お嬢様の駆け引き
数独はいわばパズルだ。ある一定の位置から縦と横へと手を広げ、その隣り合う、もしくは縦と横のマスに異なる数字を一から九まで入れていく必要がある。つまり、偶然一の隣に二がくるわけではない。八十一のマス全体を見ながら、一つ一つ数字を加えていく。
顎に手をおきながら、これでもない、これでもないと目を動かしながら数字を探す。その様子をアントリューは楽しそうににっこりと微笑みながら眺める。
「できるかしら?ああ、いかさまはしていないわよ。それじゃあゲームにならないもの」
「・・・・・・・」
「でも見ているだけでは暇ねぇ?そろそろクイズも出そうかしら」
「・・・・どうぞ」
できれば話しかけないでもらいたいが、ゲームのルールにはクイズも含まれているから仕方ない。扇子をぽんぽんと叩きながらアントリューが何か問題を考えている間に、また一つマスへ数字を入れていく。
木製のテーブルに火属性の魔力を込めると、そこに数字が焦げて刻まれる。フォーさんが所有している家具を今まさに汚している状況に申し訳なさを感じる。無事に屋敷に戻ることができたら、新しいものをお送りしよう。
フォーさんはこちらの様子をじっと見つめている。その瞳は真剣そのものだ。アントリューと私にお茶を出した際に持っていたトレーを力強く握り締めている。声はかからないが、その仕草が私を応援してくれていると感じ、どこか力に変わる気がした。
「それじゃあ、一つ目」
「はい」
「この世に存在する応用属性を答えなさい」
「(一つ目から難題だな・・・・・)」
「どうぞ?」
「・・・・雷、氷、音属性です。属性ではありませんが、水と風を利用する治癒魔術も、一種の属性と呼べるでしょう。問題が抽象的ですので、一般的に言われている応用属性を答えます」
「あらぁ、出題者にいちゃもんつけるのねぇ?じゃあ次からは気を付けるわね」
「・・・・・・」
もう一つ、数字を入れる。少しずつ埋まっていくマスに、私は心の中で「いける」と呟く。おそらく、このパズルが終わるのは今から三十分後くらいだ。ウィリアム様たちがこの村を出てからまだ一時間と少ししか経っていない。アントリューがそれまでにクイズに飽きる可能性もあるし、不利な状況になった場合強行手段を取ることも考えられる。
穏便に、アントリューの機嫌を損ねないようにしながら、慎重にパズルを完成させることが求められる。
マスに指を起き、顎に手を添えて考えるふりをする。このまま行けば八十一のマスのうち、三十のマスは埋まる。数独はある程度数字が埋まると、あとは入っていない数字をただ作業のように入れていくだけになる。できるだけ時間を稼がないと。
そう思っていると、次のクイズをアントリューが思いついたらしい。にこりと赤い口紅が塗られた唇を上げた。
「精霊の働きは?ちょうどここには氷の精霊がいるのよね、その氷の精霊が人間に及ぼす影響とは?」
「・・・・・・・」
「あら?分からない?それじゃああなたの負けよ?」
「良い影響としては、魔力の増幅を行うことができます。精霊を呼び出すには召喚魔術を扱うとされていますが、その魔術を施すことにより精霊を呼び出し、契約を行って魔力を分けてもらうことができます。魔力はその精霊の属性によって効力が変わります。氷の精霊であれば、氷属性の魔力を分けてもらえます」
「あら・・・・・」
「悪い影響としては、精霊は気難しい面も持っているので、無闇に近づけばその魔力によって攻撃をされます。また、自然の力そのものを操ることができるので、氷の精霊であれば吹雪を起こしたり、人を氷漬けにすることもあるでしょう。契約時にミスがあれば、大量の魔力を注ぎ込まれ身を滅ぼすことも考えられます」
「・・・・・あなた、魔術は一般知識しかなかったんじゃなくて?」
「・・・・・そう自覚していますが」
「あらやだ、あなたもずる賢いのねぇ。ますます気に入ったわぁ」
「・・・・・・・」
「あははは!おもしろい、おもしろいわぁ!」
「・・・・・・」
「ふふっ・・・追加問題よ。あの『蟲』ちゃん。ある精霊の幼虫なの。何か分かる?」
「・・・・・」
さすがにそれは分からない。それが分かっていたならウィリアム様に伝えていた。軍に要請をかけるなら、その蟲が何なのか分かっていた方がより説得力が増すからだ。
正直、そこについてはまだ調べが足りていない。これは難しい問題を出してきた。それが分かっているからこそ、アントリューはわざと問題を出したのだ。
思わず眉を顰める。すると、その表情を見たアントリューがにんまりと微笑んだ。
「分からないならそれでもいいのよ?まぁ・・・そうしたらあなたの負けだけど」
「・・・・・・」
「煮るなり焼くなり好きにさせてもらうわねぇ?」
「・・・・・」
考えろ。この状況で答えを導き出すためには、今まで読んできた文献が役に立つはず。
一度テーブルに刻まれた数字から視線を外し、椅子に深く座って思考の海に浸かる。祖父の研究室には、多くの文献がある。しかし、その文献は薬草や魔術に偏っていて精霊の本は少なかった。ではどこで精霊について学んだか。
王宮の図書館だ。
人を眠らせてしまう精霊を探すため、ウィリアム様と王都まで赴きその王宮図書館で多くの文献を読んだ。途中、兄の力も借りながら数時間資料を漁ったが、とても有意義な時間だったと思う。
「・・・・・・」
バーバラさんやエリザベッタさんに出会わなければ、あの図書館を訪れることもなかった。まるで、今までの出来事が全てアントリューの問題に答えるために用意されていたような錯覚さえ感じてしまう。この世には偶然はないなどと言う学者がいたが、私はその意見に反対だった。必然しかないのだとしたら、それを操作しているのは誰なのかと、目に見えない神を信仰するような気がしたからだ。
しかしこれは、必然としか言いようがない。私は王宮の図書館で読んだ文献のページを思考の海に浸かりながら考える。『蟲』と呼ばれる幼虫は、何かの精霊。その蟲は、人間に寄生しその思考を奪う力を持つ。それだけではない、アントリューは門番の体でその幼虫が『生育されている』というような言葉を使った。門番の体は、蟲を取り除いたことで元気になった。ということは、臓器などに影響は出ていないはずだ。
となれば、生育は魔力を吸い取ることで行うのか。
魔力を吸い取る精霊。幼虫の姿をしているし、蟲と呼ばれているからおそらくその精霊の姿は蛹へと変わり、最終的には羽が生えた姿になるのだろう。
羽が生えた精霊については、『花の守人』を探している最中にいくつも確認した。あの中に魔力を吸い取ることのできる精霊はいたか。探せ、探せ。
「思いつかないかしらね?」
「・・・・もう少し時間をください」
「ふふふ、・・・・時間はたっぷりあるからいいわよぉ?でもあんまり苛々させないでね?あなたを殺してしまうかも」
「・・・・幼虫であれば、蛹となり、また姿を変えることでしょう。虫のほとんどは、その体に羽を生やしています。甲殻や節足を持つ虫なら、幼虫の時点でその体は芋虫のような形をしていない。蟻であれば幼虫は芋虫なので候補に上がりますが・・・・」
「・・・・・・」
そこまで考えて、文献に記されていた精霊を思い出す。以前、自分の体を男性へと変化させるために『女王蜥蜴』の血液を用意した。
女王蜥蜴は蟻と同じく女王を主人として働き蜥蜴など、生まれてから少しすると自分の役割を与えるとされている。
もし、あの蟲が蟻の幼虫だとして。その蟲を体内に入れられた人間は、皆アントリューの命令に従う。それはまるで蟻のコロニーと同じだ。母であるアントリューの思うがままに操られる姿は、働き蟻と似通っている。
そして、このアントリューという女性。おそらく支配欲が強い。そうでなければ、人を操り国をも転覆させかねない大砲など作るわけがないだろう。この女は、国を、世界を手に入れようとしているのかもしれない。
「・・・・女王蟻の姿をした精霊を文献で見たことがあります。その精霊は土属性。地下に巣を作り、女王が産んだ幼虫をコロニーで育てます。その幼虫の主食は魔力を含んだ草木や花、そして時には人だということでした。幼虫は母である女王の魔力を分け与えられ、一種のテレパシーを使うことで食事を催促したり、危険を伝えることもできるそうです。女王蟻もまた、そのテレパシーを使って子どもたちの世話をする。・・・・それはまるで、あなたに操られる街の人と似ています」
「・・・・・・」
「名前までは覚えていませんが、おそらくあの蟲は蟻の幼虫」
「・・・・・・・・」
「・・・・・」
「ふふっ・・・・・ふふふ、・・・・ふははははははっ・・・・!」
「・・・・・・」
アントリューが立ち上がり、興奮したように笑う。その様子に、私だけでなくフォーさんたちも眉を顰める。たがが外れたように高笑いをするアントリューはとても不気味だ。
私は長テーブルから離れ、そのアントリューを睨む。すると、アントリューがそれを目敏く見つけたのか、目に涙を浮かべながら私に向かって扇子の先を向けた。
「いい、いいわ!ジェニファー!あなた最高!どうして分かるのかしら?やっぱりあなた普通じゃないわ。そうよ、あなたが言うようにあの蟲ちゃんは蟻の幼虫。魔力を奪うことができる力を持つなんて、私好みなのよね。その生態も。・・・・その分析力も、説明能力も素晴らしい。欲しいわ、あなたどうして今まで私の前に現れなかったの?」
「・・・・・・」
「あなたが仲間になってくれたら私とっても嬉しい。ねぇ、仲間にならない?可愛い執事ちゃんと同じくらい大事にしてあげる」
「・・・・・・」
ウィリアム様と同じくアントリューが『仲間』と言う。でも、同じ言葉でもこうも違って聞こえるものなのかと他所で思った。
ウィリアム様の言う『仲間』は、もっと温かいものだ。身を寄せ、信頼するに足るものだ。だから私はその仲間を得ることができて嬉しかった。しかしアントリューの言う『仲間』は僕だ。従順で、主人に対して反旗を翻すことなく、ただただアントリューの言うことを聞くだけの仲間。信頼ではなく、それは利用だ。
しかも、その仲間を使って国を陥れようとしている。仲間は、そんなことのために集めるものではない。
「・・・・・・」
アントリューが私へと腕を伸ばしてこちらへおいで、と言う。しかしその手を掴む気など一切ない。私はすぐに椅子に座ると、テーブルに刻まれた数字へと視線を落とした。すると、愛想の悪い私に対して、アントリューが腕を組みながら向かいの椅子に座った。
「あら、振られちゃった?」
「・・・・・・・」
「つまんないの」
「・・・・・・・」
「・・・・・ふふ、じゃあクイズも続けるわね」
「・・・・どうぞ」
マスに入る数字を探す。また一つ見つけた。これで四十あまりがマスに入った。あとは埋まっていない数字を入れていくだけだ。しかしまだウィリアム様の姿はない。まだ時間を稼がなくてはいけない。
私はゆっくりと考えるふりをしながらマスに触れる。その様子に、やけにうっとりとした赤黒い瞳を私へ向けながら、アントリューが呟いた。
「あなたの名前は?」
「・・・・・ご存知でしょう」
「いいえ、知っているのは可愛らしい名前の方だけよ。苗字を知りたいの」
「・・・・っそれは、魔術に関する問題ではないです」
「・・・・答えられないの?」
「・・・・・・」
再びテーブルから視線をあげる。テーブルに両手を置き、にこりと微笑むアントリューは本気だ。
私の苗字、スペンサーを聞こうとしている。嫌な問題だ。それを答えてしまえば私の素性を教えるようなものだからだ。しかしこのまま答えなくては、クイズは終わる。そうなれば、私は否が応でもアントリューの仲間になってしまう。
どのみち、私は利用されることになる。苗字まで教えてしまっては、私だけでなく父や母にも危険が及ぶ可能性がある。
この女、嫌な性格をしている。
「さぁ、問題よ?」
「・・・・・・・・」
「答えられないの?」
「・・・・・・・」
「ジェニファー!」
「フォーさん・・・・・」
「答えたらだめだよ。絶対にだめだ」
分かってる。分かってはいるが、この問題に答えなければゲームにも負ける。そうなればジャンティーさんを連れ戻すこともできない。何をしてもアントリューのいいようにしかならない状況に、私だけでなくフォーさんやケイトまでもが言葉を失う。
早く、早くウィリアム様。
偽名を使うか。それならば、ばれることはない。しかしこの女に嘘が通用するのか。分からない。分からないから怖い。もし嘘だと知られた時、アントリューが何をするか分からない。だめだ怖い。怖くて嘘がつけない。
ゴクリ、と唾を飲み込む。アントリューが微笑む。私はゆっくりと口を開く。
「私はジェニファー・スーーーーーーー」
そう、苗字の一文字目を呟いた瞬間だった。
どこからか大きな爆発音と、地響きがカルム村に到達する。そのあまりにも大きな音と揺れに、部屋にいたケイトや門番が悲鳴を上げる。アントリューも何事かと立ち上がり、どこかへと視線を向けた。
それは、プレジの街がある方向だった。
「・・・っ・・・・」
アントリューが顔を歪めながらこちらへと振り返る。私は揺れを抑えるためにテーブルに手をついたままアントリューを睨む。
間に合ったのか。
きっと今の爆発音は、プレジの門を壊す魔術だ。これだけの大きな爆発を起こせるのは、ウィリアム様か軍人しかいない。軍人には魔術を扱える者も多い。しかも一般人のような詠唱を必要としない魔術ではなく、詠唱や陣形を使っての魔術を扱える。きっとそうだ、間に合ったのだ。
「やっぱり、後ろ盾がいたのねジェニファー」
「・・・・・・」
「つまらないことをしてくれるじゃない。せっかく穏便に済ませようとしてあげたのに」
「・・・・・・・・」
「ふふふっ・・・・いいわ・・・・見せしめにあなたを殺してあげる!」
「っ・・・・・!」
そうアントリューが叫んだ瞬間、アントリューから信じられない量の魔力が放出される。その魔力の揺れは凄まじく、フォーさんの家に大きな穴を開けるほどだった。
風圧で私やフォーさんが外に放り出される。雪が積もっていたのでそこまでの衝撃はなかったが、耳鳴りがすごい。キーン、と頭に響いて周りの状況がよく分からない。でも逃げなければ死ぬ。それだけは分かる。
アントリューが雪の上に転がる私へと歩み寄り、見下ろしてくる。その表情は微笑んでいるものの、不気味に歪んでいる。アントリューが私の首に手を添える。細い指が肌に食い込む。空気が入らなくなり、苦しくてアントリューの手を掴む。
「ふふふ・・・・時間稼ぎをしていたのね・・・・」
「・・・・っ、ゔ・・・・ぐ・・・・・!」
「軍でも呼んだのかしら?自警団なんて可愛いものじゃなかったのね、やっぱり賢いわ」
「・・・っ・・・・っ・・・・」
「ううん、殺すには惜しいわ。やっぱり私の仲間にならない?」
「・・・ぃ・・・・な・・・・!」
「なぁに?」
「ゲホッ・・・・ぐ、・・・っ・・・」
急に手を離され、突然入ってきた空気に咽せる。その様子をうっとりと見つめるアントリューが私へと耳を寄せる。私は苦しい中、それでもアントリューを睨む。
「絶対に・・・・ならないっ・・・・・!」
「ああ、そう。・・・・じゃあ殺すしかないわね」
「・・・・・・っ・・・・」
アントリューが魔術を使い、雪でナイフを作り出す。その切っ先は鋭く、簡単に肌など貫いてしまうほどだ。そのナイフを私へと向ける。今にも振り下ろされそうなそのナイフを、無意識に手で掴もうと腕を伸ばす。
その時、私の服の袖が重力によって捲れた。瞬間、私の右腕にある黒ずんだ痣をアントリューが目にした。目を見張り、私の腕を掴んだアントリューがゆっくりとこちらに視線を向ける。
「あらあら、おもしろいものをつけているのね」
「・・・・・・」
「誰かに恨まれでもしたのかしら?とっても綺麗ね」
「・・・・・」
「ふふ・・・・そうね、ここで殺すのはやっぱり惜しいもの。あなたから私の仲間になりたいって言わせるのも、おもしろそう」
「・・・・・・・・」
「・・・・綺麗な呪いだから、もっと綺麗にしてあげないとね」
「ゔぅっ・・・・・・!」
アントリューが私の黒ずんだ痣に触れる。するとまるで炎で焼かれているような激痛が走った。腕から煙が上がっている。思わず悲鳴をあげれば、アントリューが嬉しそうに高笑いを浮かべる。
その表情のまま腕を離される。左手で腕を押さえながら見てみれば、黒ずんだ痣が広がっていた。
「ジェニファー?」
「・・・・・・・・」
「また会いましょうね」
そう言って、アントリューが街とは別の場所へと足を向ける。私は痛む腕を押さえながら、そのアントリューの足を掴む。すると、赤いピンヒールに触れられたことが嫌なのか、眉を顰めながら私を見下ろす。そして扇子を手に持つと、その先を私の頭に置いた。
そこからの記憶がなかった。
「お嬢様っ!・・・・お嬢様!」
「ジェニファー!!」
目が覚めると、ケイトの腕の中だった。フォーさんの穴が空いた家の中で、床に寝そべっていた。
私が目を覚ましたことでケイトとフォーさんが目に涙を浮かべながら微笑む。その近くではウィリアム様やブライトさんが軍人だと思われる甲冑を着た人と何か会話をしているようだった。
しかし私の目が覚めたことをケイトが叫んだことで気づいたらしいウィリアム様がこちらへと走り寄る。そして床に両膝をつくと、私を力一杯抱きしめた。あまりの強さに息苦しささえ感じるほどだった。
「ジェニファー・・・・ジェニファー!」
「・・・・ウィリアム様・・・・軍に要請ができたんですね」
「そうだ・・・・そうだよ。今村の人たちを軍が保護してる。直に戻ってくる」
「・・・・よかった・・・・・」
間に合ったんだ。そう思ったら、涙が出た。
どうしてこんなに泣きたくなるのだろう。これは安堵なのか、それとも恐怖なのか。今も脳裏に焼き付いたアントリューの笑顔が離れない。腕の痣は服で隠れているので今は見えないが、それでも痛みはある。エリザベッタさんの『憎悪』が込められた痣に、アントリューが何かをした。それが怖かった。
でも今は全てが解決したことへの安堵が大きい。もう嫌だ、こんな思い二度としたくない。
ボロボロと無表情のまま涙を零す私にウィリアム様が悲痛な表情を浮かべながら私を抱きしめる。ケイトやフォーさんも泣いた。オルトゥー君がマークさんにしがみついて泣いている。きっと怖かっただろう。アントリューにその姿を見られなくてよかった。
「よかった・・・・本当によかった・・・・」
「ああ・・・・・・」
「・・・・よかったっ・・・・・」
それから、軍に保護された村の人たちを、その妻や子どもたちが出迎える。皆抱きしめあい、その幸せを分かち合っているようだった。
街の人も、ウィリアム様が雷属性を使いツボを押せば目を覚ますと軍人に伝えたのか意識を取り戻したらしい。
終わった。これで本当に終わったんだ。
私はウィリアム様の腕の中で一頻り泣いた。ウィリアム様の腕の中はとても苦しかったけれど、今はその強さがとても心地よかった。
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