プロローグ(前編)
初投稿です。
少女は一人、暗い、暗い部屋のなかにいた。ただそこにたたずんでいた。どれほどの時間が過ぎたのだろうか。
少女はふと部屋の外に目を向けた。
忌々しいほどに明るかった窓は茜色の時間をも過ぎてすっかりと暗くなっていた。
まばらにちりばめられたいくつかの星が、今の自分に重なって思えた。星はきれいだとかいうが周りは暗い闇につつまれている。孤独なひとりぼっち。助けを求めようとも近くには誰もいない。
それが星なのだ。だから私なのだ。
星をながめていた少女はおもむろに立ち上がり、静かに笑いながら踊り始めた。少女は昔から体を動かすのは得意だった。踊ることも嫌いではなかった。いつの頃からか人に見せることはあまりしなかった。
最初は久しぶりに踊ったせいかどこかぎこちない動きであった。しかし油をさした機械が徐々にスムーズに動くように、彼女のその動きはなめらかになっていった。
見違えるほど少女の動きがなめらかに、そして優雅な動きから激しい動きになってきたころ、雲に隠れていた月は姿を現し少女を柔らかく照らした。少女は月明かりをスポットライトに部屋というステージを踊っていた。
いつの間にか出ていた月に気が付いた少女はそちらに一瞬きを取られ足元を滑らせてしまった。はたから見ればちょっと滑っただけであっただろうが長い引きこもり生活で体力と筋力が衰えていた少女はそのまま倒れるように座り込んだ。少女を照らしていた月も少女が座るのに合わせたかのように雲の中に隠れてしまった。
そして再び静寂と暗闇が部屋を支配した。
軽くあがってしまった息を整うまで少女は深く呼吸を繰り返した。
時間にして1,2分ほどだろうか、思ったよりも早く息が落ち着いた。
少女は踊ったこと、転んだこと、そしてこれまでのことを思い返した。
すべてが嫌になり少女は涙ぐんだ。涙が流れそうになる。
しかし、少女はそれを拒むかのように座り込んだまま再び星空を見上げた。
自分はいったい何をやっているんだろう…
どこを間違えたのか…
ぼんやりと考えているとお腹のあたりから小さな音が聞こえた。
どうやら頭ではわかっていなかったが空腹のようだ。
食べる気分では正直なかったが、先ほど転んだことを思い出し続けそうなので部屋から出たかった。誰にも見られていないとはいえ転んだのはちょっと恥ずかしい。
食べ物を探しに台所へと降りた。
一応両親とは同居しているが両親は私なんかと違い規則正しい生活を送っている。しばらく顔を合わせていない。最近では1週間に1,2度顔をあわせる程度だ。両親がいる時間に部屋から出ればもっと会うだろうが、何を話せばよいかわからない。
食事も残っているものがあるときがあれば食べる。しかし、今日は日が悪い。特に残り物もないようだ。
ないならないで食べなくてもいいのだが、台所まで来て何も食べないのもなんだか癪にさわる。
とはいえお湯さえあれば3分できる便利なカップ麺も買い置きをきらしているようだ。料理をする気力もなければ、そもそもそんなスキルも持ち合わせていない。袋麺に卵をいれるのが私のできる最高の料理だ。
そもそもカップ麺同様に袋麺の買い置きも見当たらない。
仕方がないのでそのままコンビニまで買いに行くことにした。
服は夜だし気にしなくていいだろう。居間に置きっぱなしの私の財布には定期的に食費がいれてある。お金は大丈夫。
少し肌寒く感じたので一枚はおり、財布だけを握りしめてそのまま夜の町へと歩き出した。
夜のコンビニは割と好きだ。
暗い町中に煌々と輝く。集まる人はお互いに干渉することなく、自分の目的のものを買ったら出ていく。
店員も特に何も言ってこない。
だいぶ前に昼間のコンビニに行ったらやたらとからあげや新商品をすすめられた。そして店内に入るときも出る時もやたらと大きな声であいさつをしてくる。それも何人もだ。その日を最後に昼間のコンビニには二度と行かないと心に決めた。
そんな忌々しい過去のことを思い出しながら歩いていると闇夜を照らすコンビニへと着いた。
特に食べたいものもなかったので棚にまばらに並んでいたおにぎりの中から2つを取り、パックのコーヒー牛乳と一緒にレジへと向かった。そういえばコーヒー牛乳は昔から好きだった。あと暇つぶしによさそうなマンガでもないかのぞいては見た。残念ながら既に読んだことがある有名コミックと、いかついおっさんが表紙のいかにもおっさん向けのものしかなかった。
レジでは私よりは覇気のあるくらいのテンション低めの店員が会計してくれた。ありがたいことに「おにぎり温めますか」という愚問をしないでくれた。持ち帰るのだからどうせ冷めるし、食べきれなかったときは冷蔵庫にいれられる。それにコンビニのおにぎりは冷たいほうが好きだ。
早く自宅へ戻ろうと足早に歩みを進めた。
こんな深夜に珍しくコンビニの入り口で一人の男性とすれ違った。レジにいたときからやたらと私の顔を見てくる。不愉快だ。
これだから外には出たくない。
早く帰ろうと歩みを速めた。
「表田!」
後ろから声を掛けられる。男の声だ。先ほどの男性だろうか。関わりたくない。無視して歩みを進める。
だが不思議だ。なぜか男は私の名前を知っているらしい。
ありえないがストーカーという奴だろうか。急に怖くなってきた。
男性の声が近くなってくる。
足が震える。自然と早歩きになる。男はまだ近づいてくる。
さらに速度をあげる。だが男は近づいてくる。
もはや早歩きというレベルではなく、全力疾走であった。
しかし、少女はすぐに体力が尽き急に足を止めた。
振り返り男の姿を確認することにしたのだ。
振り男の顔をみてやろうとした瞬間、体に軽い衝撃が走る。予想外のことで倒れてしまった。
コンビニの袋が地面に落ちる。一日に二度も転ぶとは夢にも思わなかった。そして男のほうは驚いた顔をして立っていた。転んだのは私だけらしい。
「大丈夫か?」
男が聞いてくる。
「あんた誰?人を追いかけてきて。ストーカーなの?」
若干上ずった声になってしまったが精いっぱい強がってみた。
「同級生の顔忘れたのかよ?飯田だよ。覚えてない?」
そういいながら彼は手を差し出す。
「覚えてない。」
そう返しながら差し出されたてを無視して自力で立ち上がる。
手についた汚れを払いながら怪我してないか確かめる。幸いどこも怪我はしていないようだ。
落としたレジ袋を持ち上げると破けてしまったようで足元に中身が落ちる。
「マジで最悪。あんたのせいだから。」
「ごめんって。卒業式以来顔見てなかったし。同じ高校なのにお前来てないだろ?」
「うるっさい!」
学校に来ていないことを指摘され思わずかっとなってしまった。
「ごめんごめん。でも期待してたんだよ。同じ学校にまた通えるって。」
先ほどはついかっとなり大きな声を出したが少し冷静になり恥ずかしくなる。
「バカじゃない。それに夜中に声かけながら追いかけるとかまじキモいから。」
レジ袋が破けて使えないので仕方なく拾ったおにぎりは手にもって帰ることにする。
「じゃあ、もう追いかけてこないで。」
「待てって。ケガしてない?あと代わりの袋やるから家に来いよ?」
「はぁ?なんで知らないやつの家に。やっぱりバカ?」
「だから飯田だって。中2の時クラス一緒だったろ?調理実習でも同じ班だったじゃん。」
そこまで言われてようやくこいつのことを思い出す。そういえば調理実習で同じ班だった。こいつは無駄に料理がうまかった。ほかのみんなも特に何もしてなかたのにやけに評価がよかったのだ。
「覚えてる…。」
「よかったぁ。親父の店ここの裏だからちょっと来いよ。」
手に持っていたおにぎりを取られ、こいつは歩いて行った。仕方なく後ろをついていくことにした。
これが私と彼との交流のはじまり…
続け…