02話 緑の少女の決意
「家出してきた!!」
「エリス!!」
チャイムが鳴ったので、玄関を開けるとそこには大きい荷物を背負ったエリスが立っていた。宇宙人向けの居酒屋を経営しているおじさんから聞いてここに来た。
「うんうん、私がいなくてさみしかったよね。じゃあ失礼しまーす」
うれしそうにしてるつむぐに挨拶をすませると、勝手に家に上がりこむ。
つむぐの母を見つけ、
「あ!! お母さま。私はエリスと申します」
「あら、つむぐちゃんの彼女?」
「はい!! しばらく置いてくれませんか?」
つむぐが彼女では無いことを否定しようとすると、奥から農作業を終えた父が険しい表情で入ってきた。
「その緑の肌は宇宙人だろ!! 出ていけ!!」
「良いじゃない。仲良くやりましょうよ」
「戦争を忘れたのか!?」
母と父が口論になり、つむぐはエリスの腕を掴みとりあえず自分の部屋へと連れて行く。
「家出して大丈夫だったのか?」
「私がいなくても大丈夫だよ。政治には興味ないし」
初めての異星人の部屋に入ったエリス。
「へー、これが地球人の家か」
「あのなー。うちにはエリスを置いておけないぞ。エリスの執事がまた来たら」
「これはなに?」
ベッドの下からエロ本を見つけて、急いで本を奪い取るつむぐ。
「バカ!! これはだなー。俺なりに勉強しようとしてだな」
「ふーん」
部屋に興味が無くなり、次に興味を持ったのは窓の外で農作業を始めた父だった。
「農業やってみたい!!」
「ちょっと待て!!」
つむぐが止めるのを無視して、行ってしまった。エロ本を持っていることに気づき慌てて隠し場所を探す。
「どこに隠そう」
畑に来たエリスは、父のマネをして大根を抜こうとするがなかなか抜けない。見かねた父は、
「そんなんじゃだめだ。もっと腰を入れろ」
「こう? うわぁ!!」
大根は抜けたが、拍子で転んでしまった。泥だらけになるエリスを、ようやくエロ本を隠し終えたつむぐが来て、手を出して起こしてあげる。
「ジッとしてろよ」
父が洗った大根を渡す。
「食ってみろ」
「すごくおいしい!!」
「そうだろう」
どうやら野菜を褒められた父はエリスを認めたらしく、農作業を教えるのに熱が入る。
「違う。これじゃあ野菜がダメになる。傷がついた野菜は売り物にならない」
父の様子を見たつむぐは、一緒に農作業の手伝いをし、様子を見ることにした。
農作業を終えて泥だらけになったエリスを母が、浴衣に着替えさせ、恥ずかしそうに出てきた。
「どう? 似合ってる?」
「う、うん」
恥ずかしそうにしているエリスは肌が緑色だということを忘れさせるぐらいかわいい。
「今日はお祭りだからつむぐと行ってらっしゃい。今年は、交流もかねて宇宙人も参加する祭りなの」
「お祭りとはなに?」
「お祭りっていうのは、作物が良く育つようにみんなで神様にお願いするんだよ」
「ふーん」
あまり気乗りしてないエリスだったが、着いてみると子供のようにはしゃいだ。つむぐの手を力いっぱい引っ張っていろんなものへの興味は止まらない。射的をやったり、金魚すくい、たこ焼きを食べたり。
「つむぐ早く行こう。次はあれ!!」
「はいはい」
りんご飴の屋台の行列に並んでいると、
「つむぐくん。その子は誰?」
幼馴染の水島さくらに話しかけられた。つむぐはエリスとつないでいた手を恥ずかしくなり離す。
さくらは近所に住む二つ上のお姉さんで、小さい頃から本当の兄弟のようにつむぐの身の回りの世話をしてくれた。
「さくらちゃん。この子はおじさんの居酒屋で知り合った子で」
「はじめまして、私はエリスと申します」
「どうもはじめまして。へー、つむぐくんがナンパねー」
「ナンパじゃないよ。これには深いわけがあって」
「このこのー。大人になっちゃって」
「だから違うって」
じゃれ合うさくらとつむぐを見てエリスは、
「私帰る!!」
「りんご飴は良いの? なに怒ってるんだよ」
すねて行ってしまった。
「ごめんさくらちゃん。またね」
「早く行ったあげな」
さくらと別れを告げてエリスのほうへと行こうとすると、
ドォーーーーーーン!!
エリスの行ったほうこうから爆発音が鳴った。
「きゃーー!!」
「わぁーー!!」
人々が雪崩のように音の鳴るほうから押し寄せてくる。それに逆らい進んで行くとエリスが倒れていた。
「エリス!! 大丈夫か!?」
「うん。ビックリして足をひねっただけ。つむぐ、これもお祭りか?」
「いや違う。とにかく逃げよう」
エリスをお姫様抱っこしてとにかく走った。
家に帰ると母が心配そうに二人を出迎えた。父がリビングでテレビをつけている。ニュースではさっき起きた出来事がもうニュースになっていた。
「宇宙人がやっていた屋台の発電機が爆発をしたみたいなんです。専門家の意見では爆発が大きく、宇宙人を狙ったテロじゃないかという意見もあります」
「宇宙戦争が終わって10年。まだ戦争は終わって無いということですよ。戦争の傷はそこらじゅうでくすぶっている。宇宙人との交流はやるべきではない」
「でも、肌の色が違うだけで地球人の体の作りとほとんど変わらないですよね」
「何を言ってる。すぐに高い塀で囲ってしまったほうが良い!!」
テレビではコメンテーター達が熱い討論をしている。それを見たエリスは悲しい顔で立っていた。
「気にすることないよ」
つむぐが反論するとエリスは、
「私やっぱり家に戻る。地球人と宇宙人が仲良くなる道を探す。私に出来るかどうかわからない。でも、少しでも手を取り合う世界を作りたい。私にはその権限がある。お世話になりました」
荷物をまとめ始める。それを見ていた母はエリスに、
「エリスちゃんのせいじゃない。今日はもう遅いから泊まっていきなさい。ね?」
母の言葉を聞くとエリスは泣き出し、母は優しく抱きしめ頭を撫でている。
つむぐはエリスを母に任せて、さくらちゃんの家に電話をかけることにした。
「もしもし、さくらちゃん? ちゃんと帰れた? うんうん、良かった」
さくらちゃんが無事に帰っているとわかってホッとした。
翌日、玄関で挨拶を済ませていると、父はビニール袋いっぱいにうちで採れた野菜を詰めて渡した。
「持っていけ」
「ありがとうございます」
「途中まで送って行くよ」
つむぐが宇宙人移住区の入り口まで送り届ける道中。
「足大丈夫?」
「うん、走るのはまだ無理だけどもう歩ける。ありがとうね。ちゅ……」
「あ……」
エリスがつむぐの頬にキスをする。つむぐはビックリして顔を赤くした。
「これは私たちの挨拶なの。深い意味は無いから」
「ここでそれしたら勘違いしちゃうからやめろよ」
「ふふふ。私がこの前あげたネックレス絶対に失くさないでよ」
「おう」
「ここまでで良いよ。じゃあまたね」
「あぁ、また」
つむぐは立ち止まるとエリスの背中が見えなくなるまで見ていた。エリスは振り返らずにそのまま去っていった。