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愛慾の魔女  作者: 髪槍夜昼
四章
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第六十九話


「キヒヒッ! はははははは! サイコーだな!」


燃え盛る街を前にヴィルヘルムは嗤った。


新たな腕を振るう度に爆発が起き、命が散っていく。


「う、おおおおおお!」


積み重ねられた死体の中から男が飛び出す。


決死の覚悟で杖を握り、魔法を放った。


死力を尽くし、己のマナを全て注ぎ込んだ一撃。


「あはァ」


だが、想いだけでは超えられない壁と言う物が存在する。


ヴィルヘルムは男の放った魔法を余裕で躱し、男の顔面を掴む。


「ぐ、が…! は、離せ…!」


「なあ、俺の魔法は触れた物に爆弾を寄生させる魔法だ。人間に触れれば、相手を体内から爆破できる。お前、この魔法についてどー思う?」


ミシミシと男の顔から骨が軋む音が聞こえた。


苦悶の声を上げる男を眺めながらヴィルヘルムは呟く。


「残酷だと思うか? 非人間的だと思うか? どうせならもっと穏便にやれと思うか?」


「が、ああ…!」


「どうせ殺すのだから一緒じゃないか。殺していい相手を、俺の好きに殺して何が悪い? 俺はこれでもお前達に合わせよーとしていたんだぜ?」


目の前の男ではなく、どこか遠くを見るような目でヴィルヘルムは告げる。


「常識。道徳。窮屈なんだよ、お前達の法は。生き辛いんだよ、お前達の世界は」


足音が聞こえた。


複数の男達の足音だ。


何かを叫びながら、ヴィルヘルムへ向かって走ってくる。


ヴィルヘルムに捕まった仲間を助ける為に。


「だから俺はもう、偽るのはやめた」


片手で男の身体を持ち上げ、ヴィルヘルムはそれを投擲する。


それを見た男達は慌てて仲間の身体を受け止めた。


起爆イムプルスス


瞬間、男の身体が爆ぜた。


その爆発は仲間の男達を巻き込み、血煙となって吹き荒れる。


「…ああ、コレだよ。コレこそが俺様の真実だ!」


飛び散る肉塊。砕け散る人骨。


このグロテスクな光景こそ、ヴィルヘルムの幸福。


誰にも共感されることの無い幸福だ。


「やっぱり、キミは最高だね」


その背後から愉悦に滲んだ声が聞こえた。


「今のは良かったよ! 仲間を救いに来た相手に、その仲間を爆弾に変えて返すなんてさ! 死ぬ瞬間の顔見た? 最高に笑えたよ!」


ザミエルは本当に愉しそうに嗤った。


「…は」


ヴィルヘルムの口元に皮肉気な笑みが浮かぶ。


誰にも受け入れられることはないと思っていた己の本性が、まさか魔女に受け入れられるとは。


何と皮肉な話か。


結局の所、ヴィルヘルムは最初から人間では無かったと言うことだ。


「キミも人の不幸とか悲劇とか好きなタイプ? だったら嬉しいな! ナターリエもシャルロッテもそう言う話はしてくれなくてね。マルガはいつも無表情だし、話が合う魔女が居ないんだよ!」


「…少し違うな。俺は人間の血や骨が好きなだけだ。殺しが好きなだけで、他人の不幸や悲劇にはあまり興味が無い」


「あ、そうなの? まあまあ、それでもいいや。キミが殺しをすれば、結果的に不幸な人間が増えるし、ボクはそれで満足です!」


世間話でもするような気安さで、ザミエルは残忍極まりないことを口にする。


とは言え、ヴィルヘルムにシンパシーと言うか、友好的な感情を抱いているのは本当らしく、ニコニコと笑みを浮かべながらヴィルヘルムの肩に手を置く。


「それで、もう新しい腕の調子は確かめられたかな?」


「ああ、そーだな。前の腕より調子が良いくらいだ」


「マルガの魔法だからねー」


「………」


ザミエルの言葉にヴィルヘルムは少し考え込む。


思い浮かべるのはワルプルギスの支配者。


ヴィルヘルムの魔法ですら傷一つ負わなかった伝説の魔女。


「こうして人間を殺すことが、あの魔女の計画の役に立つのか?」


「多分ね。マルガがボク達に命じたのは悲劇を起こすこと。多くの人間を殺すこと。それだけだよ」


「…ワルプルギスの目的は『死者の蘇生』だろう? それと何の関係が?」


「詳しいことはボクも分からないよ」


ひらひらと手を振りながらザミエルは舌を出す。


「お前、それでもマルガレーテに次ぐ古参か?」


「ボクとマルガは昔からこうだよ。ボクはマルガの最終目標よりも、その過程に興味があるだけ」


無垢な少女のような笑みを浮かべてザミエルは告げる。


「ただ人の悲劇が見たいだけさ。キミも似たようなものだろう?」


「は。それもそうだな!」


ニタリ、と笑みを浮かべてヴィルヘルムも頷いた。


崇高な目的などどうでもいい。


それが善か悪かも、実現可能か不可能かも興味ない。


己の愉しみさえ邪魔されなければそれで十分だ。


「そう言う訳で、もう一仕事行こうか」

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