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愛慾の魔女  作者: 髪槍夜昼
三章
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第五十一話


「シャルフリヒターの襲撃…」


翌日、ゲルダは皆にヴィルヘルムから聞いたことを話していた。


各々が険しい表情を浮かべる中、イレーネは重々しく頷く。


「…まあ、このような展開も想定してはいたわ。ただ、思ったよりも早いですね」


エリーゼを庇えばハインリヒを敵に回す。


それは初めから理解し、承知していたことではあった。


ハインリヒから何らかの攻撃を受けることも想定していた。


だが、こんなにも早くハインリヒが動くとは思わなかった。


元々険悪だったとは言え、同じ教区長を排除するには強引過ぎる手だ。


(何か別の狙いがある…? 狡猾なあの男らしくも無い)


「どうするつもりだ?」


「迎え撃つ準備を進めるしか無いわ。幸いにして、猶予はあります」


「…あの、イレーネさん」


「ああ、謝る必要はないわよ。これは私の信条を通したが故の結果であって、あなたには何の責任も無いのだから」


暗い表情をするエリーゼに対し、イレーネは素直に告げる。


慰めではなく、それは本音だった。


確かにエリーゼを庇ったことでシャルフリヒターの攻撃を受けることになったが、例えエリーゼ以外の人間だったとしても、イレーネは同じことをしただろうから。


「イレーネさんって、アンネリーゼにそっくり」


思わずエリーゼはそう呟いた。


友人同士だからか、その優しい性格はエリーゼの良く知るアンネリーゼとそっくりだった。


「…やめてよね。あの若作りと一緒にされるのは心外です」


苦笑しながらイレーネはそれを否定する。


イレーネの言葉にエルケーニヒもニヤニヤとした笑みを浮かべた。


「確かに。あの外見で五十代は最早詐欺だよなー」


「分かってくれますか…! あの人とはもう十年以上の付き合いですが、私が老けていくのに全く歳を取らない理不尽が! 最近では一緒に歩いていると私の方が年上に見られるのですよ…!」


プルプルと肩を震わせながらイレーネはヒステリックな声を上げた。


アンネリーゼのことは嫌いでは無いようだが、その魔法の理不尽には女性として思う所があるらしい。


まだまだ年齢を気にするような歳じゃないエリーゼや、そもそも男であるエルケーニヒにはその悩みが良く分からなかったが。


「コホン。話が逸れたわね。私は色々と準備があるので、そろそろ失礼します」


「どうやって都市を守る?」


「魔女狩り隊ではありませんが、このブルハにも都市を守る為の戦力はあります。ハインリヒの強引なやり方に不満を持つ者も集めましょう。三日もあればどうにかなります」


そう言ってイレーネは視線をエルケーニヒへ向けた。


「魔王様も、戦力として数えて良いのでしょう?」


「…無論だ。エリーゼを守る為なら、好きに使え」


「伝説の魔王と共に戦えるなんて、夢みたいです」


冗談交じりに笑みを浮かべてイレーネは部屋から出ていった。








「私達は、どうしようか」


「戦う準備、と言ってもそれほどやることは無いな」


エリーゼの言葉にエルケーニヒは苦笑を浮かべる。


「…私は、あまり戦力になれないかもしれない」


やや声のトーンを落として、エリーゼは呟く。


恐らく、ヴィルヘルムと戦った時のことを思い出しているのだろう。


エリーゼの魔法『ニグレド』はヴィルヘルムに傷一つ付けることが出来なかった。


魔女にしか通用しない呪いである以上、他の魔女狩り隊にも効果は無いだろう。


「気にするな。人には向きと不向きがある。人間相手の戦闘は俺に任せろ」


慰めるようにエリーゼの頭に手を置きながらエルケーニヒは言う。


「俺は元々、対人戦闘の方が慣れているんだ。今はマナの調子も良いし、負けることは無い」


「…エルケー」


「お前の魔法は魔女相手の切り札だ。今は我慢して俺に守られておけ」


そう言ってエルケーニヒは子供のような笑みを浮かべる。


それはいつもの笑みだが、今はそれが頼もしかった。


「あらら。しばらく見ない内に随分と仲良くなったね、お二人さん」


「…お前は」


二人の会話に割り込むような声に、エルケーニヒはその男に視線を向ける。


ひらひらと手を振りながら男は軽薄そうな笑みを浮かべた。


「君らって、そう言う関係だった?」


「テオドール?」


「や。何だか久しぶりだね」


笑みを浮かべたまま、テオドールは言った。


どうしてここにこの男が居るのか、と二人は訝し気な顔をする。


「いやー、魔女狩り隊とか言う物騒な連中のせいでマギサも酷い状態でさー、いつ魔女呼ばわりされて殺されるか分からないから、逃げて来ちゃった」


けらけらと笑いながらテオドールは言う。


ますます困惑する二人の顔を見つめ、その笑みを止めた。


「と言うのは冗談で。本当は、連中を潰す為にここへ来たんだ」


「潰す…? 魔女狩り隊を…?」


「知っているかい? この都市は今、魔女狩り隊に狙われているんだよ」


口調は普段と変わらないが、その顔にはもう笑みは浮かんでいなかった。


怖いくらい真剣な表情でテオドールは告げる。


「俺と君ら、きっと協力し合えると思うんだよね」

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