国外追放
俺の名前はマーリン。
王宮に勤める筆頭農業魔術師だ。
貴族制のあるこの国では職業は世襲制である。
ありがちな事だが既得権益で徐々に努力を怠るものが増え、
政治力に長けたものだけが生き残る国になっていた。
農業魔術師は農民への技術指導や肥料づくり、品種改良など、農業のこと全般を担当し、農民のために尽くす職として、多くの貴族からは蔑まされていた。
先代の王は今までの王とは違った。
既得権益の排除、さらには賄賂や不正をなくし、貴族予算を減らし、平民のために予算と人員を割いて農業魔術師を大事にしてくれた。
だが、そんな王は53歳の若さで王子と共に暗殺された。
軍部が起こしたクーデターと言われているが、暗殺に伴う政変によって、政治はかなり悪くなった。
既得権益を大事にする不正・賄賂システムが再構築された上、「大臣会議」という内閣のようなものを作り、王の考えだけで、貴族家の軽視ができないようにされた。
その後、財務大臣により平民のために割かれていた予算と人員は激減。
節約したお金は、賄賂に使われるようになった。
農業魔術師たちはまともに予算削減のあおりをくらい、解雇。
退職していったものも多く、もはや農業魔術師は俺以外に誰も残らなかった。俺自身が業務の効率化を行いほとんど業務に支障は出さなかったが、それでもかなり厳しい状況だった。
そんな中、今日は珍しく大臣会議に呼びだされていた。
いったいどんな話をされるのかと行ってみると顔を見るなり、「今日をもって、農業魔術師は解雇だ」と王に告げられ,貴族代表には、「君は筆頭農業魔術師なんて忌々しい職業は国に利益をもたらさないのだから、きみは国外追放だ。1週間後までに国を出て行け」と言われ、反論をする前に部屋から追い出された。
貴族や王は税収が農民の栽培する作物によるものであることを忘れているのだろうか。
品種改良や、肥料・農薬の開発で、どれほど生産量が変わるのか知らないのだろうか。
王にはその重要性を何度も請願書に書いて訴えたが、何の反応もなかった。
クビになったものは仕方ない。
仕事道具はすべて持って行っていいそうだから、無限収納袋にすべての荷物を入れる。
無限収納袋は、容量は無限・袋の中身は時間がたたないという優れものだが、現在は失われた技術で作られており現存するものはほとんどない。
仕事道具や現在研究中の資料には金になるものがたくさんある。全てを独り占めして王宮を後にした。
「さぁ、あとは国を出るだけだな。」
そんなことを考えながら、都をぶらついていると一冊の本に出会った。
「未開の地・国の外側に広がる景色」
この国は、北・東・西を他国に囲まれているが、南に国はない。
なぜか。
荒地だからだ。
他種族の魔族や獣人族は住んでいるらしいが、人間にとってはとても住める環境でない。
農民を大量動員しても開拓には数年かかるし、国が管理するには維持費が莫大すぎる。
採算が合わない土地を持っても意味がない。
そこでこの国は都から100km先に城壁を立てて、その内側を自国としていた。
国外追放された俺が他国に入れるかは危うい。
一旗揚げるなら、荒地がもってこいだろう。
そう決めて、荒地に向かって、俺は歩き始めた。