02:誰の助けもいらないような人だって、実はそんなことないんだ
【ワンコ系熱血年下男子】×【完璧だけど隙だらけな年上男子】のラブコメディ!
二人は同じ会社の別部署で働く後輩・桜と先輩・永遠。
昔一度だけ一緒に仕事をしたことがあったがそれ以来これといった接点もなかった。しかし、桜はその時から永遠の仕事への姿勢や人間性に憧れを抱き、いつの間にか彼に恋に落ちていたのだった!
好意を(かなり一方的に)募らせていた桜は、ある日とうとうその熱き想いを打ち明ける決意をする。
入念に事前学習をした桜は満を持して朝っぱらから一世一代のプロポーズに挑むのだった。が、あっさりフられてしまう。落ち込む桜はそれでもなんとか仕事をこなした。
しかし、一休みにと立ち寄った給湯室でまさかの永遠に遭遇。
うっかり二人きりになれた桜は、昔初めて彼と一対一で話した時のことを思い出した。
二人が織りなす【ラブコメディ】です!(リアルさはないです!)
あの日、偶然桜は喫煙ルームの近くの休憩スペースで休む永遠を見た。
普段はしゃきしゃきと動き回り疲れを見せない人が、並んだ長椅子のひとつに背中をだらしなく預けて天井を仰いでいた。
その時永遠の他には誰もおらず、大窓を打つ雨音だけがその空間を支配していた。外は薄暗い雲で覆われていて、その天気も相まってか室内は随分とどんよりとした雰囲気だった。
「あの」
ふーと小さく息を吐いた永遠の姿を見て、桜はうっかり声をかけてしまったのだ。
疲れた先輩にわざわざ声をかけるなんて馬鹿な真似をしてしまったと後悔しても時すでに遅し。
永遠は目蓋を閉じていたようで、桜の存在に気づいていなかった。声をかけたことでゆらりと目蓋が開き、中から黒目がのぞく。
そういえば、桜が永遠の睫毛の長さに気づいたのもこの日だ。
「はーい、どうした?」
覇気のない、のんびりした口調。これまで見て来た永遠とは違った雰囲気。プライベートを覗き見たような気分になった。
「お疲れ様です。邪魔してすみません。あ、俺大矢って」
「大矢桜だろ。覚えてるよ」
「え、まじですか」
ぽろっと零してしまったリアクションが敬語らしからぬ言い方になってしまった。桜は慌てて口を覆う。
「すみません」
「いいよ別に。で? なんかトラブル?」
長椅子の背に預けていた背中を起こし、永遠が椅子に座り直す。乱れた前髪の隙間から、桜を見つめる彼の双眸はあまりにも優しかった。
「いえ、なんも! すんません。なんか、あの……。お疲れなんかなぁと思ってつい」
桜はこれといって相手のためになる素晴らしい言葉を持ち合わせておらず、ひたすら慌てふためくだけだった。何という失態。恥ずかしすぎる。
しかし、永遠はそんな桜の意味不明さもスルーしてくすくす笑ったのだ。馬鹿にするような笑いではなく、自分で言うのもなんだが、小動物を愛でているかのような笑みだった。
「あのこれ」
桜はポケットに入れていたチョコレートを取り出して永遠に渡した。
「何」
「チョコです。疲れた時には甘いモンって言うし。どうぞ」
「ありがとう。でもこれ、ちょっと高そうなんだけど」
「あ、だってほら。今日ってバレンタインじゃないっすか。昼買いに行ったらめっちゃきらきらしてて、つい自分の買っちゃいました」
「バレンタインに自分用のチョコを自分で?」
やばい。モテない宣言をしてしまっただろうか。桜は思わず頭を掻いた。
一応弁解しておくと、桜はバレンタインにチョコをもらった経験は何度かある。でも美味しそうなものを見るとつい食べたくなるのだ。衝動買いというやつである。
「変でしたかね」
「いや、アリだなと思って。俺も帰りに買って帰ろうかな」
永遠は事もなげにそんなことを言って、桜から受け取ったチョコを半分に割った。片方を口に含んで、もう片方を桜へと差し出して来る。
「ん、お裾分け」
「え」
「……って、大矢から貰ったからお裾分けは変か」
黒目が見えなくなるくらいに目が細まり、永遠がふわふわと笑う。
桜はその当時理由こそよく分からなかったが、彼のその笑顔から目が離せなかった。今にして思えば、この瞬間こそが永遠に惚れたきっかけだったのかもしれない。
彼からお裾分けされた半分のチョコを有難く受け取り、桜はそれを大事に大事に食べたのだった。