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愛慾の魔女  作者: 髪槍夜昼
二章
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第二十二話


「敵の数は二十五人。こちらの数は十人だから敵は倍以上と言うことになるわ」


当然のように作戦会議はエルフリーデを中心に始まった。


エリーゼを含む九人の魔道士は前に出て話すエルフリーデの話を黙って聞いている。


「とは言え、ここに居るのは皆、複合魔法を使いこなすエリートばかり。何より、この私が居るのだから協会から逃げ隠れる魔道士程度、物の数ではないわ」


そう言うと、エルフリーデは自信に満ちた笑みを浮かべて周囲を見渡した。


同じ協会に所属する魔道士達の顔を眺め、やがてその視線はエリーゼで止まる。


「失礼、訂正するわ。一人だけ魔法も使えない似非魔道士が居たわね」


皮肉気なエルフリーデの言葉に、小さな嘲笑が聞こえた。


エルフリーデへ向けられていた視線が今度はエリーゼへ集中する。


ここに居るのは魔道士のエリートばかり。


それ故に、誰もが自身の魔法に絶対に自信を持っており、魔法を使えない人間を見下しているのだ。


「あー嫌だ嫌だ」


嫌そうな顔を浮かべ、エルケーニヒは庇うように前に出る。


当然ながら他の魔道士達にその姿は見えない。


「イジメカッコ悪いヨ。千年経っても人間のこう言う所は変わらねえな」


(私としては、千年前にもイジメがあったことに驚きよ)


心の中でそう答え、エリーゼは仮面の下で苦笑を浮かべた。


「…まあ、私が居るのだから一人くらい役立たずが居ても問題ないでしょう。洞窟へ攻め込むのは明日の朝にするわ。今夜は交代で休むように」








「………」


エリーゼ達は森の中で一夜を明かすことになった。


黒魔道士の住処と思われる洞窟からは少し離れた場所であり、交代で見張りをすることになっている。


日も沈み、段々と暗くなっていく中、魔道士達は談笑しながら食事を取っていた。


会話の内容はどんな魔法を習得しているか互いに自慢し合っている。


エルフリーデ程では無いが、他の魔道士達も少なからず自信家な所があるようだ。


「………」


エリーゼは彼らの会話には入らず、食事も取らずに仮面を付けたまま焚き火を眺めていた。


時より聞こえる嘲笑と侮蔑の視線には気付かないふりをして、ぼんやりと座り込んでいる。


「よ。さっきは災難だったな、お嬢さん」


「…?」


突然声を掛けられ、エリーゼは首を傾げた。


まさか、この空気の中で自分に声を掛ける者が居るとは思わなかったのだ。


「っと、仮面を付けたままだと年齢が分かり難いな。俺は二十二だけど、年下で合ってるかな?」


そう言って頬を掻くのは、やや軽薄そうな雰囲気の男だった。


両耳には音符型のピアスを付け、腰には先が曲がったステッキ状の杖を差している。


「…私は十八よ」


「やっぱり年下か。俺はテオドールって言うんだ。よろしく、エリーゼちゃん」


「ちゃん付けで呼ぶのはやめて」


少し不機嫌そうにエリーゼは呟く。


こう言うタイプの男が嫌いなのかもしれない。


「オーケー。子供扱いしたのは悪かったよ。お詫びの印に、これどうぞ」


言いながらテオドールは木の器を差し出す。


中身は野草が入ったシチューのようだ。


「何も食べてないみたいだったからさ。俺が作った物だから、口に合わなかったら悪いけど」


「………」


エリーゼは無言で仮面を外し、シチューを口にする。


悪くない味だった。


見た目に反して家庭的なのか、自分で作った物より美味しく感じる。


「…意外と可愛い顔しているな。『無色』のエリーゼって言われるくらいだからどんなかと思ったら」


「………」


「ああ、失言だったかな。馬鹿にしたつもりはないんだ。ただ、魔法も使えないのに何人も黒魔道士を討伐したって聞くからさ」


困った表情を浮かべるテオドールの顔に、嘲りの色は無かった。


魔法が使えないことを蔑んでいる訳では無く、魔法も使えないのに黒魔道士を何人も討伐する実力に本気で驚いているようだ。


その相手がこんな普通の少女であれば尚更だ。


「エルフリーデ嬢と言い、君と言い、今回は楽できそうだな」


「楽?」


「明日の任務。俺、適当な所で戦っているフリだけしてるから、あの怖いお嬢さんには告げ口しないでね」


やる気のない態度を隠そうともせず、テオドールは言った。


他の魔道士達とは正反対の態度に、エリーゼは首を傾げる。


「喧嘩、嫌いなんだよね。魔法で傷付けられるのも嫌だし、傷付けるのも嫌だ。協会の命令だから仕方なく、ここに居るだけなんだ」


心底嫌そうにテオドールは吐き捨てる。


己の魔法をひけらかすことしか頭に無い魔道士とは全く異なる考えだった。


「俺は音楽が好きなんだ。吟遊詩人のように楽器を弾いたり、歌を歌ったりして一生を過ごせたらといつも思っている」


「音楽?」


「今度聞かせてあげるよ。戦いも争いもどうでも良くなるような最高の音楽を」


そう言うと、テオドールは立ち上がり、自分の寝床へ戻っていった。


不思議な雰囲気を持つテオドールの背を、エリーゼは訝し気に眺める。


「片や己の魔法に絶対の自信を持つ好戦的な女魔道士。片や喧嘩嫌いで音楽家気取りの男魔道士。協会の魔道士にも色々いるようだな」


「…そうね。私も初めて知ったわ」


エルケーニヒの言葉にエリーゼは心から頷いた。


争いごとを嫌う魔道士が居るなんて知らなかった。


この場に居る以上、テオドールもエリートには違いないのだろうが、あの様子では今回の任務に乗り気であるとは思えなかった。


「…個々は優秀なのかもしれないが、纏まりがあるとは言えないな」


嫌な予感を感じながら、エルケーニヒはそう呟いた。

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