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彼女というものは

作者: りつん

突然だが、俺はいたって平凡な男である。


よくある中流家庭の長男で、弟妹がおり、普通に義務教育終了後は近場の公立高校に通い、

中堅どころの大学に進学し、特化した能力も希望もなく、なんとなく就活し、なんとなく地元企業に就職した、社会の歯車、モブである。


学生時代に青春漫画のような部活に打ち込んだりもしなかったが、思い返して不満が残るような事もない。


それなりに苦労もあったし、楽しかったし、馬鹿騒ぎもした。


平均的で、普通で、一般的。


キラリと光るものが無いかわり、抱える闇のようなものもない。


このまま、なんとなく仕事して、結婚して、生きていくだろうと容易に想像できる程、平凡。


そんな自分に不満があるわけでも、俺はまだ本気を・・と厨二的に考える事もない。


平凡結構。

過不足が無いのは幸せな事だと思う。


こんな感じに、力一杯自分の平凡さを強調したのには訳がある。


さっきチラっと出た「結婚」について。


俺も今年で27歳。

職場で、中堅とは行かないが、新人でもない。

そこそこ個人に任される仕事も増え、そろそろ家庭を持っても大丈夫だと思える今日この頃。


それに・・・


俺にも付き合ってる彼女がいる。


彼女は同級生なので、彼女もそろそろ結婚を考えているようだ。


ただ、この彼女というもの。


何と表現すればいいかわからないが、

平凡な俺の存在を、唯一かき乱すものだ。


彼女自身が、他と比べて特別容姿に優れているとか、何かの才能に満ち溢れてるなどという意味ではなく、

彼女の存在が俺の平凡な人生に、波紋をもたらすのである。



始まりは高校2年。

修学旅行のクラス別実行委員になった俺と彼女。

なんとなく共有する時間が多くなり、なんとなくよく話すようになり、

修学旅行中、なんとなく付き合う事でまとまった。

学校行事や季節のイベントは二人で過ごす、一般的な彼氏と彼女。

受験シーズンになんとなく連絡が減っていき、なんとなく話す事も少なくなり、

進路が分かれた事も相まって、卒業時には自然消滅した、よくある話。


成人式に同窓会を兼ねた集まりがあり、再会した彼女と、

なんとなく連絡をとるようになり、なんとなく会うようになり、

なんとなくもとさやに納まったのも、あるあるだろう。


その後も少し疎遠になったり、密になったり、

なんとなく、なんとなく、ゆるゆると付き合ってきた。


「このままズルズル付き合うのもいいけど、いろいろ不経済だし、一緒に住む?」

と聞いてきたのは、彼女。


「それじゃあ、いっそ結婚しようか?」

と答えたのは、俺。


そんな俺に彼女は

「ふふ、そうね・・」

と、笑う。


ほら、またコレだ。


彼女はいつも俺に踏み込んだ選択をせまる。

するりと心地よく、調子に乗った俺が更に踏み込んだ答えを返す。

すると彼女はふわりと笑う。


修学旅行先で彼女が

「旅行が終わっても、また色々話したいね。」

と言って、

「それなら、付き合っちゃおうか?」

と俺が返した時。


受験生になり

「しばらくは受験を優先させないとね。」

と言う彼女に

「進路も別れるし、このままお別れするかもね。」

と、イライラ交じりにぶつける俺。


同窓会で

「また会えるかな?」

「俺も会いたいよ」

と、喜んで応えた俺。


いつも、彼女はふわりと笑うんだ。


その度に、俺はドキドキして、身体中が心臓になったみたいになる。


平凡で平均的で一般的な俺が、映画やドラマの主役になったような気持ちになるんだ。


嬉しい気持ち、苦しい気持ち、楽しい事も後悔した事も、

物語の一部のように、俺の中でキラキラしだす。


俺は普通のモブなのに。


笑顔の彼女の本心なんて、ほんとのところは分からない。


それでも、彼女の創り出す波紋はいつも俺を揺らす。


結婚して、子供ができて、歳をとって、

平凡な俺は、彼女と人生を歩むと、時たまゆらゆら揺すられるんだろう。

幸せそうに。

そんな未来が容易に想像できる程、平凡で平均的で一般的な俺である。



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