最終話 ブラックホール
八雲つむぐとエリス・ヒューロンの目の前で、伊藤だんさくはブラックホールの装置に腕を取り込まれ、意思とは関係なく頭上にブラックホールが生み出される。だんさくはブラックホールに飲まれようとしていた。
「これがブラックホールなのか。きれいだ」
だんさくの目にはきれいに見えるらしい。そこへ一台の空飛ぶ車が飛んできた。ドアを開けて出てきたのはマク・ヒューロン。エリスの父だ。
「だんさく早まるな!!」
「今更来ても遅い。ブラックホールが腐った世界を飲み込み浄化してくれる」
「まだ腐ってなどいない!! ローレムがだんさくに残してくれたものがある。エリスはおまえとローレムの娘だ」
「なにを言ってる!?」
「よく見てみろ。ローレムに似ているだろう」
「……」
エリスは突然のことで何を言ってるのかわからず、マクに近寄って質問する。
「なにを言っているの?」
「すまない。地球人との間に出来た子供を公表することは出来なかった。亡くなった妹の変わりに私の子供として育てた」
だんさくの体が、すっと浮かび上がり。エリスを見つめながら吸い込まれて行く。
「ローレム……」
「だんさく!!」
マクは必死で手を伸ばすがもう遅かった。だんさくは、ブラックホールへと消えていった。
「エリスよ。私は中に入ってだんさくを連れ戻してくる。良いか。この黒い箱はブラックホールを吸い込み封印することができる。八雲つむぐくんだったかなエリスを頼む」
ブラックホールを生み出す装置が入ってるとされていた。小さな黒い箱をエリスの手に乗せる。
「必ずだんさくを連れて戻ってくる。戻って来なかったときにはその箱を起動しろ」
「お父様!! ダメです!!」
「私はお父様ではない。今まで言い出せずにすまなかった。妹が愛した男を見捨てるわけにはいかない」
ブラックホールへとマクは走り出す。
「友よ。待っていろ!!」
マクはブラックホールへと消えていった。エリスがマクを追いかけようとするのでつむぐは、
「誰がブラックホールを閉じるんだ。今はここから離れよう」
エリスをひっぱりそこから逃げる。ブラックホールはみるみると膨らんで行き。地球軍基地の建物を出るときには3階から先は吸い込まれていた。遠くを見ると地球軍と宇宙軍の兵士達が逃げて行くのが見える。
「姉さん!!」
そこへカイオ・ヒューロンが一人だけ逃げずに突っ立っていた。
「カイオ。一緒に逃げましょう」
「なに言ってるんだ。世界を浄化してくれるものがそこにあるじゃないか」
「なに言っているの? 一緒に来て」
エリスがカイオの手を引っ張り一緒に逃げようと促すが、
「姉さんも中に入ろう。きれいだ」
エリスを持ち上げ、肩に担ぐカイオ。
「やめて離して!!」
「やめろ!!」
カイオに突進するつむぐ。エリスは地面に転げ落ち、つむぐは倒れたカイオの上にまたがり羽交い絞めにする。みるみるうちに膨らんでいくブラックホールはすぐそこまで来ている。
「あれのどこがきれいなんだ!!」
「きれいじゃないか。星を飲み込んですべてを無かったことにしてくれる。戦争を無かったことにできる」
「無かったことになんか出来ない」
「おまえは見たことがあるのか? 仲間が目の前でゴミのように潰れて行く様を!! どけ!!」
つむぐを無理やり弾き飛ばすと、目の前まで広がったブラックホールへと歩みを進める。
「カイオ!! 行かないで!!」
エリスがカイオの手を掴む。ブラックホールから離そうとするが、
「姉さん来てくれたんだね。さぁ。行こう」
聞く耳を持ってくれない。エリスの手を掴み連れて行こうとする。
「エリスを離せ!!」
つむぐはカイオとエリスを引きはがすと、
ドン!!
エリスを突き飛ばす。カイオとつむぐの体が宙に浮く。
「エリス待っていてくれ!! 必ず戻って来る!!」
つむぐはエリスにそう告げると、カイオと共にブラックホールへと吸い込まれてしまった。
長く暗いトンネルのような空間を抜けるとそこには宇宙人と地球人が共存している町が広がっていた。みんな幸せそうだ。
「つむぐ待った?」
「ううん。今来たところ」
気が付くと横にエリスが立っていて、話しかけてくる。
「どうしたの? そんな顔して。私とのデート嫌だった?」
「そんなことないよ。今日はなにしようか?」
「じゃあね。バナナプディングサンドウィッチ食べに行こう」
「うん」
「こっちよ」
エリスに手を引っ張られて、ショッピングモールの屋上にある出店で注文し、バナナプディングサンドウィッチを二人で食べる。
「おいしいね」
「……」
つむぐはバナナプディングサンドウィッチを食べてみたのだが、味がしない。
「つむぐどうしたの? もっと楽しそうにして」
「味がしないんだ。ここはどこなんだ」
「なに言っているの。私だけを見て」
「違う!! 俺は戻らなきゃ行けないんだ。エリスの元へ」
「私ならここにいるよ」
「エリスはバナナが苦手なんだ。君は誰なんだ? たしか俺はブラックホールに吸い込まれて」
頭をむしるつむぐ。
(どうなってるんだ?)
考えてみても頭の中は靄がかかったようだ。
「ねえ。私を見て」
「君は違う!!」
つむぐはひざまずいて、
ドンドンドン!
地面に自分の頭を打ち付けた。額からは血が流れる。目の前の景色は形を変えて、何もない無機質な空間へと変わって行く。辺りを見回すと、だんさくとカイオが倒れているのを見つけた。駆け寄り起こそうとするが、
「おい!! 起きろ!!」
「ふふふふ」
「はははは」
二人とも良い夢でも見ているようだ。だんさくの腕についていたブラックホールを発生させる装置は、外れて無くなっていた。つむぐは2人を、
ズルズル……
引き釣り遠くに見える暗いトンネルへと歩みを進める。
「行っちゃうの? ここは楽しいところだよ。すべての願いが叶う。死んだ人にも会える」
つむぐの後ろから誰かの声が聞こえる。振り向かずトンネルだけを見つめ進んで行く。
「行くよ。ここには何も無い」
「そっちの世界は辛いだけだよ。戦争に終わりなんてない。君は憎しみが消えないことを知っているだろう?」
「憎しみは消えない。だけど、新しく希望を生み出すんだ。憎しみが見えなくなるほどの大きな希望を」
必死でトンネルの入口まで運ぶと、そこにはマクが倒れている。マクも良い夢を見ているみたいで起きない。
「3人も持てるのかい?」
「この人達に見せたいんだ。起きてくれ!!」
思いっきり引っ張るが3人は重くて持てない。トンネルが段々と小さくなっていくのを感じる。
「誰か1人を置いていけば良い。マクは平和を祈っていたから連れて行こう。おすすめはだんさくだね。彼はここで愛しい人と共に生きる。いや待てよ。カイオも良いかもな。戦争がしたいと言っていたし、ここから出たらまた反乱を起こすかもしれない」
「誰も置いていかない!! ぐうううううう!!」
3人を引っ張るつむぐ。頭がくらくらしてきた。頭から血を流しすぎたのかもしれない。
「ふふふふふ。その覚悟続くのかな? 戻ればまた戦争が起こるぞ。愛しいエリスが死ぬかもしれない」
「そんなこと起こさせない。俺が絶対に守る」
「もう君としゃべるのはうんざりだな。3人とも外の世界に持って行けばいいさ。バイバイ」
「うわ!!」
つむぐ達の地面に穴が開き、穴に落ちて行く。目を開けるとそこは宇宙人移住区の目の前だった。4人とも無事にブラックホールから出られたみたいだ。エリスが移住区の入口から走ってくる。
「本当にエリス?」
「つむぐ!!」
エリスは涙を流し、つむぐを抱きしめた。
「早くブラックホールを閉じよう」
エリスはうなずくと、黒い小さな箱を取り出し自分の手を噛み、箱に血を垂らす。
「パカ」
箱が開くとつむぐと一緒に持って膨らみ続けるブラックホールに向ける。
ズズズズズズズズ……
箱がブラックホールを吸い上げて行く。数秒で吸い終わるとそこには丸い大きなえぐられた地面だけが残った。そして、エリスとつむぐは向き合うとキスをした。
「そんな堂々と良く出来るわね」
「さくらちゃん」
水島さくらが立っていて、その後ろには多くの人が立っている。マクに、だんさくに、カイオも起きて二人をにやにやしながら見ている。
「……」
「……」
多くの人に注目されて顔を真っ赤にする2人。
「見るな!!」
「見ないで!!」
ブラックホールは、4人以外にも吸い込いこんだのだが。全員吐き出され、いなくなったものはいなかった。
それからマク・ヒューロンと伊藤だんさくを中心に、えぐられた丸い地面に新しい町を作った。そこは宇宙人と地球人が共に住むことを目的とした都市だ。緑色と肌色が混ざり合い生活している。
そんな町のベンチに座る宇宙人と地球人の子供が、隣で座る地球人の父親に質問をする。
「なんでお父さんとお母さんの肌の色は違うの?」
「お父さんは地球に生まれて、お母さんは宇宙で生まれたからだよ。違うのは嫌?」
「ううん。かっこいい」
おわり
最後まで読んでいただきありがとうございました。この作品は僕の処女作になります。つたないところもありお恥ずかしいんですが、最後まであきらめずに突っ走ってみました。
いかがだったでしょうか? 本文下にある。☆☆☆☆☆で評価。そして、一言だけでもかまわないので、感想も出来ればよろしくお願いします。お褒めの言葉も、批判も、作品の原動力にさせてもらいます。
次の作品も書いています。よろしければ、作者名「やみの ひかり」で検索よろしくお願いします。