死にかけの獣人少女
数日分の食料を買い込んで歩いていく。
都の外れまで歩き、門にたどり着く。
「もうすぐ日暮れです。外は危険ですよ」
と門番に心配された。
この国では夜になると魔獣の活動が活発になる。
カバンだけを持って護衛もつけずに一般人が出ていくには危なすぎる。
「国からの命令で急ぎの用なのです」
そう伝えると門番はすぐに通してくれた。
「お気をつけて」
と見送られた。
まぁ、国外追放なのだ。嘘はついていない。
何もない草原を歩いていく。
この国の街と街の間は、魔獣の出る森で阻まれている。
昼間は人通りも多く、魔獣と人間の活動範囲が分けられているのだが、夜になると魔獣の活動が活発化するため森に入るのは危険だ。
だが、俺は農業魔術師だ。
「マッピング」
呪文を唱えると魔獣の気配が把握できた。
本来は周囲の地形を把握するためのものだが、地中の虫の場所を把握しようとする時に、動物の気配が把握できるようになった。
この気配を避けて進めばいいだけだ。
森に入ってひたすら進んでいく。
途中で薬草や貴重な植物を採取しつつ、どんどんと進んでいく。
「ズザァーン」
突然、轟音と共に木々が薙ぎ倒されていく。
「マッピング」の感度を上げて周囲を警戒する。
遠くに半端ない魔力を感じた。
間違えない。これほどの圧倒的な魔力はドラゴンだ。
そう感じた。
遠ざかっているから危険はないだろう。
そして、近くに今にも消えそうな生命反応を感じた。
おそらくドラゴンに吹き飛ばされたのだろう。
考えるより先に体が動いていた。
最短距離で弱い生命反応の元に向かう。
そこには獣人族の少女がいた。
猫耳のついている少女が瀕死の状態で倒れていた。
おそらく猫系統の獣人だろう。
回復薬を使って、治療する。
だが、回復が間に合わない。
傷が深すぎるのだ。
このままでは助からないだろう。
脳内で様々な治療法を考える。
もうこれをするしかない。
それは従属契約を結ぶことだった。
従属契約は普通、犯罪を犯した人間を奴隷にした獣人が忠誠を誓わせるために行う魔術だ。
その時に人間の能力は獣人と近い能力まで強化されるため、犯罪奴隷でなくても、強くなりたいという人間が獣人に「契約を結びたい」と頼むこともあるほどだ。
だが人間が獣人に契約したところで、獣人の能力が元々高いため、その効能は忠誠を誓わせる以外何もない。
だが、今は状況が違う。
彼女は弱っている。
今俺と契約を結べば、俺の能力が分けられるはずだ。
「絶対に死なせない」
そう呟くと俺は少女に隷属契約を結んだ。
青白い光にあたりが包まれる。
彼女の腕に奴隷紋が現れる。
徐々に少女の顔には生気が戻っていった。