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6.トメ子、魔王と王子を家族にさせる


「……はい。トメ子さまの仰る通り、お二人の仲はかなり険悪です。もともと、引きこもりのクレメンス様をロイ様は“出来損ない”と見下しておりまして……。クレメンス様もそれを察して、ロイ様には近づかないようにしておられました。かつてはロード様が間に立って、どうにか関係を保ってくださっていたのですが……彼がいくなってからは、仲裁役もいなくなってしまって……。しかも、クレメンス様が“魔王”に就任されたことで、ロイ様の反発はさらに強くなり、お二人の仲はさらに険悪になっています……」

「なるほどねぇ……思ってた以上に、複雑な家庭事情ってわけね……」


空気が少し重くなったそのとき、ルークさんが急に何かを思いついたように私を見つめてきた。ちょ、ちょっと、その顔はやめてよ。嫌な予感がビンビンするんだけど!?

この人、やり手だけど突然爆弾を投げてくるから怖いのよ……!


「そうだ!トメ子さま! お二人の仲をどうか仲裁していただけませんか?」


……は?


「ロイ様をあそこまで満足させたトメ子さまなら、きっとやり遂げられます!」


出たー!予感的中!ど真ん中ストライク!!


いやいや、確かにね?私だって、仲が悪いよりも仲良くしてくれた方が嬉しいわよ?

でも私は“魔王討伐のための潜入嫁”なんだから、これ以上余計な仕事を増やしたくないのよ!


すると周りの料理人たちまで、「それ名案!」「トメ子さまならいける!」「希望の光だ!」と、まるで救世主を見るような目でこっちを見てくる。


ちょ、ちょっとあんたたち!勝手に盛り上がらないでよ!

根拠ゼロの期待をのっけられても、プレッシャーしかないんですけどーーッ!?


「で、でもねえ……。私にはちょっと荷が重いっていうか……。ほ、ほら、私、人間だし……。そんな大それたことしたら、何かと反感買っちゃいそうで……」

「その場合は、我々が全力でお守りします!それに、たとえ結果が出なかったとしても、誰もトメ子さまを責めたりしませんよ!」

「で、でもさぁ……それでもやっぱり……」

「……もし、やっていただけるなら…お米、どうにかして仕入れますよ」


グサァァアッ!!


こ、この男……やっぱり只者じゃないわね!?

さっきの何気ない会話で、私がお米を恋しがってるのを見抜いてたってわけ!?


はあぁぁ……お米……炊きたてふっくらツヤツヤの……ああっ、毎日食べたい……!


だ、だけど……!ここで負けたら女が廃るわ!!

私はデパートのバーゲンで、“最後の1着”をめぐって10人相手に勝ち抜いた女よ!!

いい男の誘惑なんかに……負けてたまるかっての!!!

それに、ちゃっちゃと魔王倒してバウム王国に戻れば、お米があるかもしれないわ!


「……それでも、難しいでしょうか?」


ルークさんが少し声を落として、真剣な目で言った。


「私たちはただお二人が心から笑い合える日が来てくれたら…それだけでいいんです。親は違うとはいえ、この城で唯一血の繋がった家族なんですから…」


……そんなこと言われたら……ズルいわよ、もう……。

元一児の母親として何とかしてあげたくなっちゃうじゃないの。


「わ、わかったわよ……やるわよ!!」

「ほんとうですか!?ありがとうございますっ!!」


ルークさんはさっきまで涙目だったのがウソみたいに、パァァッと晴れやかな笑顔に。

……ちょっと、今の涙って演技だったんじゃないの!?

いやもう、どうでもいいわ!一度言ってしまった以上やるしかないわ!!


人生80年分の知恵と愛情を総動員して、あの二人を本物の家族にしてみせるわよ!!


「……まずは、明日の朝ごはんを私が作るわ。二人は何時ごろ食べるの?」

「ロイ様はだいたい7時半ごろ、クレメンス様は……11時ごろに起きて、そこから気ままに昼食を召し上がっています」

「えっ!?魔王ってそんな遅くから仕事してていいの?」

「……本当はダメです。ですがクレメンス様は“仕事なんて無理”と言い張っておりまして。責務の多くを側近に丸投げしており……実質ほぼ働いておりません。加えて夜通しゲームをされていて、朝起きられないのです……」


なにそれ、まさかの職務放棄!?

魔王ってそんなフリーターみたいな働き方でいいの!?

信じられないわ……!


「よし、まずは寝かせてくるわ。家族はね、そろって朝ごはんを食べるもんなのよ!」


そう言い放って、私はクレメンス様の部屋に向かって一気に駆け出す。

ルークさんは「え、いま!?」「ちょっ、トメ子さまーっ!」と慌てて後ろから追いかけてくる。


そして扉の前に到着すると、私は――


バァァン!!


勢いよく、躊躇なく扉を開け放った。


「クレメンス様!もうお休みの時間ですよ!!」

「うわっ!?なに!?普通ノックくらいするでしょ!!……ああっ!レアモンスター逃がしたじゃないか!!」


しまった。勢いで突入しちゃったけど、相手は一応“魔王様”なのよね……

でも今さら引き下がれないわ!


クレメンス様はベッドに寝転がり、宙に浮かんだ魔法スクリーンでゲームに没頭していた。

そして画面には、見覚えのある美少女キャラ――そう、私そっくりの剣士が。

……なるほど、これが噂の「クレたん」ね。


「失礼しました。でもクレメンス様、夜更かしは体に毒ですよ!それに長時間ゲームなんて、目も悪くなります!明日、私が朝の7時30分に朝食を作ります。ですので、ちゃんと食べに来てください!」

「……じゃあ、その朝食を“お昼に”いただきます。7時30分なんて無理ですって……」

「家族はそろってご飯を食べるものですよ!それにロイ様は7時30分に食べるって聞きましたよ!」

「……ロイと?あいつと一緒に?それは絶対ムリです……嫌われてるし……怖いし……今日は特別な日だったので一緒に食べましたが、普段は無理ですよ…」


なにこのヘタレ魔王!

こうなったら奥の手を使うしかないわね!


「では、このゲームは一時的にお預かりします。返却は明日の朝食後です」


そう言って、私はクレメンス様の手からコントローラーをひったくった。


「は!?ちょっ、なに勝手に決めてるんですか!返してくださいよ、今いいところだったのに!」

「ダメです!それに“早起きは三文の得”って言いますし!」

「……サンモンノトク? なにそれ?モンスターの名前ですか?」


しまった……これは日本のことわざだったわ!


「い…いえ、私の故郷の言葉です。“早起きすれば、きっといいことがある”って意味なんです。もしかしたら、レアモンスターに出会えるかもしれないですよ……?」


その一言に、クレメンス様の眉がピクリと動いた。


「……確かに、朝の時間帯ってプレイしたことないな。7時から9時に出現するって噂の“モーニングバード”……もしかしたら出会えるかも…。ちょっとアリだな……偶には早く寝てみるか…」


まんまと食いついた!

さすがゲーム脳!言ってみるもんね!!


「そうですよ!さあ、お休みなさい!」

「あ…はい…お休みなさい」


有無を言わせない意志でお休みの挨拶をすると電気を消してクレメンス様の部屋を出た。

すると、ルークさんが感心したように私に話しかけてくる。


「トメ子さま凄いです!あそこまでクレメンス様に強硬手段を取れる方は今までいませんでした!やっぱりトメ子さましかいませんね!!まるで親子を見ているようでしたよ」


まあ私も息子に接するような気持ちで接していたわよ…。

形は夫婦だけど、歳が離れているから旦那と言うより息子に見えて仕方ないのよね。


「お世継ぎのこともありますが、まずはお二人の仲の改善という訳ですね!」


そう言われてハッとする。

そういえば大抵の王女の役目って子供を産むことじゃない!?

遠い昔に習った歴史の授業でそんなことを教えてもらったわ!!


えー!?

でも歳離れすぎているし、私には正蔵さんっていう心に決めた人がいるし無理よー!!

こうなったら、ちゃっちゃと魔王討伐するしかないわね!!


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