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愛慾の魔女  作者: 髪槍夜昼
四章
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第七十九話


「『シュタルカー・ヴィント』」


黒剣を空高く掲げ、エリーゼはそれを勢いよく振り下ろす。


刃が大気を搔き乱し、風の刃となって放たれた。


エリーゼのマナを帯び、黒く染まった斬撃は逃げ場を塞ぐように三撃、ザミエルへと飛んでいく。


「へえ。直接斬らずとも、呪いを浴びせることが出来るようになったんだね」


その努力、その工夫を嘲笑うようにザミエルは手を翳す。


人間如きがどれだけ手を尽くした所で、魔女には勝てないと言うように。


エリーゼの放った斬撃は全て、歪んだ空間に呑まれて消えた。


「笑えるね。努力は全て無駄になった訳だ」


「………」


嘲笑されながらも、エリーゼの顔に焦りは無い。


今更正面からの攻撃が通じるとは思っていない。


最初から狙いは…


(背後から狙ったもう一つの刃…!)


エリーゼが風の刃にマナを込めたのは斬撃を見えるようにする為だ。


人間は目に見える物に意識を奪われる。


三つの斬撃はザミエルの注意を引き付ける囮。


本命は後から放った見えない斬撃。


(呪いは発動しないけど、それでも…!)


「…うん? 今、何かした?」


「ッ…!」


しかし、それすらもザミエルには届かない。


背後からの攻撃に気付いて防いだ訳では無い。


ザミエルは気付いていなかった。


完全な不意打ちであったにも関わらず、その攻撃は防がれた。


「残念。ボクの魔法は自動的なんだ。どんな攻撃だろうと、例えボクの知らない魔法だろうと、ボクには絶対に当たらない」


そう言ってザミエルは両腕を広げた。


「さあ、どこでも好きな所を攻撃しなよ。キミの心が折れて絶望するまで、続けてあげるよ」


「『ゲヴィッター』」


ドン、と地面が割れ程に踏み込み、エリーゼの姿が消える。


踏み込みによる加速。


だが、ザミエルの下へは向かわない。


ザミエルの周りを走りながら、段々と加速していく。


「なるほど。周囲を巡りながら限界まで加速して、一気に仕留める技かな?」


己のマナを封印されていた時に編み出したエリーゼの最大の技だ。


多少時間は掛かるが、最高速度に到達したエリーゼは魔女の眼ですら追うことは不可能。


「でも、まだ分からないかなぁ? 目で追う必要なんて無いってことに」








「おーおー、アッチは楽しそうだなァ」


ザミエルとエリーゼの戦いを眺めながら、ヴィルヘルムは笑った。


あの魔女相手によく戦うものだ。


ザミエルの魔法はヴィルヘルムから見ても、無敵に近い魔法だと言うのに。


「俺達も向こうに負けねーくらい盛り上げていこーぜ! なあ、魔王様」


「一人でやっていろ」


「ノリ悪ィな。アンタも戦いとか、嫌いじゃねーだろう?」


つまらなそうに口を尖らせながらヴィルヘルムは言う。


「これでも俺はアンタに憧れていた時期もあるんだぜ? 何十、何百と言う人間を魔法で殺し尽くした伝説の魔王。俺も千年くらい早く生まれていれば、きっとアンタと一緒に愉しく生きられただろう」


今の時代はヴィルヘルムにとって窮屈すぎる。


魔女と言う敵が存在する為か、人間同士が争うことが無い。


魔法を高尚な物であるように語り、使い方にさえケチを付ける始末。


千年前、魔王と人類が争っていた時代なら、そんな苦労をすることもなかった。


「…別に俺は殺しが愉しかった訳じゃない」


冷めた表情を浮かべ、エルケーニヒは告げる。


「必要だったから、戦っただけだ。俺にも、守るべきものがあったからな」


「………はぁ」


エルケーニヒの言葉に、ヴィルヘルムは心底ガッカリしたようにため息をついた。


「おいおいおい! やめてくれよ! 夢を壊さないでくれ! お前は魔王だろう? そのアンタが守る為に戦ったなんて、人間みたいなことを言うのはやめてくれ!」


ガリガリと頭を掻き毟りながらヴィルヘルムは叫ぶ。


どこかシンパシーを感じていた魔王が、そんなことを言うなんて信じられない。


人間だったと言うのか。


残虐非道、ヴィルヘルムを遥かに超える人間を殺した魔王であっても、人の心を持つと言うのか。


…ヴィルヘルムとは違って。


「…俺の時代にも、お前のような奴は居た。傷付ける形でしか世界と交われない破綻者。お前は悪ですらない。善悪問わず、触れる者を全て壊す破壊者だ」


「…悪ですらない、か。言ってくれるじゃねーの」


ヴィルヘルムの口元が吊り上がる。


エルケーニヒの指摘は尤もだ。


ヴィルヘルムにとって他人とは、ただ壊すだけの対象でしかない。


誰にも交わることは出来ない。


「じゃあ、手始めに! お前を破壊してやるとしようかァ!」

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