プロローグ
お盆ということで思い付きの殴り書きです。
短く終わらせるつもりです。
「はぁ……」
明日からはお盆休みだというのに俺は何をやっているのだろう。
ふと時計を見てみると時刻は20時。今日も残業……
こんなことをさせて何故社会は黙っているのか。『働き方改革』とは何だったのか。
社会人になってからよくこんなことを考えるようになった。以前の俺は社会情勢なんて気にも留めてなかったし、思えばニュースなんてほとんど見たことがなかったな。『働き方改革』なんて自分の生きている世界とは違う世界のことのように思っていたのだ。
(なんか俺、変わっちゃったなぁ)
この会社に入社して約4ヶ月。俺は既に社会の厳しさに打ちのめされ心が折れそうになっていた。正直、仕事なんて大したことないと高を括っていた。昔の自分をぶん殴りたい。
失敗続きで上司に怒鳴られ、頭を下げまくる毎日。自慢じゃないが俺の謝罪スキルは社内で他の追随を許さないほどに向上し、今では謝罪において俺の右に出るものなど存在しないとさえ思っている。
一緒に入社したはずの同期の女の子は優秀で怒られているところを見たことがない。失敗ばかりの俺を彼女と比べて上司が俺を叱ることも多々。
実際、今も俺の所為で彼女を夜遅くまで付き合わせてしまっている。でも彼女は優しくて「困ったときはお互い様でしょ」なんて声をかけてくれる。
なんて惨めなんだ。女の子に助けられて……
「ふぅっ、やっと終わった」
彼女が声を漏らす。
「俺もあと少しだから先に帰っていいよ。今日は付き合わせちゃってごめん」
俺が申し訳なさそうにすると彼女は少し困ったような顔をする。
「あと少しなんでしょ。待つよ」
なんて優しい子なんだ。この子はいつも俺に優しくしてくれる。どうしてこんな俺を……
「ありがとう」
素直に感謝の気持ちを口にすると彼女はにっこり笑った。
彼女の優しさに涙が出そうになるのを堪えながら俺は仕事を終えた。
「終わったぁ」
やっとのことで仕事が終わった俺は思わず声を上げてしまった。
「じゃっ、帰ろっか」
そう言って彼女は立ち上がる。
ふわっと香る花の香り。彼女からは何時も花の良い香りがする。きっと花が好きなのだろう。その証拠に彼女の持ち物は花柄のものが多い。きっと好きな花の種類とかがあるのだろうけれど花の種類はよく分からない。正直、花の絵柄は全部同じに見える。
勘違いして欲しくないのだが、別にじろじろ見ている訳では無い。ただ同期だから一緒にいる機会が多くてよく目に入るだけだ。彼女のことをそんな目で見て嫌われるのなんて嫌だ。彼女にまで拒絶されたらこの会社での居場所がなくなってしまう。
「じゃあ、私こっちだから」
駅に着くと彼女は逆方向の電車を指さす。
「――今日は本当にごめん」
何から何まで迷惑をかけてしまった。そう思うと自然と頭が下がって謝罪の言葉が飛び出る。
「優太君は気にしすぎだよ。私が手伝いたくて手伝ったんだから気にしないのっ」
と言って頭を軽く叩かれた。
面倒見のいい子なのだろう。こんな俺でも見限らずに親身に接してくれている。
俺を見てくれている。そう思うと少しだけ前向きになれた気がした。
電車に揺られながら今年のお盆は何をしようかと考える。とは言ってもいつも通り家でダラダラするだけだろうな。別にこれといって用事はない。
ふと電車広告を見ると旅行会社の『帰省キャンペーン』の文字が目に入る。
(帰省か……)
お盆になると帰省する人が多いらしいが思えば実家を出て10年、俺は一度も実家に帰ったことはない。
俺には両親がいない。いや、正確には『亡くした』と言ったほうが良いだろう。親のいない実家に帰ってもな……だから実家に帰らないのかもしれない。
いや。
本当にそうなのか。
――そうじゃない。
怖いんだ。
今まで目を背けてきたものを見るのが。
10年間俺は実家――島でのことを考えないようにしてきた。
俺は10年前に実家を出た。
――違う。
――――逃げ出したんだ。
都合の悪いことから目を背け、嫌なことを忘れるために。
――――このままで良いのか。惨めな俺のままで。
――――――いやだ。変わりたい。
――――――――いや、変わらなきゃ。
「よし――帰ろう」
閑散とした電車の中、俺は一人呟いた。
拙い文章ですが楽しんで頂けましたら幸いです。