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第34話 侍になりたい男

◇バイト先◇


「先輩、お陰様で拳豪トーナメントの一次予選突破出来ました。ありがとうございました」

「お、おう、あゆみ氏、スゴイでござるな。レベルはいくつでござる?」


「今は20ですけど、一次予選の時は15でした」

「じ、じゅうごっ⁉ よ、よくそのレベルで突破できたでござるな。驚いたでござる」


「へへへ。バトルロイヤル形式っていうんですか? 100人で一斉に戦うの面白かったです」

「初めて!? おったまげでござる。運要素もあるとは言え、バトロワ形式で勝つのは難しいのでござるが……二次予選に向けて後で対戦してもいいでござるか?」


「いいですよ。21時以降だったら遊んでるんで連絡してください」

「承知。連絡するでござる」


 そんなこんなで一日が過ぎていき、21時過ぎに先輩から連絡が来て練習用のフィールドに招待された。リンクでは練習用フィールドというのを各プレイヤーは自分で好きに作ることが出来る。ここで死んでも持ち物やゴールドは失われない。ちなみにゴールドは稼げないので私には無縁の機能だった。


 ここは······道場か。

 しかも先輩の格好はというと······

「先輩渋いっすね。侍ですか」

「そうでござる。日本男児たるもの侍たるべしでござる」


 先輩のスキン、装備は侍そのもの。

 これ何て言うんだっけ……。そう、確か新選組だったかな。


「カッコいいですね。あれ、もしかして普段ちょっと変なゴザル口調なのってスキンに合わせてるんですか?」

「おうふ……変って……ストレート過ぎるでござるな。しかし如何にもでござる。上位のジョブの解放条件は不明な点も多いでござるから少しでも可能性を上げるためにリアルでもゴザル口調なのでござるよ。ただ少しネットスラングが混じっているでござるが……」


「う……凄いですね。ある意味尊敬します」

「ある意味……まぁいいでござる。そういうあゆみ氏は何の装備もないのでござるか?」


「はい、私武道家見習いなんで拳さえあればやっていけますから」

「何という男前な発言でござる。じゃあ早速拳豪ルールで試合してみるでござるか?」


「はい。……あ、そう言えば先輩のレベルって幾つなんですか?」

「拙者はレベル40でござるよ」


「よんじゅう! 凄い私の倍だ」

「これでもランキングは高い方なのでござるよ。流石にプロには及ばんでござるが」


 へぇ、ランキングとかあるんだ。

 まぁ、お金にならんことにはあんまり興味はないけども。


「それではあゆみ氏、始めるでござるよ?」

「はい、お手柔らかにお願いします」

「よろしく頼むでござる」


 すると先輩の装備が外れ胴着と袴になった。

 そして目の前に筆で豪快に書いたような字体で文字が表示され、開始の合図が響く。


『いざ尋常に……始め!』


 やたら渋いスタートの合図だな。でもこれはこれでカッコいい。


 しかし、先輩のレベルは私の倍。


 相当やりこんでるっぽいからステータスも私の倍くらいあるかも知れないし、凄いスキルも持ってるだろう。


 胸を借りるつもりでガンガン行こう。

 ダッシュで距離を詰め、真正面から【穿脚せんきゃく】を放つ。

『22』


「固い! 22しか減らないの?」

 一番攻撃力のあるスキルを使ったのに……ステータス差が結構あるなこれ。


「な、足技の防御貫通スキル!?」

 先輩の驚いた声が響く。

 先輩は先輩で予想外だったらしい。


 よーし、それなら手数で埋めるしかない。

 そのまま90度右に回り込んで【貫手】のラッシュで畳み掛ける。


 おーら、くらえぃ。

『6』『6』『6』『6』『6』『6』


 【貫手】で6!? 

「ウソでしょ! 先輩固すぎる!」

「な、何で防御してるのに削られる!? 【ラッシュ】じゃない!?」

 私も驚いたけど、先輩も驚いてる。


「先輩、ゴザル口調じゃなくなってますよ!」


 そこからの【足払い】【足払い】【足払い】。

 連続して【足払い】をすると強制的に転ぶから防御も出来ず延々と【足払い】が出来る。


 ふっふっふ。

 1対1なら一度はまったら抜け出せない必勝法を見つけてしまったのだよ。

『8』『8』『8』······


「なっ、連続して【足払い】!? スキル後硬直は!?」

「何ですかそれ!? ボーとしてたら負けますよ!」


 先輩は急にぐるぐると転がって【足払い】の無限ループから逃れた。


「くっ」

 必勝法じゃなかったか。


「あゆみ氏! 何か! 全体的におかしいでござる!!」

 先輩は立ち上がるとすかさず距離を取る。


 ここは追撃だ!


 !!


 と思った次の瞬間、先輩は目の前に距離を詰めていた。


 なん……

 

 そして先輩の拳は私のお腹に突き刺さっていた。


 だと……


――ドンッ――

 派手なエフェクトと共に吹っ飛ばされた。


「ぐはっ」


 い…た…い……


 呼吸が止まる。


『75』


 何……今のスキル……。

 HPがごっそり削られた。


 『物理耐性』がちっとも仕事してないじゃん。


「【発勁】でも75しか削れないのでござるか!?」

「いやいや···4割くらい···削られたんですけど」


 先輩が倒れた私に追撃してくる。

 それを何とか躱して立ち上がり距離を取る。


 ダメだ。自分が『DLモード』プレイヤーだから負けるわけ無いと心のどこかで思ってた。


 油断してたんだ。

 痛がってる場合じゃない。

 慣れなきゃ。


 そうだ。ミラちゃんも痛みは軽減しているって言ってたじゃん。


 大丈夫。


 ここで死んでも何も失わないんだから。


 大丈夫。


 そう自分に言い聞かせる。


 でも実際には、痛みで動きが鈍ってしまっていた。


 先輩が【ラッシュ】してきたが躱せない。

 仕方無しに防御する。


 ダメージはくらわないもののバシバシと腕に当たる拳が痛い。


 【ラッシュ】のエフェクトが終わり攻撃が止まったので防御を解き反撃に転じる。


 でも【貫手】はいなされて当たらなかった。

 かと思ったら、突然引っこ抜かれて豪快に投げられた。


――ドシン――


 勢いよく床に叩きつけられる。


「かはっ」


 先輩のアバターは大きくて私と身長差があったからか、勢いが付きすぎたのか、運良く頭ではなく背中から叩きつけられた。


 また呼吸が止まる。


 慣れろ。

 痛みに慣れろ。


 本当は痛くないはず。


 しかし、今度は身動きが取れず先輩からの追撃を躱せなかった。


 そしてわずか3回の攻撃で私のHP尽きてしまったのだった。


『勝負あり! 勝者、小田国俊おたくにと!』


 私は運がいい。

 対人戦で知らないことが多すぎる。


 それを二次予選の前に、先輩から学ぶ機会があるんだから。


 それはいいとして······先輩の名前。

 オタクニートだと!?

 何たる属性持ちですか。


 オタクでニートなら完全に引きこもり街道まっしぐらじゃん。


『あゆみ、それは随分穿った見方です。名前で人生全てが決まるわけではないでしょう』


 生まれながらにしてヒキニートになる定めを背負っていたなんて······。


『聞いてませんね』


 勝負が終わると私のHPは全快し、痛みも消えていた。


 そうだ。先輩は自らの定めを克服した。

 今じゃ立派にフリーターをしている。


 それなら私だって痛みくらい乗り越えてみせるんだから。


★★★読者の皆様へ★★★


 数多あるなろうの小説の中から、この小説を見つけて、更には読んでくださって本当にありがとうございます。


 また、ブックマークや☆評価、ご意見や感想、レビューなんかを頂いてしまいますと、単純な作者はモチベーションが非常に上がります。


 応援していただけますと幸いです。

 次の話も是非呼んでください。

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