10話 若き日の三人
20数年前、まだ宇宙人と地球人が戦争をしている頃の話。若き日のだんさくは作戦命令により、宇宙人の飛空艇を何機か落としたのだが、迎撃され山の中へと不時着した。
「SOS!! SOS!! こちら第三飛行部隊所属伊藤だんさく…… 無線機が壊れている」
戦闘機が煙を上げている。
(これでは敵に見つかってしまう)
近くに川を見つけたので、消化のため水を汲みに行くと宇宙人が倒れている。
「まだ息がある」
息の根を止めるため銃をかまえ狙いをさだめると、
「やめて!!」
緑の肌をした。力強くきれい瞳の女性がそこには立っていた。
「……」
だんさくはその宇宙人に見とれてしまった。一目惚れというのはこのことをいうのだろう。戦争相手なので、自分の感情に戸惑い思考が停止してしまう。
「そちらを持ってください」
「…… いや、俺は君たちの敵だ」
「一人じゃ持てないの。今は誰の力でも借りたい」
だんさくはその瞳に押されて、
「あぁ……」
宇宙人の男性を持ち上げる。
「あちらに小屋があります。そこまでお願いします」
小屋へ運ぶと、だんさくは宇宙人を助けたことに恥じてその場を離れようとした。
「待ってください。一人では心細いの。ここにいてくれませんか?」
「え…… 私は戦闘機の消化活動がありますので」
去ろうとするだんさくを呼び止めて、
「私はローレム。あなたの名前は?」
「私は伊藤だんさく」
「だんさくさん。終わったら帰って来てください」
「あぁ…… 了解した」
だんさくにとって彼女は敵だったが、湧き上がる想いに応じることしか出来なかった。日に日に二人は打ち解け合い。互いに引かれ合っていった。墜落から三日後、宇宙人の男性が目を覚ました。だんさくを見つけると、
「敵だ敵がいるぞ!!」
その宇宙人はだんさくを見つけると慌てた。すぐにローレムが、
「お兄様大丈夫。だんさくさんは私達を助けてくれたの」
だんさくが敵では無いことを伝える。
「なに!? いたたたたた」
脇腹を抱えるとローレムが歩み寄り、
「ゆっくり寝ていて」
その宇宙人に布団を被せる。
「彼は伊藤だんさくさん。こちらは私の兄のマク。助けてもらったんだから挨拶をして」
「いやだ。そいつは軍服を着てるじゃないか!! いたたたたた」
「まだ動いちゃダメ」
倒れていたローレムの兄は、若き日のマク・ヒューロンだった。だんさくはやっぱり敵と一緒にはいられないと思い、小屋を後にする。
「待って!!」
小屋の外で呼び止められるだんさく。
「私はここにはいられない。今は戦争中なんだ」
「戦争中でもいて欲しい」
「ローレム。君は……」
ローレムに見つめられると動けない。
(なんでなんだ。これ以上いてはいけない)
「あなたの兄が動けるまでは……」
「ありがとう」
ローレムに見つめられると断れない。
それから数日たったある日、マクの身の回りのお手伝いをしているとマクが口を開く。
「私が間違っていたようだ。だんさくとローレムを見ていると戦争はしなくてもいいのかもしれないと思える」
「ローレムに出会って私は変わってしまった」
「だんさくはローレムのことが好きなのか?」
「……」
顔が真っ赤になるだんさく。
「はははははは」
「笑うなよ!! ローレムのことばかり考えてしまうんだ」
「くくくくくく」
ローレムが小屋に入ってくる。
「楽しそうね。なんの話をしていたの?」
「だんさくがな。ローレムのことを」
「それ以上言うな!!」
「あははははは」
その日からだんさくとマクは打ち解け合った。その日の夜。
「ちょっと待ってろ。良いものを持ってくる」
だんさくは戦闘機に隠し入れていた酒を取りに行き戻って来た。
「これは生きて帰れたら飲もうと思ってた高い酒だ。酒は飲んだことあるか?」
「酒とはなんだ?」
「良いから飲んでみろ」
「これがおいしいのか? 地球人とは不思議だな。なんだかクラクラしてきた。毒を盛ったな!!」
「ははははは。それは正常な反応だ。酒は体をゆるめ。心をゆるめる」
マクは首に下げていた。ペンダントを空に高らかに上げて、
「これは星を飲み込むブラックホールを生み出すことができるんだ。秘密だぞ」
「ははははは。そんなちっぽけなもんが星を飲み込むなんて冗談だろ?」
「そうだな。冗談だよ。もっと酒をよこせ気分が良い」
マクに飲ませ過ぎたのか。数分すると寝てしまった。マクを寝かせつけると、ローレムが部屋に入って来て夜空を見に行こうと誘われた。外へ出ると満天の星空が二人を出迎える。
「きれいだわ。戦争なんてしてるとは思えない。あんなに笑ってるお兄様は久しぶりに見たわ。ありがとう。私ね、戦争が終わったらだんさくさんと」
「待って!! その先は私が言う。戦争が終わったら結婚しよう」
「はい!!」
そして、二人の顔が近づいて行くとキスをした。
「戦争が終わるまで待っててくれ」
「はい。待ってます」
それから数日。マクが歩けるようになったので、マクが別れを切り出した。
「私はそろそろ帰ろうと思う。今までありがとう」
「また酒を一緒に飲もう」
がっちり固く握手し合うと、だんぞんは荷物をまとめだした。
「俺は先に行く」
「ローレムはどうするつもりだ? さよならは言わなくて良いのか?」
「顔を見たら離れられなくなる。戦争が終わったら絶対に迎えに行くと伝えてくれ。私は戦争を終わらせるために出世するつもりだ」
「言っていなかったが、私のフルネームはマク・ヒューロン。宇宙人の王ギムル・ヒューロンの次の王だ。おどろかないのか?」
「そうではないかと思っていた。軍人には見えないし、王族ではないかと思っていた」
「ははははは。そうか。私も戦争が終わるように努力しよう」
それから一年ほど経ったある日。だんさくは家でテレビを見ながら朝ごはんを食べていた。
「昨夜、ヒューロン家へのピンポイント攻撃が成功した」
テレビで報道される。そして、
「亡くなったのは宇宙人の王であるギムル・ヒューロン。そして娘のローレム・ヒューロン」
だと告げられる。しばらくボーっとしていたが、深い悲しみが一気にだんさくに襲いかかってくる。
「私はなんのために生きていけば良いんだ。胸にぽっかりと穴が開いたみたいだ。戦争が憎い。宇宙人なんて地球に来なければ良かったんだ」
プルルルルル
誰かからの電話だがだんさくに取る気配は無い。テーブルに深く顔をうずめ、悲しみで震えている。
プルルルルル
「すべて無かったことにしよう」
プルルルルル
「君がいない世界は考えられない」
プルルルルル プルルルルル
電話が鳴り響く中。だんさくの復讐心は世界に向けられた。