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プロローグ:最高のプロポーズを目指して!

【ワンコ系熱血年下男子】×【完璧だけど隙だらけな年上男子】のラブコメディ!


二人は同じ会社の別部署で働く後輩・(さくら)と先輩・永遠(とわ)

昔一度だけ一緒に仕事をしたことがあったがそれ以来これといった接点もなかった。しかし、桜はその時から永遠の仕事への姿勢や人間性に憧れを抱き、いつの間にか彼に恋に落ちていたのだった!


好意を(かなり一方的に)募らせていた桜は、ある日とうとうその熱き想いを打ち明ける決意をする。

目指せ!ロマンチックで相手に喜んでもらえる最高の告白!

入念に事前学習をした桜は満を持して出勤時間の会社入り口で待機する。そこにまんまと現れる憧れの先輩・永遠。桜は謎に朝っぱらから一世一代のプロポーズに挑むのだった。


二人が織りなす【ラブコメディ】です!(リアルさはないです!)


 今日という日のために、何度も頭の中で練習した。


 人気の恋愛ドラマや小説、映画、漫画をたくさん見たり読んだりして友達や身内にリサーチしまくって、「理想のプロポーズ50選」なんて書かれたファッション雑誌を買って読みふけったりもした。

 頭の中で何度も何度も伝えたい言葉を繰り返し、スーツでばっちり決めて片手には真っ赤な薔薇の花束を抱えて。

 本当なら洒落た夜景の見えるレストランなんかを予約してディナーを楽しみながら告白したかった。でも、それはできない。何故なら告白したい相手とはプライベートで会ったこともなく、一対一で会った経験すらほとんどないからだ。


 しかし、そんなことは些末事。

 溢れる想いの前には何の足枷にもならなかった。びしっと決めた格好で、勤務先である会社の入り口前で仁王立ちになる。

 お目当ての人物はすぐに現れた。彼の出勤時刻はいつも変わらない。時間に正確な人である。そんな彼を待ち伏せするのはとっても簡単なのだ。


 彼は今日も変わらず華やかなオーラを纏っている。

 臆するな。後退りしそうになる自分の足を拳で軽く叩いた。背筋を伸ばして胸を張る。猫背気味な姿勢を今だけでも直さないと。

 彼の前ではいつだって格好をつけたい。目の前にやって来たお目当ての彼が、こちらに気づいて足を止めた。


 いけ、いくんだ大矢桜(おおやさくら)。ここが自分にとっての一世一代の晴れ舞台。清水の舞台から飛び降りる気持ちで挑め。


 桜は声を振り絞って頭を下げた。憧れの先輩、羽根田永遠(はねだとわ)への熱い想いをのせて。

 震える右手を相手に差し出しながら視線は足元へ。頭を下げ過ぎて前に転がりそうなところを必死の思いで踏ん張る。

「先輩! お願いがあります」

「え、うん。どうした?」

 永遠(とわ)の靴の先が見えた。丁寧に磨かれた靴は彼の物持ちの良さを思わせる。

 朝っぱらから別部署の後輩に頭を下げられる意味不明な状況に戸惑いながらも、永遠(とわ)は優しい声でこちらを気遣ってくれていた。

 そういうところも桜は尊敬しているのだ。


 頭の中に「理想のプロポーズ50選」の頁がよみがえる。桜は雑誌を思い出して自分が伝えたい言葉を口から吐き出した。


「俺と一緒のベッドに入ってください!!!!」


 朝、8時50分。勤務先の会社入り口前。

 行き交う人々が、桜の発言にぎょっとして二度見していく。

 桜は自分の体中から血の気が引くのを感じて硬直した。

 人生初のプロポーズ。何日もかけて入念に準備して完璧に決めるはずだった。でも、これじゃあただの変態だ。

「ベ……何?」

 あまりの衝撃発言に聞き間違いの可能性を見出したのか、永遠(とわ)が困惑気味に首を傾げた。

 桜は慌てて顔を上げ、早口で弁解する。一言でも言葉の選択を間違えれば終わる。すべてが終わってしまう。

「違います! 変態じゃないっす! 下心じゃなくて! いや、下心はあるんですけど! ってそうじゃなくて!」

 もう喋るな自分の口よ。

 桜は慌てすぎて自分が何を話しているのか分からなくなった。とにかく話し続けて誤解を解かなければ。その一心で口を動かしているのにさっきから余計なことしか言っていない。


 そもそもあのファッション雑誌を思い出したのが運の尽きだ。

 桜はかぶりつきであの雑誌を読んでしまったがために、「理想のプロポーズ50選」の隣の頁に書かれていた「初めてのデートからベッドインするまでの回数ランキング♡」なるものまで熟読した。一言一句逃さず読んだ。

 その結果、()()()という単語だけが頭に強烈に残り……。

「言い間違えです!!!」

 桜はせっかく新調した高いスーツの胸元をわし掴んで訴えた。やばい泣きそう。

「だよな。うん。ほら落ち着けって。それで、本当は何て言いたかったんだ?」

 普段はツンなところもある永遠(とわ)だが、弱っている相手にさらに追い打ちをかけてボディブローのように効かせたりはしない。

 実はものすごく優しい人なのだ。見た目の派手さからか誤解されがちな先輩だが。

()()()じゃなくて()って言いたかったんです」

 桜は顔を両手で覆ってしおしおと嘆きながら言った。

 おかげで両手を無駄に使ってしまい、抱えていた薔薇の花束は地面に落下。通行人の一人が思わず「あ」と呟いたが、桜の耳に届くことはなかった。

()……」

「墓っす」

「墓って、墓? あの、()()?」

「お墓っす」

 羽根田永遠(はねだとわ)はよく名前に「お」をつける。だからどうということでもないが、根っこの部分に品があるような人だ。

 そういうところも桜は密かに尊敬している。

「つまり大矢(おおや)は俺にプロポーズしたかったの?」

「はい!」

 失敗をいつまでも後悔したって取り戻せない。

 桜は勢いよく顔を上げて頷く。すると、永遠(とわ)がこちらに近づいてきた。思わぬ至近距離に桜は直立不動となる。しかし、永遠(とわ)は桜ではなく、桜の足元に上半身を傾けた。

 彼は先ほど桜が落としてしまった花束を拾ってこちらに差し出して来た。本当なら桜が永遠(とわ)に贈ろうと思っていたものなのに、これではまるで逆だ。

 恥ずかしさを隠しながらおずおずとその花束を受け取った桜は、目の前の永遠(とわ)が少し困ったような顔で口を開くのを見た。

「気持ちはありがたいけど、プロポーズには応えられない」

「な、何でですか」

「俺、大矢(おおや)のことあんまり知らないし、なんで大矢が俺のこと気に入ってくれたのか分かんねぇんだけど」

「なんでってそれは……」

「とにかく、ごめんな」


 大矢桜(おおやさくら)

 人生初のプロポーズは、こうして幕を閉じたのだった。


桜はちょっとだけおっちょこちょいです。

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