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愛慾の魔女  作者: 髪槍夜昼
最終章
104/112

第百四話


「………」


マルガの襲撃の翌日。


エルケーニヒは一人、破壊された街を歩いていた。


傷付いた人々の啜り泣く声は無視し、考えるのはかつて白き聖女と呼ばれた女のこと。


『大切な人を蘇らせたい…そんなことを、夢見る乙女のように信じているのですよ』


以前、シャルロッテと言う魔女は自分達の目的をそう語った。


それが本当だとすれば、ワルプルギスの夜を作り上げた魔女の目的も見えてくる。


「…ゲオルクの復活、か」


死者の復活。


マルガが世界を敵に回してでも取り戻した人間など、一人しか居ない。


赤き騎士ゲオルク。


あの男を蘇らせる為に、聖女は魔女となった。


ただ一人の人間の為だけに、ここまで世界を狂わせた。


「………」


その事実に思う所が無い訳では無いが、今は感傷は置いておこう。


今考えるべきなのは、あの魔女を倒す方法だ。


マルガの時間停止を突破することは不可能に近いが、マナ切れを待つことも現実的ではない。


事実上、マルガのマナはこの大陸全てのマナと同じだ。


同じ力を持つエリーゼなら打ち破れる可能性はあるが、あくまで可能性だ。


一パーセントにも満たないその確率を上げる為には、膨大なマナを操るマルガに隙を作る必要がある。


それはマナの大半を失った今のエルケーニヒでは無理だ。


(エルフリーデとテオドール…仮にアンネリーゼが加わったとしても、まだキツイな)


あの三人も決して弱くは無いが、マルガは桁が違う。


「…全盛期の俺と同等の魔道士が一人でも居れば、何とかなりそうなんだが」


思わずエルケーニヒはそう呟いた。


「………ん?」


言葉に出してから、ふとエルケーニヒは考え込む。


今、自分は何と言った。


全盛期の自分と、同等の魔道士…?


「はは…はははははは! 俺は馬鹿か? 何でこんな簡単なことに気付かなかったんだ!」


口元を抑え、可笑しそうに笑うエルケーニヒ。


「現代に馴染み過ぎたな! 自分が何者かも忘れたのかって話…」


そこまで言ってエルケーニヒは空を見上げた。


雲一つない青空に巨大な魔法陣が刻まれている。


懐中時計を模したような幾つもの数字と円で構成された魔法陣。


明らかにマルガの魔法だ。


「…そんなに時間は残ってなさそうだな。急ぐか」


そう言うと、エルケーニヒは空の魔法陣は放置してどこかへと走り出した。








「…想像していたよりも、早いですね」


窓から外を見上げながらアンネリーゼは呟く。


あの魔法陣は、何らかの大魔法の発動を表している。


ただ都市を破壊する為の魔法、では無いのだろう。


大陸中のマナを使用した大魔法。


恐らく、これこそがあの魔女の本当の目的。


「…何にせよ、マギサの人々を傷付けるのなら阻止するまで」


マナは完全には回復していないが、一日は休むことが出来た。


マギサを守る結界を展開する。


不足しているマナは、己の命で代用すればいい。


「アンネリーゼ!」


「…? あなたは」


「今から俺の言う通りにしろ。そうすれば、あの魔女を倒せるぞ!」


窓を壊しながら現れたエルケーニヒは早口で捲し立てた。


「何か、作戦が…?」


何を言っているのか分からないが、この状況で嘘は言わないだろう。


一先ず、エルケーニヒの考えを聞こうとアンネリーゼは言った。


「良いか。今からお前は―――」


「――――――」


ガクン、とアンネリーゼはその場に尻餅をついた。


それだけ、エルケーニヒの言葉は衝撃的だった。


「しょ、正気ですか?」


「正気だろうが狂気だろうが、ここで負ければ人類終了だ。手段を選んでいる場合か?」


「で、でもそれは…魔道協会への…いや、人類全てに対する、裏切りですよ?」


「命より名誉を取るのか? あーあー冷たいな。今こうしている間にもエリーゼは魔女と戦って殺されているかもしれないってのに」


「うう…!? あ、あなたね…!」


嫌な言い方をする男だ。


エリーゼの命を人質に取るなんて、悪魔なのだろうか。


いや、魔王だったか。


「わ、分かりました! 分かりましたよ! あなたの言う通りにします!」


「よし。善は急げだ。さっさと行くぞ、アンネリーゼ」


「善じゃない! ぜったい善じゃないー! 歴史に名を残す悪行に手を貸そうとしているぅ!」


苦悩しながらもアンネリーゼはエルケーニヒと共に部屋から去っていった。

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