08話 ヒューロン家の内乱(2)
つむぐは、水島さくらと山口すぐると宇宙人兵士の制服を着て、肌を緑色に塗り、ヒューロン家に紛れ込む。一気に王の間へと侵入しようとしていた。カイオ・ヒューロンに捕らえられているマク・ヒューロンを助け出すためだ。
顔を見られないようにしているとさくらが耳元で、
「下を向いていたら逆に怪しいわ堂々と歩きなさい」
「さくらちゃんは度胸あるね」
廊下を進んで行くと突き抜けの大きな広間に出た。王の間へと続く大きな階段があり、その先に大きな門がそびえ立っている。
「エリス・ヒューロン姫のご到着だ!!」
そうこうしてるうちにエリスが到着してしまった。宇宙兵達が両端に整列してエリスを向かい入れる。その列につむぐ達もうまく紛れ込んだ。
「間に合わなかった……」
エリスが廊下から姿を現す。その三歩後ろにリーチ・ライトンがついていく。つむぐ達の目の前を通り過ぎる頃、
キイイイイイ
王の間の扉が開き、カイオが姿を現す。
「やぁ、姉さん急いで来てくれたんだね」
「カイオ!! どういうつもりなの?」
「演説した通りだよ。第二次宇宙戦争をする。ただし、ブラックボックスの力を活用して、我々が大勝利を収める」
「戦争をもう一度する意味はわかってるの? 多くの犠牲が出るのよ」
「犠牲を出したにも関わらず、こんな小さな宇宙人移住区に閉じ込められて悔しくないのか? ヒューロン家としてのプライドは捨てたのか? 姉さんと話してもらちがあかない。捕らえろ!!」
「はっ!!」
勢いよく名乗り出るさくら。
「何やってんのつむぐくん。チャンスよ」
さくらに引っ張られてつむぐはエリスの元へと走り、背後に回るとエリスの腕を拘束する。そして、すぐるはリーチを拘束した。
「王の間へ連れて来い」
「はっ!!」
カイオに導かれドアをくぐり抜けると中世ヨロッパの貴族のような豪華な作りになっている。舞踏会でも開かれるような広い作りだ。奥に目をやると一段高くなったところに王座があり、そこへマクが両腕を椅子に縛られ座っていた。
「父さんエリスが来てくれたよ。そこで見ていてくれ!! さぁ、箱を渡してもらおうか」
エリスの拘束を解くと、エリスは服の内側から大事そうに黒い箱を取り出す。
「姉さんありがとう!!」
「待って、お父様を放すのが先よ」
「わかってないな。今は立場が僕のほうが上だ。そっちらが先だ。早く渡せ!!」
床に箱を置くエリス。
「こんなちっぽけなものが本当に星をも飲み込むブラックホールを作るのか?」
床の箱を拾おうとするカイオにさくらが、
「動くな!!」
レーザー銃をカイオに向ける。
「なんだ貴様は!! エリス側の兵が紛れていたのか!?」
さくらは頬に塗った緑のインクをぬぐい取る。
「地球人!? くそおおおおおおおおおが!! こんなところまで入って来やがって」
つむぐがエリスに話しかけ、
「エリス」
「つむぐ?」
エリスはつむぐに気づいたようだ。つむぐを見て涙目になるエリス。泣きそうになるのを必死にこらえて床の黒い箱を再び服にしまった。
すぐるがリーチの拘束を解き、
「今だけだからな。宇宙人と仲良くなんかできるか」
レーザー銃を渡す。リーチは深々とお辞儀を返した。
つむぐ達の勝利に見えたが、カイオが指で、
パチン
合図を送ると、兵士がいたるところから出てきてつむぐ達に、レーザー銃を向け取り囲んでしまった。
「私に簡単に勝てるとでも思ったのか? だが、ここまで侵入して来たことにはビックリしたぞ。さぁ。姉さん箱を渡してもらおうか。父さんの命が飛ぶよ」
マクを見ると、兵士がレーザー銃を頭に突きつけている。
「早くしなよ」
エリスは黒い箱を服の中から出す。
「渡しちゃダメだ!!」
「でも、お父様が殺されちゃう」
つむぐの制止を無視して、カイオの元へと歩みよって行く。
「渡す代わりに、彼らを逃がして上げて欲しい」
「あぁ、約束しよう。さぁ」
カイオの手に黒い箱がわたる。
「くくくく、ついに手に入れたぞ!! うん? 開かないな。どうやって開ける?」
「ごめんなさいね。私も開けようとしたけど、どうやっても開けられなかった」
床にふさぎ込み自らの腕を噛む、
グウウウウウ
「手に入れたところで開け方がわからなければ意味が無い。渡したわよ約束通りお父様を解放して」
カイオの懐から、
カチン
音がする。
「ふははははは、嘘だよ。開け方はわかっているのさ」
「どうして?」
「これはヒューロン家の血でのみ開けることが出来る」
カイオは腕を噛み血を出し黒い箱に塗りたくっていた。
「さぁ、ヒューロン家に繁栄をもたらす天使よ出てこい」
黒い箱を覗き込むカイオ。動きが止まり、
フルフル
震えている。
「なにも入って無い!! どういうことだ!!」
黒い箱を床に投げる。
カランカラン
床に転がり、エリスの足元へ、
「本当に何も入っていない」
「父さん!! どういうことなんだこれは?」
マクの口が静かに開くと、
「はじめから無かったのだ。ブラックホールを作る装置など。ヒューロン家の一代目の王は、口がうまい男だった。つまり詐欺師だった。ある日その男がブラックホールを作れる装置があるとホラを吹いた。それがヒューロン家の始まりだった」
カイオは戦意を失い、へたり込んでしまう。つむぐ達を取り囲んでる兵士達が慌て出す。
「これは一時休戦ね。強力な兵器がなければ、戦争の終わりは見えない。双方の犠牲がただ増えるだけ」
兵士が戦意を喪失して武器を下ろすと、エリスがマクの元へ走る。
「お父様!! ご無事でしたか?」
「あぁ。エリス耳を貸してみなさい。おまえだけに本当のことを話す」
エリスがマクの口元へと耳を近づける。
「さっきの話はまったくのでたらめだ。中身はおまえに渡したペンダントだ。しっかり持っているのか?」
「え…… はい。ちゃんと持っています」
エリスはつむぐにペンダントを上げてしまった。とは言えず嘘をついてしまう。
「カイオよ!! まだ茶番を続けるか? 少し頭を冷やせ!! 反逆を行った兵士達よ。カイオを捕らえよ!! 反逆の罪少しは軽くしよう!!」
カイオについていた兵が裏切り、カイオを拘束する。
「つむぐちょっと来て」
エリスが手招きする。まわりに誰もいないことを確認すると、
「私があげた。ペンダント持ってる? あれがブラックホールを生み出す装置だったみたいなのよ」
「え!?」
大きい声を出すつむぐ。
「しっ!! 返してもらっても良い? 私が持ってたほうが良いと思うの」
「その…… 言いにくいんだけど。どこかで無くしたみたいなんだ」
「どこ!?」
つむぐは伊藤だんさくに空飛ぶ車から落とされたときを思い出す。落とされたときにペンダントが切れて、だんさくの手にペンダントが残った。
「あのときだ。だんさくに空飛ぶ車から落とされたとき。ペンダントを掴まれて切れたんだ」
「なにそれ!! じゃあ、だんさくが持っているってこと?」
「ごめん。そうかもしれない…… でも、だんさくはペンダントがブラックホールを生み出す装置だって知ってるのかな?」
「……」
エリスは今日の出来事で、疲れ切ったのか。頭の思考回路が切れる。
「もう!! 後で、取り返す作戦を考えるわよ」
エリスとひそひそ話をしているとマクが、
「エリスよ!!」
「はい、お父様」
「エリスの友人に感謝を伝えたい」
その後、マクから長い言葉をもらい。その言葉はまったく頭に入って来なかった。ペンダントを取り返すにはどうするのか。頭の中を右に左にこねくり回すが答えは見つからない。