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愛慾の魔女  作者: 髪槍夜昼
五章
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第九十一話


「捻れろ!」


シャルロッテの命令と共に、不可視の力がエルケーニヒを襲う。


「ハッ! それはもう見た!」


エルケーニヒは不敵な笑みを浮かべ、指先を前に向けた。


「『オプスクーリタース』」


指先から黒い煙が放たれる。


広がった暗い煙幕は、見えない何かに弾かれるように揺れ動く。


「!」


(煙幕で、私の攻撃を…!)


目に見えない攻撃であろうと、そこに存在することに変わりはない。


エルケーニヒは煙幕によって浮かび出た攻撃を躱し、シャルロッテへ向かって右手を向ける。


「『ダエモン・オース』」


瞬間、シャルロッテの背後の空間が裂け、巨大な口が開いた。


バクン、と言う音と共にシャルロッテの胴から上が一瞬で消える。


「はい! 一回死亡!」


ケラケラと嗤いながら、エルケーニヒは腕を振り上げた。


「『レムレース・ウェルテクス』」


シャルロッテの身体が復元されると同時に、その全身が無数の怨霊に呑み込まれる。


渦を巻く怨霊達は復元したばかりのシャルロッテの身体を骨まで溶かしていく。


「二回! 三回! 四回! カハハッ! ははははははははは!」


怨霊の渦はシャルロッテを取り囲み、復元する度に再び殺す。


蘇って、殺して。蘇って、殺して。


殺して殺して殺して、殺し続ける。


「つ、潰れろ!」


何とか顔を再生し、シャルロッテは叫ぶ。


目に見えない大気を固定化し、エルケーニヒの頭上から落とす。


その重量は巨人の足と変わらない。


骨も肉も果実のように潰れる。


「フン」


しかし、エルケーニヒは片手を上げ、その一撃を受け止めた。


「タイミングさえ分かれば、所詮はマナの塊。より強力なマナを流し込めば…こんな風に」


ビキビキと言う音を立てて、空間が黒いマナに侵食されていく。


やがてそれは限界を迎え、無残に砕け散った。


(マナが圧し負けた…! こっちは百人分のマナですよ…!)


「並みの魔道士が百人集まった所で、魔王に勝てるとでも?」


「ッ!」


シャルロッテは再生した足を使って床を蹴り、怨霊の渦から何とか抜け出す。


反撃の為に右手を握り締め、エルケーニヒの方を睨む。


その瞬間、全身が無数の糸に絡めとられた。


「言った筈だ。命の数だけ殺してやると」


シャルロッテの全身が切り裂かれ、再びその身が肉片の山となる。


(…強、い)


体内の命を消費して肉体を復元しながらシャルロッテは心の中で呟く。


想像以上だった。


他の魔女から聞いていた話以上だ。


これが魔王の力。


命の残数はまだ残っているが、そもそも地力が違い過ぎて戦いにならない。


(どうする…? 私の命も無限じゃない。このまま続けたら…)


「再生したな?」


シャルロッテの思考を遮るように、目の前にエルケーニヒが立っていた。


思わずその顔に恐怖が浮かび、後退る。


この距離ではエルケーニヒの魔法を躱せない。


また殺される。


「や、やめろ!」


その時、二人の間に一人の男が割って入った。


男の顔を見て、エルケーニヒは舌打ちをする。


教区長ヴェルター。


シャルロッテに利用されていた男だが、彼は人間であり魔女ではない。


人間は殺すな、とエリーゼに言われたことを思い出し、魔法を止めた。


「教区長ヴェルター! まだ分からないの! その魔女は…」


「ロッテに手を出すな! 彼女は、私の…」


エリーゼの説得には耳を貸さず、杖をエルケーニヒへ向けるヴェルター。


それを聞き流し、どうやって退かそうかと考えるエルケーニヒ。


「…心から感謝します。ヴェルター様」


その時、悪魔のような嘲笑が聞こえた。


「な…」


声を上げたのは、誰だったか。


ヴェルターの腹から女の手が生え、それがエルケーニヒを掴んでいる。


「お、前…!」


「『プラエドル・アニムス』」


瞬間、エルケーニヒの身体からマナの殆どが抜き取られた。


急いで腕を振り払うが、既に奪われたマナは戻らない。


マナを奪い取る魔法。


これこそが魔女シャルロッテの魔法。


「………」


エリーゼは目の前の光景に言葉を失う。


シャルロッテは、ヴェルターごとエルケーニヒを攻撃したのだ。


仮にも恋人だった相手を、命懸けで自分を庇った相手を。


何の躊躇いも無く。


「ろ、ロッテ…?」


「自己犠牲。何て愛に溢れた行為でしょうか。ありがとうございます、ヴェルター様。貴方様の愛のお陰で、私は今日も生きられる」


シャルロッテは女神のような笑みを浮かべ、ヴェルターの身体から腕を抜き取った。


傷口から血が零れ、ヴェルターは床に崩れ落ちる。


「ふふふ…あはははは! ああ、素晴らしいマナ! 全身に力が満ち溢れる! 私、恥ずかしながら興奮を隠すことが出来ません」


「…ッ」


「形勢逆転ですね。愛の勝利、と言うやつです」


エルケーニヒのマナを身に纏いながら、シャルロッテは笑みを浮かべた。

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