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愛慾の魔女  作者: 髪槍夜昼
五章
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第八十三話


「随分と栄えているんだな。辺境の都市とは思えない」


街並みを眺めながらエルケーニヒは呟く。


流石にマギサに比べれば劣るが、街を歩く人々には活気があった。


強固な壁に守られている安心感からか、大通りには多くの人間が家族で買い物を楽しんでおり、笑顔も多かった。


更に、住人の中には杖を提げた者達が警邏しており、治安の維持を行っていた。


「当然だ。このウェネフィカはマギサにも劣らぬ都市だと自負している」


少し自慢げに胸を張りながらアルバートは言う。


「昔はこの都市も他の都市と変わらず、治安も良くなかったが、ここ数年で劇的に発展し、今のウェネフィカとなったのだ」


「優秀な教区長なのね」


感心したようにエリーゼを呟いた。


アンネリーゼから聞いていた話と随分と違う。


都市を守る強固な壁に魔道士の警邏隊。


これだけ完璧に都市を治めている教区長も中々いないだろう。


「いや、ヴェルターさんがと言うよりは…」


「こんにちは。アルバート様」


アルバートがそこまで言いかけた時、言葉を遮るように女の声が聞こえた。


三人の視線が女の方へと向く。


「そちらの二人は初めまして、ですよね? 別の都市の方でしょうか?」


そう言って柔和な笑みを浮かべるのは、女神のような美しい容姿の女だった。


清貧を表したような清楚で質素な布の服に身を包んでおり、服装自体は地味な印象を受ける。


派手な装飾品など何も付けていないのに、どこか高貴な雰囲気を受ける女だった。


「ッ!」


その美しい容姿に見惚れるよりも速く、エリーゼは右手に黒剣を出現させる。


「何、そのマナ…!」


剣を突き付けながらエリーゼは警戒と困惑を顔に浮かべた。


エリーゼの眼は対峙した者のマナを見抜くが、今は目の前の光景が信じられなかった。


赤、青、緑、白。


ありとあらゆる色のマナが女の中で混ざり合い、黒と言う一色を形成している。


様々な絵の具をぶちまけたような不気味な黒だった。


長年多くの人間のマナを見てきたエリーゼでも、こんなことは初めての経験だ。


訳が分からないが、一つだけ分かる。


この女は、魔女だと言うことが。


「「「無礼者!」」」


その時、剣を突き付けるエリーゼの首に無数の杖が触れた。


周囲を警邏していた魔道士達が一斉に駆け寄り、エリーゼを殺気立った目で睨んでいた。


辺りの人々も犯罪者を見るような目でエリーゼを見ている。


まるで、この場でおかしいのはエリーゼの方だと言うように。


「聞いて! この人は、魔女で…」


「それがどうした! シャルロッテ様は確かに魔女だが、我らの恩人である!」


「…え?」


エリーゼは呆然とした表情を浮かべる。


アルバート達はエリーゼが言うまでも無く、この女が魔女であることを知っていた。


知った上で、それを害そうとするエリーゼに敵意を向けているのだと。


「…皆さん、落ち着いて下さい。私は大丈夫ですから」


その時、シャルロッテは宥めるように声を上げた。


「で、ですが、この女は…」


「外の方が私を敵視するのは仕方がありません。彼女は私のことを何も知らないのですから。無理解は争いの元です。初めて会う者にこそ、愛を以て接しましょう」


聖女のような笑みを浮かべてシャルロッテは告げる。


アルバート達が杖を下ろしたことを確認してからエリーゼへと視線を向けた。


「あなた様も。どうか私の話を聞いて下さい。相互理解こそ人間の本質。今は憎しみを抑え、武器を下ろして下さい」


「………」


「…今は従った方が良さそうだな。エリーゼ」


「…分かってる」


エルケーニヒの言葉に頷き、エリーゼは黒剣を消した。


「ありがとうございます。早速事情を説明したい所ですが、ここは人が多く、あなた様も落ち着かないでしょう。場所を移しましょうか」


そう言って無防備に背を向けてシャルロッテは歩き出す。


どうやら、本気でエリーゼと争う気は無いようだ。


(…どんな物が出るかと思えば、予想以上の物が出てきたな)


その背中を追い掛けながらエルケーニヒは心の中で呟く。


(にしても、シャルロッテか。教区長であるヴェルターはさん付けだったのに…)


薄々この都市の力関係を理解しつつ、エルケーニヒはシャルロッテの背を見つめた。

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