06話 水島さくら先生出番ですよ
八雲つむぐは地球軍に荒らされた自分の部屋を片付けていた。
「ふぅ…… そろそろ休憩にしよう。なんだこれは?」
ふとポケットに手を入れると紙が入っていた。
『18日 14時 宇宙交流広場 エリス・ヒューロン』
と書かれたメモ。
「いつポケットに? あの時かな?」
先日、エリスに抱きしめられたことを思い出す。つむぐはこの手紙の真意がわからず、頭がいっぱいになりパンクすると、水島さくらへと電話した。
「部屋を掃除してたらポケットにメモが入ってて。エリスから時間と場所が書いてあって。それはつまり」
「落ち着いて。デートの誘いじゃない?」
「デデデ、デート!? やっぱりそうなのかな? でも誰かがいたずらで入れたかもしれないよ。明日なんだ。どうしよう」
「明日!? あんたデートに着てく服とか持ってるの? そっちへ行くわ」
さくらは家に来てくれたのだが、部屋はみるみるうちに散らかっていく。服をいろいろと引っ張り出し、これでも無いあれでも無いとさくらが散らかす。
「せっかくキレイにしたのにまた片付けなきゃいけないよ。デートじゃないかもしれないし、違う誰かがメモを入れたのかもしれない。いつもの服で行く」
「デートだったらどうするの? 好きなんでしょ?」
「わかんないよ。相手は宇宙人だし」
「つむぐくんは宇宙人と友好な関係を築きたいんでしょ? 私がついていれば成功間違いなし!!」
翌日、狩人の様な服を着て一輪のひまわりを持って、宇宙交流広場でつむぐは待っていた。
「この服で本当に大丈夫なのかよ」
「男はワイルド!! 私を信じなさい!!」
後方10メートル先の花壇の影に隠れ、つむぐの耳に付けた小型無線機で指示を出すさくら。
「さくらちゃん俺で遊んでない?」
「来たわ。背筋伸ばしなさい」
前方からエリスが、サングラスに帽子を被り現れた。
「つむぐ!! 待った?」
「いや、今来たところ。はい、これ」
ひわまりを無造作に渡すつむぐ。
「なにやってんの。そこは、ひざまずいて渡すのよ!!」
さくらが無線機で指示を出す。
「ごめん」
「ごめん? 花よりもその服ダサくない? 地球ではそういう服が流行ってるの?」
さくらが無線で、
「宇宙人の感覚じゃあわからなかったみたいね」
先が不安になるつむぐ。そんなことよりも聞くことがあった。
「きょ、今日は何の用事だったの? メモになにも書いて無かったから」
「会いたかったからに決まってるでしょ。抜け出すの大変だったんだから。夕方まで時間があるの。どこか連れてって」
「それならさ、映画でも見に行かない?」
つむぐはエリスを案内し、映画館に向かう。さくらが選んだ映画『鬼が来る2』だ。ホラー映画で吊り橋効果を狙えというさくらの作戦だ。ドキドキさせることで恋のドキドキだと錯覚させる。映画が終わり。外へ出るとエリスは、
「地球の映像のレベルの低さにビックリした。どうしたの? すごい汗」
「実はすごく苦手で……」
「え!? こんなので?」
映画は完全に失敗に終わった。さくらが無線機で次の指示を出す、
「情けないな…… 気持ち切り替えて、次は甘いもので気持ちを上げさせるの。バナナプディングサンドウィッチを食べにショッピングモールの屋上に行きなさい」
ショッピングモールの屋上は小さな遊園地になっていて。ジェットコースターやメリーゴーランド。大きな観覧車などがある。そこにキッチンカーが出ている。
「このバナナプディングサンドウィッチが人気なんだって」
「私、バナナ嫌い。この前テレビで食べたとき吐きそうになったの」
さくらの作戦はことごとく失敗する。さくらに頼まなければ良かったと後悔するつむぐ。
「あ!! エリス・ヒューロンだ!!」
「どこどこ? 本当だ」
周りの人達がエリスだと気づき、人だかりが出来始めてしまう。
「行こう」
手を引っ張るつむぐ。さくらが無線機でつむぐに指示を出す。
「そこを右に曲がって、次は左。それに乗り込んで」
「ここは……」
指示されたのは観覧車だった。
「あとはつむぐくん次第よ。私にできるのはここまで、観覧車と言えばキスよ」
「え? 待って。さくらちゃんの作戦全部失敗だったぞ」
「幸運を祈る」
さくらと繋がってた無線機が切れた。
「どうしたの?」
「ううん。なんでもないよ」
つむぐは覚悟を決めて観覧車に乗り込む。
「もうどうにでもなれ」
向かい合わせで座り、外を見るとどうやら誰もついて来て無いようだ。
「そろそろ。終わりだね。夕日が射してきた」
夕焼けで町が染まる。
(まだ終わりたくない)
「次はいつ会える?」
「わからない。スケジュールがパンパンなの。そっちに行って良い?」
「う、うん」
エリスがつむぐの横に座って来る。
「つむぐ……」
「ぎゅ」つむぐの腕をつかんで抱き寄せるエリス。
「はう!? どどどど、どうしたの?」
「なんだかこの乗り物恐い。狭いし大丈夫なのこの乗り物。グラグラ揺れる」
エリスがつむぐを見つめてくる。
ドキドキドキドキ
ドキドキドキドキ
ゴックン
唾を飲み込むつむぐ。
「……」
二人の顔が近づいて行く。
「ひめええええええええ!!」
耳がつぶれるほどの音が響きわたる。エリスの老執事リーチ・ライトンが噂を聞きつけ空飛ぶ車に乗ってやってきた。
「仕事をほったらかしてなにをされてるんですか? テレビ局の人がお待ちです!!」
ガジャン
老執事リーチが観覧車のドアをこじ開けると、有無を言わさず急いでエリスを連れて、飛び去って行った。ひとり取り残された観覧車で、
「また会えるよね? もう少しだったのに。ちぇっ」
ジ
さくらとの無線機が繋がる。
「なにやってんのよ。グズグズしてるからよ」
「見てたの?」
「私の作戦は大成功だったわね。やっぱり観覧車は良い!! これは脈ありだわ。次もさくら先生が指導してあげる」
「二度と相談するか!!」
耳につけた無線機を切ると、こじ開けられたドアの向こうに日が沈んでいくのが見える。
「夕日きれいだな」