表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛慾の魔女  作者: 髪槍夜昼
二章
31/112

第三十一話


「――ッ!」


最初に異変に気付いたのはアンネリーゼだった。


この都市を守る為に設置された大魔石の反応が消えた。


破壊されたのではない。消失したのだ。


都市を覆う結界が跡形も無く、消えてしまった。


「コレは、マズい…!」


慌てて杖を握り締めるアンネリーゼ。


瞼を閉じ、都市中のマナを探る。


魔道協会に所属する魔道士のマナは全て把握している。


知らないマナの持ち主が入り込んでいればすぐに分かる筈だ。


「ッ…!」


瞬間、都市の西門付近で爆発が起きた。


すぐに探知すれば、知らないマナの持ち主が一人。


並みの魔道士を凌駕する膨大なマナ。


何十と言う魔道士が一つになったような、強烈な気配。


その正体は…


「魔女…!」








「魔道都市マギサ。大陸の中心にして、魔道協会の要…」


燃え盛る街並みを背にしながら、まだ幼い少女は呟く。


「そう聞いていたから少し警戒していたけど、意外と大したことないね」


少女、ドロテーアが視線を向けるとその先で新たな炎が生まれる。


勢い良く燃え上がる炎は街を焼き、逃げ惑う人々を焼き尽くす。


ドロテーアの手に杖はない。


魔女は杖など使わない。


ただ視線を向けるだけで、ただ声を放つだけで、世界の法を捻じ曲げるのだ。


「爽快だねェ。絶景だねェ。人々の阿鼻叫喚。地獄絵図。これぞ悲劇って感じだねェ」


ドロテーアの隣でザミエルは愉し気に笑う。


不機嫌そうなドロテーアとは異なり、本気でこの地獄を愉しんでいるようだ。


「…本当に、この都市を滅ぼせばマルガは喜んでくれるのよね?」


「ああ、勿論だとも。マギサを潰し、この都市に隠された四聖人の遺体を手に入れたらね」


へらへらとした笑みを浮かべながら、ザミエルは言う。


「ボクらの計画にはアレが必要なんだよね。まあ、マルガは手に入れるのは後でも良いと思っているようだけど、キミが先に手に入れてくれたら大喜びさ!」


「大喜び…マルガが」


ドロテーアは嬉しそうな笑みを浮かべた。


母に褒められた子供のように無邪気に。


「と言う訳で、ここは…」


「見つけたぞ、魔女め!」


その時、二人の会話を遮るような怒声が響いた。


杖を構えた男達が怒りの表情で二人を睨んでいる。


騒ぎを聞きつけた協会の魔道士だろうか。


「二人いるぞ! 襲撃してきた魔女は二人だったのか!」


「構わん、やれ!」


リーダーと思われる年配の男の言葉に、他の魔道士達が構える。


その杖はザミエルへ向いていた。


「待って待って! 確かにボクは魔女だけど、都市を焼いたのはこっちの子で…」


「『イグニス・ハスタ』」


ザミエルの言い訳は無視し、魔道士達は魔法を放った。


燃え盛る炎の槍。


同時に放たれた五本の槍がザミエルへ襲い掛かる。


「………アハッ」


それを見て、ザミエルの口が三日月のように吊り上がった。


瞬間、ザミエルの前の空間が歪み、五本の槍が消え失せる。


「なっ…!」


「今のは、魔法か! 槍をどこに…」


「…さあ、どこだろうねェ?」


ニヤニヤとした笑みを浮かべるザミエル。


その笑みに恐怖を感じ、魔道士達は後ろを振り返った。


また攻撃すべきか、別の方法を探すべきか。


その判断を仰ごうと、自分達のリーダーである年配の魔道士を見る。


「…え?」


そこにあったのは、死体だった。


全身を五本の槍で貫かれ、炎に包まれた死体。


「アハッ! あははははは! 残念でしたァ! キミ達の魔法が貫いたのは、ボクではなく、キミ達の大事な先輩でしたァ! あはははは! 悲劇だねェ!」


目元に涙すら浮かべて笑い転げるザミエル。


転移魔法。


自分や他の物体を転送する魔法。


ただそれだけの魔法だが、使い方次第ではここまで残酷なことが出来るのだ。


己に向けられた魔法を、敵へと送り返す。


攻撃した本人ではなく、別の仲間に向ける所にザミエルの悪辣さが表れていた。


「『フラムモー・ラクリマ』」


そして、この場に魔女はもう一人居る。


魔道士達を見つめるドロテーアの瞳が赤く染まり、その眼の中に炎が宿った。


「な、何だ…?」


その眼を見た魔道士達の体からチリチリと熱気が漏れた。


身体が熱い。


喉が焼け付き、息が出来ない。


「が、ああああああああああ!」


瞬間、魔道士達の体が内側から燃え上がった。


手が、足が、目が、体内から漏れ出る炎に焼かれ、灰となっていく。


「お見事お見事。ボクにはここまで出来ないよ。攻撃魔法、覚えていないしね」


パチパチとわざとらしく拍手をするザミエル。


「さて、じゃあここは任せたよ。終わった頃に、また来るからさ」


「…分かったわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ