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第1話前編

プロローグからしばらく経過した設定です。


人々は一日の活動を終え外は静かになった。家々には明かりがともり生活を照らしていた。早い家の明かりが消え始めたころ。少女は外へでる準備をしていた。


少女は1週間のうちそのほとんどを自室で過ごしている。それでも週に何度かは外出をしている。もっぱら太陽が沈みすっかり暗くなった時間専門であるが。

本当であればもっと遅い時間―人々か完全に寝静まった時間がいいのだが補導などされては二度と外出できなくなる自信がある。

それを考慮してこの時間となる。帰りを気にしなくていいのならもう少し遅くできるのに…


そんなことを考えながら最低限の化粧を済ませた。最後に髪を軽く整えて部屋を出た。

リビングのそばを通るときにテレビの音が聞こえる。どうやら親はまだ起きているらしい。

キッチンとリビングは一つの空間になっている。そのせいで中に入るとどうしても親と顔をあわせてしまう。しかし、約束を果たすためドアを開けてキッチンをまっすぐ目指すことにする。目的はキッチンの一番奥にある。横目でリビングのほうを見ると母がテレビを見ながら洗濯物をたたんでいたようだ。私が入ってきたことで顔はこちらを向けているが。そんなことをちょっとだけ気にしつつ目的のものをビニール袋に詰めた。それをこぼれないよう念のためコンビニのレジ袋に入れた。目的は達成できたので玄関へ向かう。部屋を出るとき一言だけ「行ってくる。」と言いながらドアを閉めた。

玄関では履き古しのスニーカーを履く。化粧品は昔使っていたものの残りや通販で買ったものがある。同じように靴も通販で買ってみたがサイズが合わなかった。またサイズが合わないのも嫌なので履き古しのスニーカーだ。

外に出るときは大体散歩なのでわざわざヒールなんかじゃなくてもいい。それに歩くときにつかれるから嫌いだ。


玄関の取っ手に手をかける。ドアを開けて外界へ出るこの一瞬。どうしても手が止まりかける。深く息を吸って意を決して勢いよく開け放つ。大丈夫。そう心の中で唱えながら家の外へ出た。


この時間では外を歩く人はほとんどいない。時々サラリーマンらしき人や塾帰りにみえる中高生とすれ違うくらいだ。しかし、暗さのおかげでほとんど顔はわからない。

比較的街灯が多い道を選びながら近所のコンビニまでの道を歩く。

道の向こうにようやくコンビニが見えてきた。そしてコンビニの角のところにようやくついた。ようやくといっても時間にして十分かかってはいないだろう。時計ではかったことはないがいつも通りならそれくらいのはずだ。

コンビニの前にまでやってきたが今日はコンビニが目当てではない。毎週末このコンビニの前までやってくるがここで曲がる。そしてその角を曲がったところで見える一軒の小さな定食屋さん。暖簾はすでに店内に片付けられているが中からは暖簾とガラス越しに明かりが漏れている。

かつての私なら決して気にすることもなかっただろうし、とうてい開けることなどできなかっただろう。しかし、今の私は何の躊躇もすることなく扉をあけて中へ入る。


「お邪魔します。飯田くんいる?」

「おう、いるよ。」

暖簾をくぐりながら中にお店の中に声をかけるとカウンターの奥のほうにいた飯田が返事をする。どうやら鍋の様子を見ていたようで厨房の奥のほうにあるガス台に立っていたようである。

外から中の様子が見えない分、知った顔を見てちょっとだけ安心感を覚える。ほっとしながらカウンターの一席に腰を掛ける。

「これ、いつものね。」

そういいながらカウンターの上に家から持ってきたビニール袋を置く。

「サンキュ。またもらうよ。」

彼は受け取ったビニール袋ごとカウンターの下におろす。

「ねえ、いつも言ってるけどそれだけでいいの?」

「俺の練習に付き合ってもらってるんだからお礼なんてもらえないよ。お米だけで充分だよ。」

そう、袋の中身は「お米」であった。ご飯を食べさせてもらっているので最初材料費を出すといったのだがどうしても受け取ってもらえなかった。いろいろ話をしてようやくたどり着いた妥協点がお米であった。お米であればほぼ毎回使うしお互いが食べるものである。だからおかずは飯田が作って、ご飯は私が持ってくる。これでお互いチャラにすることになった。飯田のほうが明らかに負担が多いのだが折れてくれなかったので仕方がない。今日渡した分のお米は今から使うのではなく来週の分になる。そうじゃないと今からご飯を炊くなんてとても時間がかかってしまう。


「もう少しでできるからな。」

そういいながら彼は鍋の中を見つめる。どこか懐かしいにおいが店内を包んでいる。

「ねぇ?」

声をかけた直後電子音が店内に響き渡る。

「何の音?」

初めて聞く音に飯田にたずねた。

「あぁ、この間炊飯器買いなおしたんだよ。なんでも1合からおいしく炊けるらしいよ。」

「ふーん、そうなんだ。」

声をかけようとしたのがさえぎられてちょっぴり不機嫌になる。話しかけようとしたのに…

「それで、さっき何か言いかけてなかった?」

まさか今思っていたことについて聞かれるとは思っておらずびっくりしてしまった。

「べ、別になんでもないし。」

本当はあったのだが、いまさらで言い出せなくなった。


「それで、炊飯器は?どこに置いてあるの?」

「ああ、初めて使うんで説明書見ながら使ったんだ。だからそこの座敷で使ってるんだ。」

「そう、じゃあほぐしてくる。」

「ちょっと待って!今日は俺がするからいいよ。座って待ってて。」

あからさまに怪しい態度であったが、今回は見逃すことにした。

「じゃあ、待ってる。」

彼は安心したような表情で、鍋の火を止めるとしゃもじと水の入ったお椀をもって座敷へと向かった。新品だから自分でやりたいのであろう。そう思いながら彼の様子を眺めていた。


炊飯器の蓋をあけてしゃもじで中をほぐしている。しばらくすると彼は満足げに

「よし。いい感じだな。」

とつぶやく。そして彼はニコニコ顔でもどってくると食器の準備をしはじめる。

「私お箸とお茶用意するね。」

「よろしく。」

食事の準備はほとんど断られてしまう。いつも許されている手伝いがこれだ。とはいってもポットから移すのと並べるだけであるが。

並べるだけなのですぐ終わりカウンターに一人座り待つ。そして彼は今日の料理をお盆に乗せてやってきた。


「お待たせいたしました。」

この時だけは手伝いの癖なのかやけに丁寧な口調でやってくる。それがなんともおかしくて仕方ない。


料理なしの前半。

料理は後編へ続きます。

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