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五年記憶パズル  作者: Suzu
1/1

1 始まりの記憶

くすんだ色が好き。

なんとなく、落ち着くんだ。

私と似てる気がするんだ。



コタツ布団の中から見る雪景色は世界の色をくすませていて

それなのに全く寒くなさそうで

世界はあたたかいのだと勘違いしてしまいそうになる。


そんな2月――――――――



雪かきをしないと。

そう思いながらもこのあたたかな居場所がなかなか離してくれない。



ちょうど9年前、2月

私は病気になった。

正式には病名を付けられた。


そこから5年かけて私の人生をひっくり返すような闘いが始まった。


元々天国にいたわけではないけれど

ジェットコースターが頂上から下り落ちるスピードと同じように私は落ちて行った。



ぼやっとその5年間を思い返してみるけれど

このあたたかな居場所のせいなのか

雪が世界をくすませているせいなのか

私の記憶は霞んでいて、一つ一つパズルゲームのように記憶を組み立てようとしても

抜けているピースや、歪んでしまって本来の場所を見失ったピースがいくつもある。


きっとこの5年の記憶パズルゲームは完成しないままなんだろう。





最初のきっかけなんて、本当にちっぽけなことだったのに―――――。








大学2回生、秋。


全国でも有名な私立大学に推薦入学で入り

授業を受け、資格取得特別講義も受け、サークル活動も楽しんでいるどこにでもいる大学生。


特に将来の夢があるわけでもなく

大学生活の中で楽しく過ごし、友人と語らい、自分の方向性を見出していけばいいと思っていた。



大学生は、社会人でもなく義務教育でもない

それでいて自分の選択でどのような過ごし方もできる。

自由な4年間だ。


見方を変えると、将来は本当に自分次第ではあるのだが。


きっと卒業して就職して、いい恋もして

いずれ結婚して子供ができて暮らしていくのだろう。

そう信じていた、この時までは。







『別れよう。』



それはあまりにも突然な話ではなく、すんなりと受け入れれた話であったが

覚悟をしていても悲しいものは悲しいのが失恋だ。


それでも慰めてくれる友人はたくさんいるもので

その夜も慰め飲み会を開いてくれたんだ。



そう、ここから全てが始まった。




「さくら、ドンマイ!忘れよ!飲もう!カンパーイ!!!」


「みき、お前もーちょっとさくらを慰める言葉言えねぇの?」


「だってさ、さくらの元カレ、嘘付きだったじゃん!!あんなの別れて正解だよ!」


「あはは・・・。そうだね、嘘付きだったのは間違ってないわ。たくまもいいよ、慰めてくれなくても。こうしてみんな会ってくれるだけで私嬉しいし。ありがとね。」


「さくらいい奴なのにな。ダメ男ばっかりと付き合ってねーでもっといい奴見つけろよ!

 お、飯きた!食お食お!」



正直なところ、結構悲しかったりはしたけれど

こうして話して飲んで、食べて食べて話して。

それだけで心が救われたことは事実だった。



「ちょっと食べ過ぎたね。」


「さくらとたくまめっちゃ食べたじゃん!私びっくりしたわ。」


「いや、なんか、悲しさとストレスで食べ過ぎたわ!」


「じゃあ、気を付けて帰れよ。また学校でな!」




いい一時を過ごし、悲しかった気持ちを押しのけるかのように

心の中にあたたかなものが少しお邪魔してきたのを感じで家に帰った。




『それにしても・・・ほんと食べ過ぎちゃった。気持ち悪い・・・。』



それに・・・・・

やはり一人になるとまた悲しい気持ちが心を支配してくる。




『う・・・っ。 やばい。』



あまりの気持ち悪さに思わずトイレに駆け込む。

食べ過ぎて気持ち悪いとか、我ながら情けないなと思いつつ

私の中から皆と楽しく食べたあのご飯たちが出てきた。



私の中から


外へ・・・・・。



私の中のモノが


外へ。





『あ・・・れ・・・・・。』



全て出たあとに、それはもう鮮明に。

私の頭で理解出来た、私の感情だった。







私の中にあった悲しさや寂しさやモヤモヤが、消えている。




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