03話 ムーブメント
八雲つむぐは知り合いのおじさんが経営する居酒屋『エイリアンズオアシス』で働いていた。宇宙人は酒のとりこになって、昼間から酒を求めて来る。忙しい時間が過ぎたころ、
「つむぐ、休憩行っていいぞ!!」
「はい!! 休憩いただきます」
つむぐはおじさんから休憩をもらった。店の裏にある路地裏でまかないを食べていると、
「うわ!!」
緑の肌をした少女が茂みの中から突然現れた。黒い帽子を深く被っている。
「はぁはぁはぁはぁはぁ」
そっと帽子の中を覗き込むとそれはエリス・ヒューロンだった。
「エリス!? どうしたんだ。なにがあった?」
「説明は後にして、とにかく逃げるのを手伝って欲しい」
「逃げるってなにから?」
「早く!!」
エリスに手を引っ張られ路地を後にすると人混みの多いい繁華街に入った。
「今抵抗勢力から追われてるの」
「あの品の良い老執事と部下がいるだろ? 助けてもらえば良いじゃないか」
「老執事? リーチ・ライトン達は途中でやられてしまったわ。これを安全なところまで持って行かないといけないの」
エリスが上着の内ポケットから小さな正方形の黒い箱をチラっと見せる。
「もうここまで。走って!」
後ろに目をやると人混みをかき分けてこちらに走ってくる集団がいる。
「こっちだ!!」
エリスの手を引っ張り。細い路地に入ると、右へ左へ進んでいく。
「はぁはぁはぁ」
「もう大丈夫そうだな」
後ろを振り返り確認する。誰も付いて来て無いみたいだと思ったが、
「そこのお二人さん!!」
上空から空飛ぶバイクでフルフェイスのヘルメットを被る女性が現れた。
「持ってるものを渡して!!」
「いやだね!! 逃げないから降りて来いよ!!」
二対一なら勝てると思ったつむぐが相手を挑発する。降りてくるバイク。
「つむぐくん。エリスから黒い箱を奪って」
「えっ!! なんで俺の名前を?」
ヘルメットを脱ぐとそれは近所に住む水島さくらだった。
「なんでさくらちゃんが?」
「それを渡してくれれば、一気に戦局が変わるの。平和のためなの」
気が動転するつむぐ。
「騙されるなつむぐ!! こいつらは宇宙人を根絶やしにしようとしてる連中だぞ!!」
「あなた達が来なければ、私達は平和に暮らしていた。大切な人が亡くならずに済んだ。」
つむぐは少し考え、
「……エリスそれを渡して」
「なに言ってるつむぐ? 正気か?」
さくらがレーザー銃を懐から出し、エリスに向けながらこちらに来る。
「わかってくれたのね。さぁ、出して」
「いや、わからない。ごめんさくらちゃん」
ドン!!
安心してるさくらの背中を押す。倒れた拍子に持っていたレーザー銃を落とす。それを拾いさくらに突きつける。
「おれの間違いだったら悪いけど、もしかしてお祭りの屋台を爆破したのはさくらちゃん?」
「……」
「黙ってるってことはさくらちゃんがやったの?」
「仕方なかった。威嚇のつもりだったのよ。まさか殺してしまうなんて」
エリスの腕を掴み空飛ぶバイクに連れて、後部座席に座らせる。
「見損なったよ」
空飛ぶバイクに乗るとエンジンを入れ、つむぐは飛び立つ。
「私は間違ってない!!」
三島さくらが叫ぶのを見ながらつむぐは苦い顔をしてその場から離れた。ビルの屋上に降りると辺りを確認して、服の中から黒い小さな箱を取り出すとエリスは説明を始めた。
「このブラックボックスは、中にブラックホールを生み出す反物質が入っているの。私達ヒューロン家が栄華を迎えたのはこれを手に入れてからだと言われている。私には開け方はわからない。私の父ヒューロンの王。マク・ヒューロンのみが知っている。都市を飲み込み。そしてそれは星をも飲み込んでいく」
「なんで厳重に保管しとかないんだよ」
「それは…… 不穏な空気を察した父が、次の王である私に託し、新たな隠し場所に移動しているときだった」
つむぐはエリスの肩にのしかかってる重さをはじめて感じた。
そのときだった。ビルの下から四方を空飛ぶ車が飛び上がって来て、囲まれてしまう。空飛ぶ車の後部座席の窓が開くと水島さくらがこちらをのぞく。
「それを渡しなさい!!」
「さくらちゃんやめようよ!! 宇宙人は地球人と何も変わらない。話し合えばわかるはずなんだ!! エリス早くバイクへ」
エリスを後部座席に座らせて、つむぐも空飛ぶバイクに乗り、
ドゥルルルン
エンジンをかけ飛び出す。
「悪いわね。つむぐくん」
さくらはランチャーを取り出し、二人に向けて撃つ。
ドーーン
光を放ちながら弾が飛んで行く。
バチバチバチ
その光の弾は左に右に曲がり追尾して来る。
「まずい!! 当たる!!」
バイクに当たると強烈な電気が二人を襲そう。
「うわあああああああああ」
「きゃあああああああああ」
路上に投げ飛ばされる二人。すぐに黒ずくめのサングラスをつけた集団に囲まれ、さくらがエリスの服の中に手を入れる。
「やめろ……」
つむぐは電気でしびれ動けない。エリスは気を失っている。
「あったわ。つむぐくんごめんね。これがみんなのためなの」
「……」
去っていくさくらの後ろ姿を見ながらつむぐは気を失う。起きるとそこは病院のベットだった。うつろな意識の中。エリスにもらったネックレスを握りしめ、エリスのことを考えていた。
サーー
ベットのカーテンが開くとそこにエリスの執事リーチが立っていた。
「つぐむさん。あなたを巻き込んでしまって申し訳なかった。今後は我々で対処して行きますので、あなたはユリス姫に近づかないでください」
「でも、俺はエリスの力になりたい」
「そのお気持ちだけもらっておきます。姫は一般の方と交わってはいけないのです。犠牲を払ってでも大きなものを動かなさなければいけないときが来る。そのときに私情を挟まないためなのです。すべては我らのヒューロン王家が束ねる民を考えてのことなのです。わかって頂きたい」
「あ…… はい……」
「それでは失礼します」
サーー
カーテンが閉まり、一人取り残されたつぐむは考えがまとまらずモンモンとした。