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宇宙人移住区  作者: やみの ひかり
10/11

10話 若き日の三人

 20数年前、まだ宇宙人と地球人が戦争をしている頃の話。若き日のだんさくは作戦命令により、宇宙人の飛空艇を何機か落としたのだが、迎撃され山の中へと不時着した。


「SOS!! SOS!! こちら第三飛行部隊所属伊藤だんさく…… 無線機が壊れている」


 戦闘機が煙を上げている。


(これでは敵に見つかってしまう)


 近くに川を見つけたので、消化のため水を汲みに行くと宇宙人が倒れている。


「まだ息がある」


 息の根を止めるため銃をかまえ狙いをさだめると、


「やめて!!」


 緑の肌をした。力強くきれい瞳の女性がそこには立っていた。


「……」


 だんさくはその宇宙人に見とれてしまった。一目惚れというのはこのことをいうのだろう。戦争相手なので、自分の感情に戸惑い思考が停止してしまう。


「そちらを持ってください」

「…… いや、俺は君たちの敵だ」

「一人じゃ持てないの。今は誰の力でも借りたい」


 だんさくはその瞳に押されて、


「あぁ……」


 宇宙人の男性を持ち上げる。


「あちらに小屋があります。そこまでお願いします」


 小屋へ運ぶと、だんさくは宇宙人を助けたことに恥じてその場を離れようとした。


「待ってください。一人では心細いの。ここにいてくれませんか?」

「え…… 私は戦闘機の消化活動がありますので」


 去ろうとするだんさくを呼び止めて、


「私はローレム。あなたの名前は?」

「私は伊藤だんさく」

「だんさくさん。終わったら帰って来てください」

「あぁ…… 了解した」


 だんさくにとって彼女は敵だったが、湧き上がる想いに応じることしか出来なかった。日に日に二人は打ち解け合い。互いに引かれ合っていった。墜落から三日後、宇宙人の男性が目を覚ました。だんさくを見つけると、


「敵だ敵がいるぞ!!」


 その宇宙人はだんさくを見つけると慌てた。すぐにローレムが、


「お兄様大丈夫。だんさくさんは私達を助けてくれたの」


 だんさくが敵では無いことを伝える。


「なに!? いたたたたた」


 脇腹を抱えるとローレムが歩み寄り、


「ゆっくり寝ていて」


 その宇宙人に布団を被せる。


「彼は伊藤だんさくさん。こちらは私の兄のマク。助けてもらったんだから挨拶をして」

「いやだ。そいつは軍服を着てるじゃないか!! いたたたたた」

「まだ動いちゃダメ」


 倒れていたローレムの兄は、若き日のマク・ヒューロンだった。だんさくはやっぱり敵と一緒にはいられないと思い、小屋を後にする。


「待って!!」


 小屋の外で呼び止められるだんさく。


「私はここにはいられない。今は戦争中なんだ」

「戦争中でもいて欲しい」

「ローレム。君は……」


 ローレムに見つめられると動けない。


(なんでなんだ。これ以上いてはいけない)


「あなたの兄が動けるまでは……」

「ありがとう」


 ローレムに見つめられると断れない。

 それから数日たったある日、マクの身の回りのお手伝いをしているとマクが口を開く。


「私が間違っていたようだ。だんさくとローレムを見ていると戦争はしなくてもいいのかもしれないと思える」

「ローレムに出会って私は変わってしまった」

「だんさくはローレムのことが好きなのか?」

「……」


 顔が真っ赤になるだんさく。


「はははははは」

「笑うなよ!! ローレムのことばかり考えてしまうんだ」

「くくくくくく」


 ローレムが小屋に入ってくる。


「楽しそうね。なんの話をしていたの?」

「だんさくがな。ローレムのことを」

「それ以上言うな!!」

「あははははは」


 その日からだんさくとマクは打ち解け合った。その日の夜。


「ちょっと待ってろ。良いものを持ってくる」


 だんさくは戦闘機に隠し入れていた酒を取りに行き戻って来た。


「これは生きて帰れたら飲もうと思ってた高い酒だ。酒は飲んだことあるか?」

「酒とはなんだ?」

「良いから飲んでみろ」

「これがおいしいのか? 地球人とは不思議だな。なんだかクラクラしてきた。毒を盛ったな!!」

「ははははは。それは正常な反応だ。酒は体をゆるめ。心をゆるめる」


 マクは首に下げていた。ペンダントを空に高らかに上げて、


「これは星を飲み込むブラックホールを生み出すことができるんだ。秘密だぞ」

「ははははは。そんなちっぽけなもんが星を飲み込むなんて冗談だろ?」

「そうだな。冗談だよ。もっと酒をよこせ気分が良い」


 マクに飲ませ過ぎたのか。数分すると寝てしまった。マクを寝かせつけると、ローレムが部屋に入って来て夜空を見に行こうと誘われた。外へ出ると満天の星空が二人を出迎える。


「きれいだわ。戦争なんてしてるとは思えない。あんなに笑ってるお兄様は久しぶりに見たわ。ありがとう。私ね、戦争が終わったらだんさくさんと」

「待って!! その先は私が言う。戦争が終わったら結婚しよう」

「はい!!」


 そして、二人の顔が近づいて行くとキスをした。


「戦争が終わるまで待っててくれ」

「はい。待ってます」


 それから数日。マクが歩けるようになったので、マクが別れを切り出した。


「私はそろそろ帰ろうと思う。今までありがとう」

「また酒を一緒に飲もう」


 がっちり固く握手し合うと、だんぞんは荷物をまとめだした。


「俺は先に行く」

「ローレムはどうするつもりだ? さよならは言わなくて良いのか?」

「顔を見たら離れられなくなる。戦争が終わったら絶対に迎えに行くと伝えてくれ。私は戦争を終わらせるために出世するつもりだ」

「言っていなかったが、私のフルネームはマク・ヒューロン。宇宙人の王ギムル・ヒューロンの次の王だ。おどろかないのか?」

「そうではないかと思っていた。軍人には見えないし、王族ではないかと思っていた」

「ははははは。そうか。私も戦争が終わるように努力しよう」


 それから一年ほど経ったある日。だんさくは家でテレビを見ながら朝ごはんを食べていた。


「昨夜、ヒューロン家へのピンポイント攻撃が成功した」


 テレビで報道される。そして、


「亡くなったのは宇宙人の王であるギムル・ヒューロン。そして娘のローレム・ヒューロン」


 だと告げられる。しばらくボーっとしていたが、深い悲しみが一気にだんさくに襲いかかってくる。


「私はなんのために生きていけば良いんだ。胸にぽっかりと穴が開いたみたいだ。戦争が憎い。宇宙人なんて地球に来なければ良かったんだ」


 プルルルルル


 誰かからの電話だがだんさくに取る気配は無い。テーブルに深く顔をうずめ、悲しみで震えている。


 プルルルルル


「すべて無かったことにしよう」


 プルルルルル


「君がいない世界は考えられない」


 プルルルルル プルルルルル


 電話が鳴り響く中。だんさくの復讐心は世界に向けられた。

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