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お嬢様の労い




「ああ愛しいフォー・・・・僕のために頑張ってくれたんだってね、すごく嬉しいよ」


「ジャンティーだって、村のために頑張ったじゃないか。でももう勝手にどこかに行くなんて許さないからね」


「分かってるよ、二度と君から離れるなんて考えない。ずっと僕たちは一緒だよ」


「ジャンティー・・・・」


「フォー・・・・・」




いや、見ていられない。


アントリューによって壊された家は、軍により素早く補修をされた。木の板で空いた穴を塞ぐという簡単なものではあるが、それでも冬の冷たい風を防いでくれる。


すぐにでも屋敷に戻りたいが、ウィリアム様やブライトさんはまだ軍との話し合いが続いているらしく、今日はこのままフォーさんの家でお世話になることになった私たちは、その様子をただただぼんやりと眺める。


しかし、フォーさんとジャンティーさんの仲睦まじい様子を間近で見せられると、どうもむず痒くなる。いつもこうなのだろうか。目の前でいちゃいちゃと触れ合う二人は直視できない。思わず顔を背ければ、その先にケイトがいて、微笑ましいものを見るように口元に手を添えていた。



「(まぁ・・・・感動の再会後だし・・・・仕方ないのか)」



フォーさんとジャンティーさん二人の間には、確かに『愛』と呼ばれるものがある。それは父や母に向ける家族愛というものではなくて、この二人にしか理解しあえない素敵なものなのだろう。


そこでアントリューに操られているジャンティーさんに質問をしていたフォーさんを思い出す。フォーさんは父のマークさんと縁を切るつもりでジャンティーさんの妻になった。きっと様々な理由があるのだろうが、フォーさんはジャンティーさんの言葉で、結婚を決めたと言っていた。


駆け落ち同然の行動をするほどの言葉とはいったいどのようなものなのか。少し気になる。


ぼんやりとフォーさんを眺める。そうしていると、フォーさんがどこかへと視線を向けた。その先にいたのは、父のマークさんだった。


ジャンティーさんにキスをし、フォーさんが立ち上がる。そしてマークさんへと歩み寄った。マークさんも手にしていたマグカップをテーブルに置くと、少し困ったような表情でフォーさんへ顔を向けた。



「父さん、今回は世話になったね」


「いいや私は何もしていないよ。ジェニファー様やウィリアム様のおかげだろう」


「それでも・・・・助かったわ」


「・・・フォー・・・・」


「・・・・どうして母さんが父さんを捨てたか、知ってる?」


「・・・・・・」



聞いてもいいのだろうか。そう思うような内容だ。思わず席を立とうと思ったが、二人は気にしていないようでそのまま話を続ける。


フォーさんが長い髪を後ろへ撫でつけながら大きくため息をつく。そして強い意思を感じる瞳をマークさんに向ける。



「父さんが海にいる間に、私が高熱を出したの。母さんが私を連れて病院に行こうとしたんだけど、父さんが馬車を船に乗せて出ていたから、行けなかった」


「・・・・・・」


「だから、娘をないがしろにしたって母さんが怒った。ちょうどその頃、母さんの相談をよく聞いてくれる人がいたのよ。母さんはその人を選んだ。私は・・・・その人の家でお世話になる予定だったんだけど、そうはしなかった。なぜだか分かる?」


「・・・・分からないよ」


「・・・・私の・・・・私の父さんは、一人しかいないからよ」


「・・・・フォー・・・・」


「たとえ、母さんや私を放って海にばっかり出ても、やっぱり私には父さんしか父はいないの。だからその人の家を飛び出した。・・・・その頃ジャンティーと出会ったの。ジャンティーは私を本当に心の底から愛してくれた。家族から与えられる以上の愛を私にくれたの」


「・・・・・」


「私はこれから先、ずっとジャンティーの傍にいる。ジャンティーも私の傍にいてくれる」


「・・・・そうだな、それがいい」


「だから・・・・私とジャンティーの間に子どもが生まれたら、見に来たらいいわ」


「え・・・・・・」



にこり、とフォーさんが片眉を上げながら微笑む。その姿はやはり格好いい。間近で見ていたマークさんも目を見張った。だけど、フォーさんの言葉に思わずといった具合に口元を手で覆うと、そっとフォーさんに歩み寄った。


そんなマークさんにフォーさんが腕をばしん、と叩く。その表情は、とても晴々としていた。



「たまには手紙を書くわ。船乗りなら離れてたって、ちゃんとこれからも娘を見守ってよ」


「ああ・・・・そうする。そうするよ、フォー・・・・」


「やだ、やめてよ泣くとか」


「ははは・・・・・」



ぐすぐす、と泣き出したマークさんにフォーさんとジャンティーさんが笑顔を向ける。とても素敵なものを見せてもらったような気がする。


いつも父と母には嫌味なことばかりを思う私だけど、今回ばかりは二人に娘らしく声をかけたいとさえ思ったほどだ。もうかれこれ何週間も屋敷を離れているし、帰ったら久しぶりに二人の腕に飛び込んでみようか。


そんなことを考えていると、フォーさんの家の赤いドアが開かれる。そしてウィリアム様とブライトさんが入ってくる。どうやら軍との話し合いも終わったらしい。


ウィリアム様は冬用のジャケットを脱ぐと、すぐにこちらへと視線を向けた。



「ああ、お人形さん。今『(アンセクト)』についても話してきた。詳しい話を君から聞きたいようだから、あとで顔を貸してくれるかい」


「分かりました」


「ひとまずあらかた片付いたから私たちも休憩しよう、ブライト」


「はい」


「優男さん、お茶でも淹れるよ」


「ああ・・・・助かります」



そう言ってウィリアム様が長テーブルの椅子に座り、大きくため息をつく。ブライトさんも疲れたのか、白雪の肌に浮かぶ眉を下げると、テーブルに肘をついて頭を垂れた。


その様子に私やケイトが表情を暗くする。本当にお二人には大変な役を負ってもらった。きっと軍に要請をする時も、非常に頭を使っただろうし。そう思うと感謝しかない。


フォーさんがマグカップを持って戻ってくる。それを受け取って冷えた体を温めているウィリアム様をぼんやりと見つめる。するとその視線に気づいたのか、ウィリアム様がこちらに手を伸ばす。



「・・・・・・」



何だろうか、歩み寄った方がいいのか。そう思いながらも、じっと伸ばされた手を見ていればフォーさんが私の背中をどんっと押した。弾みで私の体がそのままウィリアム様へと近づく。


ふわり、とウィリアム様に抱きしめられる。頭の上でウィリアム様がため息をついたのが分かった。



「はぁ・・・・癒される・・・・」


「ははっ、優男さんには治癒魔術よりもジェニファーの方が効果がありそうね」


「そうですね・・・・」


「ジェニファー、あんたも今回は優男さんに助けてもらったし、ちゃんとお礼を言わないと」


「・・・・・・」



しん、と部屋が静かになる。視線が私に集まる。こ、この状況でウィリアム様にお礼を言えと。思わずフォーさんへと視線を向ければ、にやりと片眉を上げながら笑われた。


その笑みが嫌で顔を背ける。すると視線の先にはケイトがいた。ああ、だめだ彼女とも目を合わせたくない。しかしケイトは目があったことをチャンスと思ったらしく、スタスタと私へと歩み寄ると、胸の前で両手をグッと握り締めた。



「お嬢様っ!今こそお伝えしたことをなさるタイミングです!」


「・・・・・・・」


「ささっ!お伝えした通りにお願いします!」


「・・・・・・」



嫌だ、すごく嫌だ。こんな視線の集まる中でやりたくない。フォーさんとケイトがにやにやとこちらを見る。ブライトさんも目を細めて微笑ましいと笑っている。マークさんとジャンティーさんも。オルトゥー君だけ何か言いたげにぷるぷると震えていた。


嫌だ。嫌だ。


ウィリアム様から離れようと腕に力を入れる。だけどその両腕を掴むと、私との間に一人分の隙間をつくってウィリアム様がうっとりと私を見つめる。その神が丹念込めてつくりあげた天使のような笑顔に、思わず眩しくて目の前へ手を翳す。


しかし、先ほどからもじもじとする私にウィリアム様が頬へと手を伸ばす。ぐいっと身を乗り出してうっとりと生温かい深緑の瞳を落とす。ああ、やめてくれ。



「・・・・・・・」



もうこうなったらやけだ。


私はコホン、と咳払いをすると一度ウィリアム様の魔の手から離れる。そして、いくつか視線を泳がせた後に覚悟を決めて口を開いた。



「ウィリアム様、この度は本当にありがとうございました。この村に来るまでも、それからも。街へ行くことになり、そこで囮になると言われた時は、正直肝が冷えました」


「・・・・・・」


「それでも、・・・・ウィリアム様があのように機転をきかしてくださらなければ、私たちは塔に潜入することはできませんでした。・・・・ええと、でももうあのような真似はしないでいただきたいです」


「ジェニファー・・・・」


「嫌な想像ばかりが頭によぎりました。ウィリアム様が死ぬのではないかと」


「君を残して死ぬわけないよ」


「・・・・ですが、肝が冷えました。だからその・・・・」


「・・・・・・」


「えぇと・・・・その、ですから・・・・・」


「・・・・・・お人形さん」


「目の届かないところで、あのようなことは今後一切しないとお約束してください。死ぬなんてことになったら、ただじゃおきません」



まるでウィリアム様やブライトさんの言葉を借りるような表現に、ああ本当に私はウィリアム様の真似事をしているなと思った。ケイトが言うように、私は小さなウィリアム様にでもなってしまったというのか。


それが恥ずかしくて顔に熱が集まる。しかし一度話し始めてしまうと、最後まできちんと言いたいという気持ちが強くなる。やけだ、もうやけである。



「ですからっ・・・・お約束を。お約束をしていただきたいのです!」


「・・・・はは、うん。約束する。君のいないところで、無茶はしないよ」


「そ、そうですか・・・・。それであればいいのです」


「・・・・それならお人形さんも、私から離れないと約束してくれるかな」


「・・・・・え・・・」


「私だって君が危険な目に遭うなんて考えると心臓がいくつあっても足りないよ」



い、いや、それは確かにそうかもしれないけれども、離れないと約束してしまえば、それこそ父と母の思う壺である。今ここで頷こうものならケイトだって見えないところでガッツポーズをするに決まっている。


それが分かっていて、ウィリアム様が言っているのだろうか。嫌だ、それを言ってしまえば私は自ら虎の穴に入るようなものだ。



「君は私に約束事を言うのに、私は言ってはいけないの?」


「い、いえ・・・そういうわけでは・・・・」


「じゃあ約束だよ。私から離れない、ずっと。約束できる?」


「・・・・・・」


「ん?」


「・・・・・わ、分かりました・・・・」


「きゃー!」


「ぎゃー!」



ケイトとオルトゥー君が正反対の声をあげる。その様子をぎょっとした目で見ていれば、目の前のウィリアム様がそれはもう極上の笑みを頬を赤らめながら浮かべる。こ、これは罠だ。罠でしかない。ウィリアム様は賢いが、ずる賢いと思う。それはもう、アントリューと肩を並べるほどに。


わなわな、と口を震わせながらウィリアム様を見上げる。そのウィリアム様は可憐な花がそこかしこに散りばめられているような笑顔でにこにことこちらを見ている。


その輝かしい笑顔に両手で堪える。うう、美しすぎる。


そんな私に、ケイトの魔の手が伸びる。興奮した様子で私を立たせると、ウィリアム様の横に並べた。ウィリアム様がにこにこと向きを変えてこちらを見上げる。



「さぁ!お嬢様!未来の旦那様へ最後にとびっきりの労いを!」


「い、いや・・・・・・」


「さぁ!さぁさぁ!」


「ジェニファー!あんたも覚悟を決めな!」


「(いやだぁ・・・・・・!)」



い、今この状況でケイトの言っていたことをしなくてはいけないのか。その場にフォーさんもいたので、今から私が何をやるのかを知っている。しかし嫌だ、やりたくない!こんな状況で!


ケイトとフォーさんが私を羽交い締めにする。そうしているとウィリアム様も何かおもしろいことがこれから起きるのかとうきうきしているようだった。オルトゥー君がブライトさんに止められている。オルトゥー君、お願いだからこちらに来ていつものように私を助けてください。



「さぁ!」


「さぁ!」


「うぅ・・・・・・」



だめだ。もうケイトとフォーさんから逃げられる気がしない。


私は顔を真っ赤にしながらウィリアム様へと視線を向ける。そのおろおろする姿にケイトとウィリアム様がぷるぷるとしていたらしいが、そんなの知らない。


私はもうやけくそどころでなく、パニックになったままウィリアム様に一歩近づく。



「・・・・・・・」


「・・・・・」


「ウィリアム様・・・・頭・・・・・」


「頭・・・・・?」


「頭っ・・・・下げてください・・・・・!」


「・・・・・こう?」


「うぅ・・・・・・・」



唸りながらウィリアム様の頭にそっと触れる。すると少し身動ぎをされた。今すぐにでも手を離したいと腕に力を込めるが、ケイトにがっしり掴まれてどうすることもできない。


私はウィリアム様の顔を見ずに、ぼそっと呟く。



「こ、この度は・・・・本当に、・・・ありがとうございます」


「・・・・・・・」


「よ・・・・よしよし・・・・」


「キャーッ!」


「やだもうジェニファー顔真っ赤じゃないか!このっこのっ」


「うぅぅぅぅぅ・・・・・・」



そこまでやって、私はウィリアム様から手を離すと顔をその手で覆ったまま崩れ落ちる。


顔を隠したまま蹲る私に、ケイトとフォーさんがきゃっきゃと騒いでいるが本当に心の底からうざったいとしか思えない。


しかし、私の様子をぽかんと見ていたウィリアム様が我に返ったようにこちらへと視線を向ける。そして口元を手で覆うと、蹲った私の肩を掴む。


嫌だ、嫌だ顔を合わせたくない。顔をがっちりと覆っているのだが、その手を剥がそうとウィリアム様が力を入れる。嫌だ、嫌だ!


しかしウィリアム様の力に敵うはずもなく、真っ赤な顔を見られてしまう。それが嫌で俯こうとするが、頬に手を添えられては何もできなかった。



「ジェニファー・・・・」


「うぅぅ・・・・・」


「ああ、よく頑張ったね」


「(なぜウィリアム様に労ってもらっているんだろうか・・・・)」


「嬉しいよ」


「・・・・・・・」


「ああ、君をどうにかしてしまいそうだ」


「・・・・まっ、待っ・・・・」


「うん?」


「も、もうそれ以上こちらを見ないでください・・・・・」


「・・・・っ・・・・」



ケイトが殺し文句だ、と呟いた。顔を真っ赤にしながら恥じらう私の姿に、ウィリアム様が言葉を失う。

その表情を横目に見たブライトさんやオルトゥー君もぽかんと口を開けたまま固まっている。


ウィリアム様の手が頬へとゆっくり伸びる。瞼を親指の腹で撫でられ、思わず瞑る。そうしているとその瞼に唇が触れた。もちろん私はピシッと固まる。待って、待ってください。もうこれ以上は。


ぐにゅり、と久しぶりに『あいつ』が現れる。それが嫌で眉を顰めれば眉間にキスをされる。


ねっとりとしたウィリアム様の深緑の瞳に捕らえられる。もう逃げられない、とどこかで思った。いつの間にか瞳の色を若紫にしたウィリアム様の顔が寄せられる。きっとその時間は僅かなものだったと思う。しかし私には走馬灯のようにゆっくりと見えた。ああ、私死ぬのだろうか。


す、とウィリアム様の服が近くで擦れる音が聞こえた。フォーさんの家に空いた穴は木の板で補修されたが、その隙間から背中に向かって冬の冷たい風が触れる。なのに、どこもかしこも熱くて何も感じない。



「・・・・・・」



触れたウィリアム様の唇が熱い。まるで高熱でも出ているのかと思うほど。その唇が私の唇を食んだ。縫うように押し込まれたウィリアム様の下唇が全て食べてしまうのではないかと錯覚する。熱を含む吐息が触れる。私の唇そのものを食べるのかと言うくらい、ウィリアム様が口を開く。そうしていると、唇に何か熱いものが触れた気がした。それが何なのかを理解したところで、息を止めていた私が先に撃沈する。



「・・・・っ・・・・・・」


「・・・はぁ・・・・」


「(し、死ぬ・・・・美しすぎて死ぬっ・・・・)!」



やけに色っぽいウィリアム様が再び私の顔へと身を寄せる。だけどもうこれ以上は無理な私が尻餅をついてその場に倒れる。


その様子にウィリアム様がにやりと笑う。舌舐めずりをする姿に、ズクンと今までとは違う動きを『あいつ』がした。なんだろうか、下腹部が気持ち悪い。



「ウィ、ウィリアム様っそれ以上はお嬢様がダウンしますので、ご容赦を・・・・!」



ケイトが顔を真っ赤にしながら、というか鼻血でも出しているのか鼻を押さえながらウィリアム様の肩を掴む。すると、それに気づいたウィリアム様がねっとりとした瞳をケイトに向けた。ケイト撃沈。


すると、項垂れたケイトの様子にウィリアム様が雰囲気を変えてケラケラと笑う。なんだろうか、今もしかしたらウィリアム様の本気を一瞬見たのだろうか。


信じられないほど速く脈打つ心臓を押さえながらずるずるとウィリアム様から離れる。だめだ、この人の傍にいたら確実に死ぬ。



「ははは、ごめん」


「・・・・・・・・」


「・・・・・よしよし」



最後に私の頭を撫でて、ウィリアム様が離れる。顔を真っ赤にしながら佇む女性陣を尻目に、ウィリアム様はぽかんとしているブライトさんやオルトゥー君へと歩み寄っていた。


ーーーー殺されるかと思った。


ウィリアム様は危険だ。本気で美しすぎて人をそのうち殺してしまうと思う。私は力の入らない足をかくかくと動かしながら、撃沈しているケイトへと身を寄せる。



「ケ、ケイト・・・・・」


「ウィリアム様は・・・・天使の皮を被った悪魔です・・・」


「はい・・・・はい・・・その通りだと思います」


「ケイトは妊娠したかと思いましたよ」


「・・・・・・」


「これはもう・・・・奥様に報告しなければ!」


「(なぜそうなる・・・・・)」



がくん、と崩れ落ちる。ケイトはなぜか元気になったようで、興奮したまま何か騒いでいた。もうだめだ、放っておこう。


じとっとした目をウィリアム様へと向ける。あんな人の傍にいたら、それこそ心臓がいくつあっても足りない。しかし約束をしてしまった。まるで悪魔に魂を捧げたようなものではないか。



「(ウィリアム様から離れないなんて・・・私にできるのか・・・・)」



今だって目を合わせることができないのに。


私は胸を押さえたまま黙り込む。そして、胸に巣食う『あいつ』に、もうこれ以上大きくなるなと何度も何度も願った。



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