第1解放 1次選考
1次選考は一般的な体力測定だった。
測定と聞くと競争のようなイメージが強いが、少し違うようだった。
「他の組の者が合格してしまうぞー。しっかりやれー」
タイスケが6人に言う。
6人はひたすらに走らされていた。
タイスケが言うには、他の組は組の中から1人か2人を最終選考に選出するらしいが、タイスケは全員を選出させるつもりらしい。
そのため、タイスケの組の1人でもタイスケが認めなければ全員を不合格とさせるとのことだ。
「タイスケ様……」
1人の人物がタイスケに耳打ちをする。
「何?」
タイスケの表情が変わった。
「みんな集まれー」
タイスケが6人に声をかける。
「たった今報告があった。魔王が確実に復活したらしい。解放軍遠征組の5人がたった今戻ってきて、魔王が復活したことをその目で確認したらしい」
5人組は魔王を確実に仕留めたらしいのだが、戻ってみると再度復活していたらしい。
もう一度仕留めてから戻ってきたとのことだ。
食糧問題などの関係で、もう一度戻ることはできなかったが、魔王が再び復活している可能性は高いらしい。
ただ、魔王はまだ子供のようで以前のように力を使うことができない可能性もあるとのこと。
「今、解放軍の先鋒隊が魔王城へ向かって経った。そして上からのお達しで次の遠征には今回の選考会で合格した者も連れていくとのことだ。いつ遠征が決まるか分からんが、新米が遠征に参加するのは異例中の異例だ。俺の出す課題を全部合格して見事新米になってみよ!」
タイスケの話しによると、選考会では組の長が最終選考までを担当するようだ。
何人を最終選考に選出するかは、長の判断に委ねられるらしい。
最終選考を通過すると、晴れて人民解放軍の正式なメンバーになれる。その時の階級は一番下の新米だ。
そこから昇格すると特攻隊、工作隊、支援隊、救護隊、歩兵隊のどこかの部隊に所属することになる。
通常新米が遠征に参加することはなく、モンスターとの戦闘もまずないらしい。
「まぁ、新米が遠征に参加したとしても後方支援くらいだとは思うが、それを念頭に置いた選考をせよと俺は取った。」
つまり、選考は通常よりも厳しくなるということだろう。
再び6人は走り出した。
●
6人が走ってから既に3時間以上が経過している。
いつまで走るかを知らされていない6人は、永遠に指示されたルートを巡回している。
林の中を進み、砂利の上り坂を走り、ぬかるみを下り、砂浜を走り、階段を上り、一本橋を渡って再び階段を下ると最初の林に戻る。
1週するのにおよそ1時間のコースだ。
「いつまで続くんですかね?」
走りながらカクが他の5人に聞く。
タイスケは6人に走る時の制約をいくつか設けた。
その1つが、全員同じペースで走るというもの。
「体力を上げることも目的だろうけど、自分は精神面を鍛えていると思うな」
ヤシチがカクに答えるとスケが、なるほどと呟いた。
3人はまだまだ余裕がありそうだ。
しかし女性2人はかなりきつそうだった。
「精神面ってどういうこと?」
息苦しそうにサクラが問う。
「いつまで走ればいいか分からないから鍛えられるってことではないですか?」
その隣を走るギンも息苦しそうに言う。
「オ……オイラ、もう無理……」
最後尾を走るカズヤが弱音を吐く。もう何度目か分からない。
「もう少しペースを落とすか?」
ヤシチがカクに提案して、走るペースが更に遅くなった。
「……ふむ」
その様子を見てタイスケは満足そうに頷いた。
「よーし! 休憩だー!」
走り始めてから実に5時間以上が経過していた。
「今日は5週走るのに5時間以上かかったな。まずは5時間を切るようになれ。そしたら2次選考へとすすむぞ。10分休憩したら訓練へ進む。死ぬ気で休め」
「く…訓練?」
カズヤが絶句するとタイスケが何を当たり前のことを。という感じで答えた。
「この6人を最終選考に選出してそこで合格を貰うためには、訓練は当然だろ?」
「そ、そうですね……」
カズヤは力なく笑った後に、仰向けに倒れた。
「全力で休むぞー」
その様子を見て他の5人も仰向けに倒れて全力で休憩をした。
比較的余裕があったヤシチ、スケ、カクにも疲労感は当然ある。
ましてやどんな訓練かも分からないので、少しでも体力を回復させるべきだと考えたのだ。
「ほれ」
10分の休憩が終わると、タイスケが6人にスポーツドリンクのような物を渡してきた。
「水分補給は大事だ。それにこの飲み物にはある程度体力を回復する効果もある。飲み終えたら訓練開始だ」
渡されたドリンクはやや甘めだが比較的スッキリしており、さながらスポーツドリンクのようだった。
「甘っ!」
一口飲んでスケはむせていた。
どうやらスケは甘いのが苦手なようだ。
「糖分は疲労回復に効果がある。それに何より旨い!」
タイスケがにやりと笑う。
タイスケはどうやら甘いのが好きなようだ。
●
「また罠があるべさ!」
スケがカズヤに注意する。
「くっ!」
苦しそうな声を出しながらカズヤが何とか罠を避ける。
今6人は、さっきまで走っていたルートをゆっくりと進んでいる。
その理由は、これが訓練だから。
訓練内容は、ルートに設置した罠を全て回避して1週するだけ。
最初のエリア、林に設置された罠は縦横無尽に丸太が振り子のように迫ってくるというもの。
当たっても死にはしないだろうが、かなり痛い。
何度かカズヤが当たっているため、メンバーみんながカズヤを囲むようにして進んでいる。
比較的観察力があるスケが先頭でいち早く罠を見つける役目を引き受けている。
こうしたおかげもあってか、カズヤ以外はダメージを受けずに林の最後の難関にたどり着いていた。
「ト……トラ?」
サクラがごくりと唾を飲む。
ルールとして、エリアの出口には難関が設置してある。生き物は虫であろうと殺してはならない(踏み潰してしまった場合は許容範囲)。食事や飲み物は現地調達。1週するのにかかる時間は問わない。全員一緒にゴールすること。
つまり、長い時間をかけてゆっくりとサバイバルをしろというようなもの。
幸いにもトラはまだ6人に気がついていない。
木の陰に隠れてそっと気づかれないように林を抜けた。
「生きた心地がしなかったー」
ふーっと砂利エリアに出た瞬間にカズヤが息を吐く。
「あ、あなたね! 罠に引っかかりすぎなのよ!」
サクラが呑気に仰向けに倒れて休憩するカズヤに怒る。
「しょうがないだろ。オイラは田舎育ちでみんなみたいに何か特技があるわけじゃないんだから」
カズヤの言い訳に待ったをかけたのはカクだ。
「でも確かにこのまま進むとかなり大変だと思います」
何とかしないと。とゴツイ体を動かして考える表情をするのは、とっても奇妙に見えた。
「とりあえずご飯にしましょ」
どうぞ。とギンがその辺で採ってきた作物を使って簡単な料理を作ったのだ。
この6人、カズヤ以外のメンバーは何かしらの特技があった。
先頭を進んでいたスケは観察力が、サクラは食材の知識が、ギンには料理の特技が、ヤシチは身体能力が高く、カクは見た目通りに力がある。
「でもこのままでは困るな」
食事を摂りながらヤシチが言う。
さっきの話しの続きだ。カズヤをどうにかしないと先に進めないということだ。
「僕が背負いましょうか?」
カクが申し出るのをヤシチが否定する。
「タイスケさんは、この6人が一緒に最終選考に出ることを望んでいる。自分が思うに、カズヤは自分の力でこの訓練を乗り切らなければいけないんだろうな。ただ、自分たちはカズヤに色んなアドバイスをしたり、それなりの手助けをして要は協力して訓練を乗り切れということだと思う」
「ここの砂利エリア、みんな自分のペースで進むのはどうだろ?」
みんなの話しを聞いてカズヤが提案する。
「いいの?そんなことしたらあなたかなり大変だと思うけど?」
サクラが驚いた表情で聞き返す。
「みんなの足を引っ張ってばかりは嫌だ。オイラだって解放軍の一員になるからには、自分の力でなんとかするんだ!」
こうして砂利エリアは各々のペースで進むことになった。
これが正しい選択だったのか、今はまだ6人には分からなかった……