03:この人の力になりたいって、そう思うんだ
【ワンコ系熱血年下男子】×【完璧だけど隙だらけな年上男子】のラブコメディ!
二人は同じ会社の別部署で働く後輩・桜と先輩・永遠。
昔一度だけ一緒に仕事をしたことがあったがそれ以来これといった接点もなかった。しかし、桜はその時から永遠の仕事への姿勢や人間性に憧れを抱き、いつの間にか彼に恋に落ちていたのだった!
好意を(かなり一方的に)募らせていた桜は、ある日とうとうその熱き想いを打ち明ける決意をする。
入念に事前学習をした桜は満を持して朝っぱらから一世一代のプロポーズに挑むのだった。が、あっさりフられてしまう。落ち込む桜はそれでもなんとか仕事をこなした。しかし、一休みにと立ち寄った給湯室でまさかの永遠に遭遇。
うっかり二人きりになれた桜は、昔初めて彼と一対一で話した時のことを思い出し語った。一方的な思い出だと考えていた桜だったが、なんと永遠もその日のことを覚えていたことを知る。
周囲から何もかも完璧で一人で生きていけると言われる永遠の、疲れて独りで休んでいる姿を桜は知っている。そんな彼の力になりたい。やっぱりこの想いを諦められないと桜は改めて永遠への気持ちを強くした。
懲りない桜は再び永遠に告白するが、返された永遠の答えとは……?
※墓は本気で言っているというよりはそれくらいのマインドで熱い想いを抱き永遠との将来を考えているという桜流の意思表示です。
二人が織りなす【ラブコメディ】です!(リアルさはないです!)
それが、永遠と初めて一対一で話した日の記憶だ。
「すげぇ人でも、やっぱ大変なんだって分かって。そんで大変でも、周りには全然気づかせないんだってことも分かって。ますます俺、先輩のことが好きになったし憧れました」
「……あのチョコな、美味かったよな」
「え!?」
桜は永遠からの予想外の反応に驚いて声を上げた。
「えってなんだよ」
「えっ、だって、覚えて……るんですか」
「いや覚えてるだろ。普通に」
「だってめっちゃ前ですよ。しかも話したの二、三分」
「覚えてるよ。あの時は新しいことをいろいろ任されてて、とにかく寝る時間が無くてさ。すごく疲れてたんだよな。だから余計にかな」
永遠が柔らかく笑う。
「大矢に貰ったあのチョコ、今まで食べた中で一番美味かった」
だああああ、と叫び出さなかった自分を心の底から褒めてやりたい。
なんなんだこの人は。なんであんな些細な出来事を覚えてるんだ。なんであのチョコを、たまたまバレンタインの日に渡したあのチョコを一番美味いなんて言っちゃうんだ。
しかもそんな綺麗に笑いながら、今朝盛大にプロポーズしてきた後輩相手に。
これが桜を落とすためにやっていることなら理解できる。あるいは手懐けてやろうという魂胆ならまだ分かる。でも違うのだ。
永遠は無自覚的に、今思ったことをそのまま素直に言っているだけだ。たぶんこの人悪魔だ。ある意味で。
「先輩」
桜は決死の思いで顔を上げる。
「どうしても、どうしても俺じゃだめですか」
永遠は思わぬことを言われた様子で何度も瞬いた。
「1ミリもだめですか。俺のこと生理的に無理ですか。嫌いっすか」
「なんでよ。そんなこと言ってないだろ。嫌いなわけねぇって」
困った顔をさせてる。今日何度目だろう。
でも嫌いではないと言われた。桜はその優しさに刺激されて勇気を振り絞る。
「俺、先輩が好きです。先輩とお付き合いしたいです」
「……ごめんなさい」
ぺこ、と小さな頭が下がる。こんな時になんだが、この人顔がちっさいな。
いや、本当にそんなことを考えてる場合じゃない。
「友達からでも!」
「友達だけならこちらこそだけど、違うんだろ」
「俺のこと嫌いなんですか」
「いやそれ数秒前に聞かれたって。嫌いなわけねぇから」
たしかに聞いたばかりだ。でも律儀に答えてくれる。
きっともう一度聞いても苦笑いしながら答えてくれるんだろう。
「何でだめなんですか。理由教えてほしいです」
「うーん」
「朝は俺のことあんま知らないしって言ってましたよね」
「言ったかな」
「記憶力オバケが何とぼけてんすか」
「……言ったけども」
桜はずっと永遠を見て来た。
一対一で話した経験はほぼないが、その仕事ぶりに憧れてずっと見て来たのだ。だから彼が、バシバシ自分の意見を言う男であることも、その割には実は押しに弱いことも知っている。
永遠の両手首を掴んで引き寄せる。
彼との距離が互いの間にある折り畳んだ両腕分まで縮まった。
「じゃあ俺のこと教えます。そんで、知ってからフってください」
「フる前提かよ」
「えっ、じゃあ知ってから一緒の墓に」
「いやいろいろすっ飛ばしすぎだろ。落ち着けって」
「俺このままじゃ納得できないです。お願いします」
「うーん、でもなぁ」
変に期待を持たせるようなこと、かえってお前が苦しいじゃんか。
永遠はそう言って眉根を下げた。
なんだよ。本当にこの人って気ぃ遣いだよな。この人のこと自己中とか悪口言ってる馬鹿は本当に馬鹿だよ。ちゃんと見てないんだ。あっちこっちに気遣っていつも全力で。こんな格好良い人、なかなかいない。
誰もがこの人を完璧だって言う。一人で生きて行けるって。何でもできるからって言って笑う。でも本当にそうなのだろうか。
桜の頭の中に、休憩スペースの長椅子でぐったりしていた永遠の姿がよみがえる。
この人はいろんな人のことをちゃんと見てるのに、この人をちゃんと見ている人はどこかにいるのだろうか。
「永遠先輩には、俺が必要だと思います!!!」
桜の尊大な宣言が給湯室に反響した。
大声になのかその内容になのか、永遠が目をまん丸にして固まっている。
「俺にも永遠先輩が必要なので」
必要というかなんというか。桜は自分の発言を振り返って、またしても言いたいことがきちんと言えていないことに気づく。
「あ、いや。先輩に俺が必要っていうか、いかにすごい人といえどもやっぱりこう、気が抜ける場所がいるかなって思うというか。先輩みたいな真っ直ぐな人が楽しく働ける場所にしたいというか。あれ、俺何言ってんだ?」
話せば話すほどドツボに嵌る。これでは今朝のプロポーズと同じだ。
「必要……」
ぽつりと永遠が呟く。
永遠は桜より少し背が低い。彼が俯いて視線を上げると、ちょっとした上目遣いになる。別に狙った構図じゃない。自然とそうなるってだけの話だ。
「先輩にとって、必要な人間に……」
なりたい、じゃだめだ。きっと。
永遠に追いついて、隣に並んで一緒に歩けるような人間でなければならない。
「なります!!!」
断言して桜は永遠から距離をとり、今朝の再現のように頭を下げた。
右手を差し出す。今度は震えていない。
「だから俺と、お友達からお願いします!」
心臓がばっくんばっくんと煩い。血圧上昇中だ。クールダウンだ自分よ。手汗なんてかいてたら最悪だぞ。
桜は冷静を装うと必死に気持ちを落ち着かせる。
しかし、差し出した右手に予想外の温もりが触れた瞬間、全てが水泡に帰した。
桜はただただ、のろのろと顔を上げることしかできない。
右手が永遠の手によって握り返されている。夢幻。白昼夢。でも、そこにはたしかに熱がある。
「あんま期待はしないでね」
ぎゅっと返された右手。朝は空気だけに触れていたのに。天変地異だ。それを起こしたのは桜だ。いや、永遠か。なんだって構わない。
ありがとう神様仏様、運命の女神様。とんだいたずらだと思っていたことをお詫びします。
「はい! もちろん一緒の墓に入るの前提でお友達からってことで!」
「大矢、俺の話聞いてる?」
大矢桜、今日から憧れの大好きな先輩・羽根田永遠とお友達になります。
将来的に一緒の墓入り前提で。
ありがとうございました!
次回はおまけです。