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愛慾の魔女  作者: 髪槍夜昼
三章
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第五十五話


「あっはっは! どうよ! 私の新魔法の威力は!」


巨大なドラゴンの背に乗ったまま、エルフリーデは大声で笑う。


マギサを襲った魔女に敗北してから続けていた修行の成果だ。


魔女と戦うことを想定しながら生み出したこの新魔法。


魔女狩り隊など、敵では無い。


逃げ惑う魔女狩り隊を空から見下ろし、エルフリーデは笑みを浮かべる。


「はっはっはっは!」


誰も居ない上空を飛びながら、エルフリーデは上機嫌に笑い続けた。








「エルフリーデ。マギサに居た筈のあの娘が何故ここに…?」


「イレーネが呼んだらしいぞ。元々お前達に不満を抱いていたようだからな」


イレーネはアンネリーゼの親友である。


アンネリーゼを崇敬するエルフリーデとも繋がりがあったのかもしれない。


「…都合の良いことだ、羨ましいね。やはり世界は善に優しく、悪に厳しく出来ているようだな」


達観したような表情でヴィルヘルムは吐き捨てる。


自分を悪と認めた上で、敵対するエルケーニヒ達を善と羨む。


「これで魔女狩り隊はお前以外全滅だ。負けを認めるなら、命までは取らないぞ」


エルケーニヒは告げる。


既に勝敗はほぼ決している。


こちらにはエルケーニヒ、エリーゼ、ゲルダ、そしてエルフリーデも居るのだ。


どれだけヴィルヘルムが強くても、もう勝ち目はない。


「………」


この戦いは敵を殺さなければ終わらない訳では無い。


ヴィルヘルムが負けを認めると言うのなら、エルケーニヒはそれを受け入れるつもりだった。


「…優しいことだ。善らしい」


ヴィルヘルムは苦笑を浮かべる。


血のように赤い瞳を暗く濁らせて、エルケーニヒへ向けた。


「だが、負ける訳にはいかない。俺にも、戦う理由(・・・・)ってやつがあるのでな」


「………」


銀十字の杖を構えるヴィルヘルムを、エルケーニヒは無言で眺めた。


「…お前、本当は戦いたくないんじゃないか?」


エルケーニヒは思わず呟く。


そう、ヴィルヘルムの行動はずっとおかしかった。


本気で目的を果たす気なら、ゲルダに襲撃を教える必要は無かった。


標的ではないゲルダを逃がす為とは言え、それを聞いたゲルダがイレーネ達に伝えることを予測できなかったとは思えない。


ヴィルヘルムはわざとイレーネ達に襲撃をバラしたのだ。


その結果、襲撃は失敗し、魔女狩り隊は壊滅状態だ。


ヴィルヘルムは、この状況を望んでいたとしか思えない。


「…やりたくないことだって、やらなければならない。それが、人生ってやつだろう?」


炎を生み出しながらヴィルヘルムは笑みを浮かべる。


この世の全てを諦めたような、笑みだった。


「………」


それを見て、エルケーニヒも構える。


杖は要らない。


その手を振るうだけで、エルケーニヒは魔法を操れる。


「…一つだけ、間違いを訂正する」


「…?」


「…俺は、魔王だ。善じゃない」


ゴォ…とエルケーニヒの全身から黒いマナが噴き出す。


この都市を滅ぼそうとするヴィルヘルムよりも禍々しく、背筋が凍り付くような威圧感だった。


「魔王、か。前も言っていたが、まさか本当に…?」


「俺は正真正銘、魔王エルケーニヒだ!」


「…は。魔王が相手だって言うなら、俺が遠慮する必要はねーな」


黒いマナを纏いながら迫るエルケーニヒを見て、ヴィルヘルムは笑った。


善と悪の戦いではない。


これは悪党同士の殺し合いだ。


どちらも正しくなんて無い。


だからこそ、間違っていないとも言える。


躊躇いは消え、ヴィルヘルムは手にした杖を振るった。

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