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愛慾の魔女  作者: 髪槍夜昼
最終章
100/112

第百話


「『レナトゥス』」


マルガは自身の頬に触れ、囁くように告げる。


魔法が発動し、頬の小さな亀裂が修復された。


(治癒魔法…? コイツ、魔女のくせに白魔法を…)


本来、エルケーニヒの黒いマナを宿す魔女と、白魔法は相性が悪い。


だが、マルガの身体からは二色のマナが放出されていた。


白と黒。


相反するマナが反発することなく混ざり合っている。


(…白魔法は生命の保存や維持を得意とする。時間停止の魔法も、白魔法を強化したものか)


外敵から生命を守るのが白魔法。


その解釈を拡大し、この世全てから己を切り離す魔法。


この魔法に守られている間、使用者は傷付けられることも、老いることも無く同じ形で保存される。


マルガの魔法はそう言う魔法だ。


魔女達の持つ再生能力も、マルガの魔法の劣化版だろう。


致命傷からも瞬く間に再生する不死性も、本来は不完全。


オリジナルであるマルガは、そもそも傷を負うことも無い。


(だが、だとすればさっきのひび割れが気になる。エリーゼに触れた瞬間にダメージを受けたのはどうしてなんだ?)


「………」


思考するエルケーニヒと同じく、無言で考え込むようにマルガはエリーゼを見つめた。


冷え切った灰のような目がエリーゼを射抜く。


「…そう言うことか。お前、周囲のマナを取り込んでいるのか」


どこか不快そうに、マルガは呟いた。


エリーゼの持つ周囲のマナを操る技術。


自身のマナを封印されていたエリーゼが生み出した戦う為の技術。


「…よりによって、私の前にお前のような人間が現れるとはな」


「…?」


「…まあ、千年も経つのだからそう言うことがあっても不思議ではない、か」


一人納得したようにマルガは頷き、杖を握った手を振り上げる。


「魔粒具現化」


瞬間、マルガの周囲に様々な色の粒が浮かび上がった。


赤や青、白に緑。


あらゆる色の粒が川のように流れ、マルガの周囲に集まっていく。


「これは…! 周囲のマナを…」


エリーゼと同じ、大気中のマナを操っている。


だが、その規模はエリーゼの比ではない。


マギサの大気に満ちるマナ。


都市に住む魔道士達が無意識に発するマナ。


この都市に存在するあらゆるマナを支配し、己の物としている。


「ハッ! 確かに俺の時代にも、使う奴はいたがな」


既に失伝したとは言え、かつては技術として確立していたものだ。


長い時を生きるマルガが習得していてもおかしくはない。


「だが、効率が悪くて、どいつもこいつも使いこなせなかった」


数多のマナを操り、杖の先に収束させるマルガ。


それを眺めながらエルケーニヒは言葉を続ける。


「まともに、使えたのは………」


「………エルケー?」


突然黙り込んだエルケーニヒに、エリーゼは首を傾げた。


その言葉に応えず、エルケーニヒは呆然とマルガを見つめている。


より正確には、マルガの握る杖を。


(…あの杖)


エリーゼもつられてマルガの杖に目を向ける。


マルガの持つ先端に時計が付いた仰々しい杖は、大量のマナを操る影響か、少し形を変えていた。


古びた木は白樺のような純白に変わり、先端の時計もどこかへ消えた。


長さも短くなり、マルガの手に相応しいサイズとなっていた。


「…アルベドの杖(・・・・・・)


「…え? 今、何て?」


「………おい、嘘だろ! お前が、そんな…!」


エルケーニヒの顔が青褪める。


今までに見たことが無いくらい、エルケーニヒは余裕を失っていた。


悪夢を見た子供のように、心を乱している。


信じられない。


信じたくない。


そんな言葉が顔に浮かんでいる。


「…そう言えば、最期まで本名を名乗ったことはありませんでしたね」


マルガは三角帽子を取り、その灰のような目を細める。


帽子の下から現れたその顔は、エルケーニヒにとって忘れ難い女の顔だった。


「私は、白き聖女(・・・・)マルガレーテ」


「…馬鹿な」


「久しぶり。そして、さようなら」


かつて、世界を救った女は無慈悲に杖を振り下ろした。

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