やはり、私が苦手というのが伝わっていたらしい。

(え〜、それのが良いかも。でもここで、お願いしますとなると、また松成先生ファンとかに色々言われそうで嫌だしなぁ)

と一瞬悩んだが、松成先生の方に一歩進み


『いえ!大丈夫です!加藤みほ、松成先生と共に免許取得に精進する所存です!』


緊張がMAXで昨日父親と見た時代劇に出てくる侍のような宣言をしてしまったのだ。


これには松成先生も元が小さい目を少し大きく見開き

『ワッハッハッ お前侍か? みほ、お前って意外と面白いやつだな』


大笑いしながら私を見ていた。

先生のそんな大声で笑う姿を初めて見た私は何だか急に嬉しくなった。

いつもは、穏やかなイケオジって感じでどんな生徒にも気さくに話しかけてるが、こんな大声で顔をクシャッとして笑ってるのは見たことがなかったからだ。


(先生ってこんな顔もするんだ…)


私がちょっとびっくりしていると


『よし!じゃまた予約時間に教習車の前で集合な。遅れんなよ〜』 


松成先生は右腕を上げ、右の手のひらをヒラヒラと動かしながら先生は職員室へと戻っていった。


『あっ!はい!よ、よろしくお願いしまっす!』


私は少し声が上ずりながらも職員室へと向かう先生の後ろ姿に向けて言った。


(うわぁ〜。めっちゃ頑張った!変な日本語喋っちゃったけど結果的に良かったのかな?先生、あんな風に笑うんだなぁ…もうちょっと話す事を増やしても大丈夫かも)


自分で自分を褒めつつ、先生への認識も少し変わりながら私は職員室を通り過ぎ、他の生徒達もいる待合室へと向かったのだった。



それから、教習の時間になり私は教習車の前に立っていた。


『ゔ〜、寒い〜。もう12月の下旬に近づいたからかもだけど夕方になると寒さが更に増す〜』


持っていた鞄の中からマフラーを出し首にグルグル巻きにして、手袋をして制服のスカートから出てる足が冷えないようにその場で少し足踏みをして松成先生が来るのを待っていた。


この松成先生はマイペースなとこがあり、私が待っていても他の生徒から声を掛けられたらその場で止まって話をしたりする以外にも、そもそも来るのが遅いのだ。


周りを見ると、私のように教習車の前で待っている生徒はいるが、ほとんどの生徒の近くには既に担当の先生が来られていて、今日の目標やどこのコースを走るかの簡単な打ち合わせをしている。

その打ち合わせが終わると車に乗り込み出発するという形だ。


私の担当の松成先生は、基本的にその打ち合わせは車に乗ってから始めるのでいつも私の教習車のスタートはビリだった。


(先生まだかなぁ)


私が思っていると聞こえたかのように後ろから


『みほ、お待たせ』


笑顔で松成先生が来た。


いつもなら、この時の返事は


『いえ』


で終わらせるのだが、先入観を捨てた私はちょっと違うのだ。


『先生!待ってました!めっちゃ寒いです!早く車に乗りましょう!』


自分の感想を交えた言葉を発した。


『おう、そうだな。エンジンかけて車の中を暖めるぞ〜』


松成先生もいつもと違う私が嬉しいのか、語尾を少し上げて嬉しそうに言った。


その日の教習は今までで1番楽しかった。

まだ仮免を取ってない私は、学校内にある道路での教習となる。


いつもは早くこの時間終われ!って思いながら、ろくに会話もないままの50分が長く感じるのに、今日は色々話した。

私の家が車校から近い事や、好きな食べ物や学校の友達が早く免許を取りたがってる事等々、先生との会話が途切れないようにしたかった。


おそらく、先生的には話よりも運転に集中しろーって感じだったなと今となれば思うが、その時の私は真っ直ぐな道が少しでもあれば先生に話しかけたりしていた。

教習が終わり、車を定位置に置いた。


私の車校では教習の後に、生徒の教習ノートに担当の先生が記録を書くことになっている。


私は、先生がノートに記録を書いている間

(今日はよく話せた 偉い私!)

と、また自分で自分をたくさん褒めていた。


『はい。今日の分の記入終わり。ご苦労さんでした』


松成先生は私にノートを渡してくれた。


『ありがとうございます!また明日も予約入れときます!』


ノートを受け取り、胸の前で抱きしめながら運転席から助手席にいる先生の方に向かって笑顔で話した。


松成先生は


『ふふっ』


と少し笑い、身長の割に少し大きな自分の手の平を私の頭に乗せてポンポンとしてくれた。


一瞬何が起きたかわからずに、私は目を見開いたままフリーズの状態になった。

その間松成先生はスッと助手席のシートベルトを外し車の外に出ていた。


『おーい。みほー、早く出ないと他の生徒と先生が来るぞー』


車の外から私に声を掛け、私は慌てて運転席のドアを開け車の外に出た。


『じゃ、みほ。明日の空きがどっかあれば予約取ってな。家が近いと言っても暗いから帰り道は十分に気をつけるように』


そう言って職員室へと入っていった。

『あっ、はい。わかりました…』


先生に聞こえたかわからないが、私はそう小声で言った。


その後の帰り道、私は自転車に乗りながらさっきの出来事を思い返していた。


(いやいや、何々!頭ポンポンって。男性に慣れてない人にアレしたらダメやん!いや、先生自身はするのが慣れてるからか?いや、だとしても私は慣れてないし!いや、ただの頑張れよって事の頭ポンポンか?そういや、昔親にされた事あるような気もする…。うん!そうだそういう事だ!)


私の頭は人生で初ではないか?って位フル回転し、気持ちを整理していた。

気付けばさっきまで寒かった身体が、顔を中心に物凄く熱くなっていた。

それは、きっとさっきまで乗っていた教習車のエアコンのせいだなとその時の私は自分に言い聞かせて家路へと向かった。


あの日の一件以来、松成先生はいつもと変わらない様子で私に接してくれた。

私もアレは昔、親がしてくれたものと同じだと思い、敢えて先生にはその件は触れずに教習の数をこなしていた。


少し変わったのは、私が先生に自然と話せるようになったことである。

あの日は会話が途切れないようにするのに精一杯だったが、今は運転に集中しつつも先生と軽口が叩けるようになった。


それから数日経って、仮免前の練習として別の先生が担当になった。

仮免の日は、自分の担当の先生が試験官にはならないので、その予行練習として行われるのだ。


その日の担当の先生は、上杉先生だった。

この先生も松成先生同様に、50代半ばの中肉中背の年配の先生で、渋めの顔で声も渋いときた。昔のドラマに出てくる俳優に似ている人だ。


上杉先生はとても気さくな先生だ。

松成先生は女子生徒に人気だが、上杉先生はよく男子生徒から話しかけられていた。

おそらく、バイクも教えていたからだと思う。

車もバイクも乗れるのに当の先生は近所だからというのと、健康の為という理由で唯一車校の先生で1人だけ毎日自転車通勤している。

そんなギャップに生徒は好印象を持ち人気というのもあるらしい。

まぁ、私もその好印象を持っている生徒の1人だ。

上杉先生は学科も教えてくれるのあり、他の先生より話す機会もあった。


(良かった〜。若い先生だと気まずかったけど、上杉先生ならあまり緊張しないな)

等と本人が聞いたら 

『誰が年寄りじゃ!』

と怒られそうな事を一人で考えながら、上杉先生と教習車に乗り込んだ。

順調に本日の目標のコースを回って、停車位置に車を停車し、上杉先生からノートを貰うのを待っていた。

上杉先生は、右手でペンを走らせながら、膝の上に置いた教習ノートに目を落としつつ私に


『そういや加藤。お前トゲトゲしてたらしいな。松成先生から聞いたぞ』


予想外の言葉を投げてきた。


『へっ?私そんなにトゲトゲツンツンしてました?』


その返事に私はびっくりはしつつも直ぐに答えた。


『ツンツンはわからんが、トゲトゲしていて松成先生は俺と担当を変えてもらったが良いかなとボヤいてたよっと。よし!はい、終わり!』


言い終わるのと同時に私にノートを渡してきた。


『そんな話出ていたんですね…。知らなかった』


私はもらったノートを受け取りながら答えた。


『まぁ、年頃の女の子だしなかなか難しいと感じるのはどの先生も一緒だからな。特にお前は俺や他の先生に比べて、松成先生とは殆ど口をきかなかったらしいじゃないか。教習も休みがちだと聞いてたぞ。今は前と違いよく話しかけてくれると松成先生喜んでいたから大丈夫だと思うけども、しっかり教習しないと免許は渡せんぞ。』


最後は私の免許を取るスケジュールまで心配してくれる言葉を発しながら車から降りた。


私も

『あっ、はい!また、予約はしっかり取っておきます!』


と言い、慌てて車から降りた。


(松成先生、私の事色々考えてくれてたんだ…そりゃそうだよね。私の勝手な思い込みでろくに会話しなかったから。もっとちゃんと先生と向き合おう!)


先ほど上杉先生に言われた言葉を振り返りながら、私は予約表がある場所へ向かって行った。


上杉先生からの話を聞いた後、私はしっかりと予約も入れ松成先生とも教習以外で会った際には声をかけるようになった。

先生も私に気付くと小さい目を細めて笑顔になって声をかけてくれてくれた。

私は、いつしか学校に行くのも楽しみになり、学校にもなるべく早目に行って先生の事を目で探す様になっていた。


[先生と話したい!]


[またこの前みたいにみんなとは違う感じで笑って欲しい!]


そう思う気持がどんどん強くなっていった。


今までこんな感情になった事は一度も無かった。

小学生の時は遠目で見るだけで良いと思っていたし、中学に至っては、異性=冷やかされる相手=好きにならない

という変な法則が生まれたからだ。


ふと、私は車校の待合室で自分の教習の時間がくるのを待っている間、高校に入った直後に出来た友達との話を思い出した。

それはその友達に好きな人が出来たや、その好き人がいつか彼氏になって欲しいという話を聞いていた時の事だ。

その頃の私は、好きな人がいて良かったねとか彼氏になるなら楽しそうだよねっていう気持ちはあっても、ちっとも羨ましくなかったし、別に自分は気になる人すらも欲しく無かった。


ただ、その子がいつも言ってたのは


『いつの間にか好きになってた。好きになったら目で追うようになってた』


という言葉だった。


それなら、私も歳上の俳優さんで憧れの人はいたから、


『私も好きな歳上の俳優さんが出てる番組とかをチェックしたりその人が出てるとキャッキャ言ってるからそれと一緒だね』


と友達に話した事がある。だがそれを言うと友達は笑ってこう言った。


『好きになるとね、心がねギュ~ってなるの。その人の事を考えてると心が苦しくなるの。でもね、それは心地よい痛みなんだ。会えたら嬉しいとか、話せたら嬉しいとか考えちゃうんだよ。だから目で追ってるの。みほちゃんもきっと本当の恋をしたらわかるよ。』

と。


今の私は彼女が言った状態だと今更ながらに気付いた。


おそらく私は先生に恋をしたのだ。


先生が初めて大声で笑ったり、頭をポンポンと撫でてくれたり、私の担当変わったが良いかと悩んでくれたりしてくれた事が、私には自分でも知らないぐらい嬉しい気持ちだったのだ。


(うわぁ…私、知らない内に恋してたんだ…)


改めて認識すると胸がこんなにも高鳴るのか?というぐらいドキドキしてきた。


(あと15分で松成先生に会うのに大丈夫なのかしら。待って!今日は風が強くて髪型が乱れてるかもわからないからトイレで確認しとかなきゃ)


私は慌てて鞄を手で抱えトイレへと向かった。

最低限の身だしなみは普段からしているつもりだが、ある特定の人に対して身だしなみをきちんとしょうと思ったのは初である。


(そういや、みんながよく休み時間のたびにトイレに行ったり、手鏡で髪型とか顔のチェックしてたなぁ。

あの気持ちが今やっとわかったわ)


私は18歳という歳で初めて恋する乙女の気持ちがわかったのだ。


好きな人が出来たのは小学生の時以来だ。

でも、その時は遠くで見たりするだけで幸せだった。『恋』

という言葉にするのは早いぐらいの気持ちだったと思う。


少し大人になった今は近くで話したい、可愛いと思ってもらいたいという本当の

『恋』

という気持ちに変化していた。


『髪型よし!顔の汚れも無し!笑顔…よし!』


トイレの鏡の中の私に確認した。


(あっ!もうこんな時間だ!早く教習車のとこに行こう!)


私は左手にしている腕時計を見てトイレから出た。


寒空の中、また他の生徒らが教習車に乗って出発しているのを見ながら、自分の教習車の前で待っていると


『みほ。お待たせ』


松成先生がきた。


先程までの寒さはどこに行ったのか?というぐらいみるみる顔が物凄く熱くなっていた。

おそらく明るいとこで見たら私の顔は真っ赤になっていたと思う。


『暗くて良かった…』


そう呟くと松成先生が


『ん?何かあったか?』


と声を掛けてきた。


『な、何でもないです!さぁ!乗りこみましょう!』

早口で言った。

松成先生は助手席側のドアにかけていた右手を離し、手を叩いて大笑いした。


『乗りこむってお前、戦にでもいくのかって話だよ。やっぱ侍だな』


そう笑いながら言った。


『あ〜、お前たまにオモロイな。よし!時間勿体ないからサッと乗りこんで走るぞ』


松成先生はニコニコしながら教習車の後ろにいる私に向かって言った。


私は心の中でガッツポーズしながら

(やった!また変な事を言ったからかもやけど笑ってくれた)

と思った。


『はい!乗りこみましょう!』

私も笑顔で運転席へと向かったのだ。





第3話になります。少し長くなりましたが、読んでもらえると嬉しいです。また、感想やアドバイス、誤字脱字の報告等ありましたらありがたいです。

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