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愛慾の魔女  作者: 髪槍夜昼
五章
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第八十七話


「これからどうする、エリーゼ?」


公園のベンチに座りながらエルケーニヒは言う。


「あの魔女はこの都市を支配しているようだ。戦うか、それとも逃げるか」


「…まずはアンネリーゼに連絡を取りたい所だけど」


「十中八九、教区長もあの魔女側だろうな」


都市の状況から判断するに、教区長が無関係とは思えない。


魔女と戦うのなら、住人だけでなく教区長も敵に回ると考えるべきだろう。


「まあ、お前がやれと言うのなら都市ごと消すのも、吝かでは無いが?」


ニタリ、とエルケーニヒは暗い笑みを浮かべた。


その身から黒いマナが溢れ、周囲の地面から形無き怨霊が滲み出る。


「…何か、前より強くなってない?」


「ナターリエを倒してからマナの調子が良くて…」


そこまで言った後、エルケーニヒは思い出すように口を閉じた。


「…ああ、言い忘れていたな。魔女について、一つ分かったことがある」


「何?」


「あの魔女共が使う黒いマナ。アレは、俺のマナ(・・・・)だ」


「………え? どう言う意味?」


「言葉通りの意味だ。奴らの力は俺と同じ。俺のマナを吸収したお前の身に『魔女の印』が浮かんだことがその証拠だ」


エルケーニヒは指先で黒いマナを弄びながら呟く。


「魔女を殺す度、俺はマナの増大を感じていた。アレは気のせいでは無かったらしい。連中が使うマナと俺が使うマナは同じ物だ」


元が同じマナなのだから取り込み易いのは当然だった。


一度肉体が死亡し、不完全な形で蘇ったエルケーニヒは、魔女を殺す度にそのマナを取り戻し、生前の状態へ戻りつつあったのだ。


「だ、だったら、魔女を生み出したのはエルケーってこと?」


エリーゼは動揺を顔に浮かべながら告げる。


魔女は元人間。


素質ある人間が何らかの方法で変質したのが魔女だ。


その魔女の力の源がエルケーニヒのマナだとするなら、それはエルケーニヒこそが魔女を生み出したことを意味するのではないか。


生前のエルケーニヒ。


魔王と呼ばれた頃のエルケーニヒが、そのマナを注ぎ込んで魔女を生み出したのだとしたら…


「それは違う。思い出せ、最初の魔女が現れたのが今から八百年前だろう? その頃に俺はとっくに死んでいる」


「あ、そっか」


嫌な想像が外れたことにエリーゼは安堵の息を吐く。


魔女が現れたのはエルケーニヒの死後なのだ。


だとすれば、魔女の出現にエルケーニヒは無関係だ。


「でも、なら何で魔女がエルケーニヒのマナを…?」


「……想像はつく、が」


その時、エルケーニヒの顔が憤怒に歪んだ。


ギリッ、とその拳が握られ、背筋が凍るような殺気が放たれる。


「…死体から力を借りる方法は、一つだ」


「………まさか、黒魔法で?」


エリーゼは思わず目を見開く。


そんなことが可能なのだろうか。


魔王エルケーニヒを蘇らせ、死人形ゾンビのように使役するなど。


ただマナを利用する為だけに、その身を蘇生させるなど。


「おかしいとは思っていた。魔王と呼ばれたこの俺が、あんな低級の黒魔道士に召喚されるなど」


エリーゼとエルケーニヒが初めて会った夜のことだ。


カルトのような似非黒魔道士共の儀式によって、エルケーニヒは復活した。


生前より弱体化した不完全な蘇生だったとしても、本来有り得ないことだった。


「恐らくアレは、誰かが俺を一度蘇らせたことと、黒いマナを宿すお前があの場に居たことが重なって起きた奇跡だったのだろう」


「私が…」


「名実共に、お前は俺の主だったと言う訳だ! お前のお陰で、俺は復活できたんだからなァ!」


「…何か複雑」


あの黒魔道士達ではなく、エリーゼが魔王復活させた張本人だったなんて。


今となってはそれほど気にしていないが、少々複雑な気持ちだった。


「…じゃあ、エルケーが蘇るのは二回目ってこと?」


「俺の想像通りならな。まあ、一度目の記憶は俺には無いが」


二度蘇った死人形の記憶はどうなるのか。


生前の記憶のみを宿して復活するのか、それとも一度目の記憶を忘れているだけなのか。


流石のエルケーニヒも、そこは想像するしか無かった。


「それよりも問題は蘇ったもう一人の俺だが…」


「こんな所に居たのか、お前達」


その時、二人の会話を遮るように声が聞こえた。


聞き覚えのある男の声だ。


二人が視線を向けると、そこには門番の男が立っていた。


名前は、アルバートだったか。


「ヴェルターさんを待たせるなと言っただろう。こんな所で何をしている」


「え、あの…」


「早くついてこい。ヴェルターさんがお待ちだ」


そう言いながらアルバートは困惑するエリーゼへ手を伸ばした。


「ストップ。お触りは禁止だぜ、色男」


その間に割り込み、エルケーニヒはアルバートへ挑発的な笑みを浮かべる。


「…何のつもりだ?」


「こんな魔法を知っているか?『アキエース』って言うんだがな」


エルケーニヒの指先が赤い光を放つ。


「周囲の敵意や悪意を感知する魔法だ。緑の光は安全、そして赤の光は…」


「『グラキエース・サギタ』」


瞬間、アルバートの杖から氷の矢が放たれた。


それを予測していたエルケーニヒはエリーゼを抱えながら、距離を取って回避する。


「危険、って訳だ」


「協会の手先め! 白き魔女シャルロッテ様には指一本触れさせんぞ!」


殺気立った目でエルケーニヒ達を睨みながらアルバートは叫んだ。

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