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愛慾の魔女  作者: 髪槍夜昼
四章
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第七十二話


「魔王…」


ザミエルはエルケーニヒを見つめながら呟く。


一度見ただけの魔法を即座に解析し、再現してみせた。


石棺の魔法がエルケーニヒの得意とする黒魔法であったとしても、並大抵のことでは無い。


「こっちの姫様は帰して貰うぞ」


エルケーニヒは両手を広げ、ザミエルへ向けた。


「『フィールム・リガートゥル』」


十本の指から無数の糸が放たれる。


縦横無尽に虚空を駆ける糸は取り囲むようにザミエルを狙った。


(全方位からの同時攻撃だ。お前のその魔法の限界を見せろ…!)


ザミエルの魔法は強力過ぎる。


どんな魔法も攻撃も、触れることなく別の場所に転送できる万能性。


前後左右、全ての方角から同時に狙うことで、その効果範囲を見極める。


効果範囲の及ばない部分があるならば、そこを狙えば攻撃が届く筈だ。


「クスクス…浅はか」


ザミエルの口元に嘲笑が浮かんだ。


瞬間、ザミエルを狙っていた全ての糸が歪んだ空間に呑み込まれた。


「うっ…!」


消えた糸の先端は空間を通り抜けてエルケーニヒ自身を貫く。


「エルケー!」


「問題ない。これも想定の範囲内だ」


エリーゼの声にエルケーニヒは苦笑を浮かべた。


返されることを想定して、切断インテルフィケレではなく、束縛リガートゥルの糸を放った。


全身を糸に貫かれているが、エルケーニヒにダメージは無い。


「残念だったね! ボクの魔法『マレフィクス・マレフィキウム』は無敵だ!」


(…効果範囲は全方位か)


勝ち誇るザミエルを眺めながらエルケーニヒは思考する。


全ての攻撃を防ぐ転送魔法が、ザミエルを覆うように全方位に展開しているようだ。


加えて言うなら常時展開の上に、効果時間も長い。


どんな不意打ちも効かないからこそ、敵の前で無防備な態度を取れるのだろう。


(ある程度近付くまでは効果を及ぼせないようだが、こちらの攻撃が通らないのでは意味が無いな)


エルケーニヒは険しい表情を浮かべる。


頭の中を数多の魔法が駆け巡るが、そもそも魔法自体を転送されてしまうのでは無意味だ。


「…なら、こう言うのはどうだ?」


エルケーニヒは石の床に触れた。


触れた部分から床が黒く染まり、一本の黒い線がザミエルへ伸びていく。


「ッ」


黒い線がザミエルの足下に辿り着いた時、それは音を立てて爆発した。


「魔法じゃなくて、マナ自体を注ぎ込んで暴発させたのか。形の無い爆発なら当たるとでも…」


そこまで言ってザミエルの動きが止まる。


エルケーニヒはザミエルに背を向け、エリーゼの方へと走っていた。


(違う…! 今のは攻撃じゃない、時間稼ぎか! 最初からエリーゼと逃げるつもりで…!)


エルケーニヒの目的はザミエルを倒すことでは無い。


この場で倒せないと分かれば、エリーゼの手を取り、共に転移で逃げ出すだけだ。


「見た所、お前の魔法は反射だ。受けた攻撃を返すことは出来ても、自分から敵を攻撃することは出来ないのだろう!」


ザミエルの魔法は無敵の防御性能を誇るが、攻撃性能はあまり高くない。


自ら手を下すことなく他者の悲劇を眺めたい、と言う本人の卑劣さを表した魔法である為。


逃げる敵を攻撃する手段が無い。


「エリーゼ!」


エルケーニヒの手がエリーゼの手を掴む。


解析した石棺の魔法をもう一度発動し、マギサへと転送する。


「『マエロル・スタトゥア』」


その時、神殿の奥から声が響いた。


闇の奥から杖がエルケーニヒへと向けられている。


瞬間、杖の先端から石の矢が放たれた。


「何、だ…?」


一本の矢はエルケーニヒの左腕を射抜いた。


矢が触れた部分から段々とエルケーニヒの身体が石へ変わっていく。


血の流れもマナの流れも全てが止まり、凍えるような冷たさが侵食していく。


「マルガ!」


ザミエルがその魔女の名を呼ぶ。


エルケーニヒも闇の奥に薄っすらと見える魔女を見た。


「お前、は…?」


「………」


エルケーニヒの言葉には答えず、魔女は杖を振るう。


マナが収束し、次の魔法が放たれる。


「発、動…!」


だが、それよりも早く、エルケーニヒの魔法が完成した。


二人の姿は石棺の中に引き込まれ、その場から姿を消した。

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