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お嬢様の研究室





「ジョージさん」




次の日の朝、朝食をささっと済ませた私は執事長のジョージさんを訪ねた。ジョージさんは温室の植物に水をやっていたようで、黒の燕尾服にメイド用のフリル付きエプロンを着ていた。


なんとも可愛らしい格好のジョージさんに声をかけると、やや遅れれてからこちらを向く。どうやら目だけでなく耳も悪くなってきたらしいジョージさんを残念に思いながらも、私は昨夜寝違えた首をおさえながら近づく。




「お嬢様、どうされました?」


「あ、すみません今少しいいですか?」


「もちろんですとも。ですがその前に、首はどうかされたのですか?」




どうされました、という問いかけは首についてのものだったらしい。ジョウロをテーブルに置き、ゆっくりとした動作でジョージさんが私の首に手を伸ばす。さすさす、と皺くちゃな手が首に触れると、とてもひんやりとして気持ちよかった。


ジョージさんと私は年齢で言うと祖父と孫くらい離れている。本当の祖父のことはあまり覚えていなかったけれど、ジョージさんのように優しい人だったのだろうか。


優しい手つきのジョージさんに安心しながらも、私は「寝違えただけです」と答える。




「そうですかそうですか、あとで冷やすものをお持ちしましょうね。ケイトに伝えておきます」


「ありがとうございます」


「それで、何か私めに用事があったとのことですが」


「あ、はい。昨日のことなのですが」


「昨日?」


「ウィリアム様がいらっしゃる客室へと向かっていた際、ジョージさんはウィリアム様のご容姿を私に教えてくれましたよね?」


「ええ」


「何か深い意味があって、私にその情報を伝えたのかと思いまして」




昨日のことは、ケイトと私しか知らない。ジョージさんなら信頼できる人だから伝えてもいいのだけど、あまり知る人を増やすのもどうかと考えた。結婚もしていないお嬢様の屋敷に、変装をした領民とお立場を偽ったご子息様が訪問したと噂になれば一番困るのはウィリアム様だからだ。


なので、ジョージさんにも内容は伝えないまま聞いてみる。


しかしジョージさんは不思議そうに老化のため垂れた瞼からちらりと瞳をうかがわせ、こちらを見る。その仕草に思わずどきっとする。さすがは執事長、そして子爵当主の父の専属執事といった感じで、時折見せるその眼光は鋭ささえあった。


ごくり、とつばを飲み込んでジョージさんを見つめる。しかし、次の瞬間には柔らかい笑みを浮かべ、「はて、深い意味とは」と言い返してきた。



「あ、いえ特に理由はないのならいいんです」


「いいえ、理由はありますよ」


「・・・・・・・・」



ジョージさんはテーブルにおいていたジョウロを手に取ると、ゆっくり花に水を与えていく。その様子を私はじっと見つめる。やはり、ジョージさんはウィリアム様の容姿を見て、気づいていたのだろうか。


少しうきうきしながらジョージさんの『理由』を待つ。けれど、ジョージさんは勿体ぶるように簡潔に結論から伝えようとせず、まるで昔話を始めるような声で呟いた。




「ウィリアム様はコールマン公爵とその奥様のご子息ですが、ウィリアム様以外にもご子息は3名いらっしゃいます。お嬢様もお二人」


「随分大家族ですね」


「ええ、やはりそこは公爵家ならではかと」



公爵家は王族の親戚という立場だ。王族の次に国から尊いとみなされるお立場ということは、それだけ繋がりを持ちたいと願う貴族はごまんといる。そして、領地を広げたいと公爵も思われている。そうなった時、ご子息やお嬢様が多くいればいるほど手は伸びる。


政略結婚という言葉が、子爵の私なんかよりもより身近にあるのだろう公爵家を思えば、大家族ということも頷けるというわけだ。


私は恋愛とか、身を焦がすような愛を感じることができないためわからないが、きっと公爵家の方々はお辛い立場だろう。愛する人と結ばれることなど、ほとんどないのだから。




「お嬢様にも、幼い頃公爵家のご子息とのご婚約話があったことを覚えていらっしゃいますか?」


「はい、覚えています。ですが私の《趣味》がきっかけで破談になったとか」




許婚、というわけではないが父とコールマン公爵が「いずれ二人の子どもを結婚させよう」と口約束で決めたことだと聞く。だけどその口約束は、私の魔術好きということや、男勝りでお嬢様らしくないという噂を聞いたコールマン様がやんわりと断ったと聞いていた。


私が特に悲しむ様子もなくさらりと《破談》という言葉を使うと、ジョージさんは少しだけ悲しそうに眉を下げたけれど、柔らかい笑みは崩さない。




「ええ。・・・・あのご婚約話は、ウィリアム様のお兄様、次男のアルフレッド様との間に交わされたものでした」


「(へぇ、そうだったんだ。どなたかご存知ではないけれど)」


「ですが社交デビューを待たずして破談となり、このジョージも大変悲しみに暮れました」


「はは・・・・すみません」


「しかし私も大事なお嬢様との婚約は、できれば公爵家のご子息をという思いを捨てきれなかったのです。なので旦那様に無理を言い、社交パーティーには公爵家の方にも招待状をお送りしました」


「・・・・意外としたたかなんですね」


「もちろんですとも。そうでなくては執事長など務められません」


「(ジョージさんの前ではあまり粗相をしない方がよさそうだな、肝に命じておこう)」



ケイトであればなんとか言いくるめる場合も多いけど、ジョージさんに法律に触れるギリギリの植物魔術の実験を知られればおそらく父に直通で伝わるだろう。使用人も使用人だが、この執事長もやりおる。


少し居心地の悪さを感じながらも、こんなに長話をしてくれるジョージさんは珍しいので私は自分だけ楽をするようで悪いと思いながら、近くの椅子に座る。




「・・・・ダメもとでお送りした招待状でしたが、喜ばしいことにお返事をいただけた折はこのジョージ、珍しく手元が狂って鉢植えを落としそうになったものです」


「(そういえば、偽ウィリアム様はパーティーにいらっしゃって、そこで私を知ったと言っていたな・・・・つまりそれは本物のウィリアム様がいらっしゃったということだろう)」


「お返事をくださったお相手は、昨日のウィリアム様でした」


「やはり」


「・・・・・?」


「あ、いえ。続けてください」


「はい。・・・・パーティーでのお嬢様はそれはそれはお美しいお姿でした。そのお姿に、噂とは違うもの、輝くものをウィリアム様は見つけた。そして随分時間はかかりましたが昨日突然屋敷を訪ねたいとウィリアム様からお話があれば、縁談の申し込みかと考えるのは当然のことかと。このジョージ、このような機会をみすみす逃すまいと考えたわけでございます」


「なるほど」




つまり、ジョージさんは私がウィリアム様に興味を持つよう仕向けたかったというわけだ。私はてっきり、その鷹のような鋭い目で本物と偽物を見分けたのかと思ったけれど、ジョージさんは私の未来を考えて言ってくれただけにすぎなかった。



「お嬢様は、本当に可愛らしく、そしてお優しく育ちました。決して他のお嬢様に引けを取らないとジョージは自負しております。聡明で思慮深く、芯のあるお姿はまさに子爵のお嬢様の品格をお持ちでございます。・・・・少々悪戯がすぎることはございますが」


「ははは・・・・・・」


「ウィリアム様もまたお優しく、賢い方だと聞いておりましたので」


「そうですね、昨日少しお話ししただけですが、私もそのお話しの通りだと思いましたよ」



領民の願いを叶えたいために、わざわざ変装などをして子爵のお嬢様を訪ねるだけの実行力と度胸がある。これは推測でしかないが、偽ウィリアム様の会話や仕草はとても領民とは思えないだけの品があった。あれも本物のウィリアム様が事前に仕込んだものじゃないだろうか。


結局私はうまいこと話に乗せられて協力をすることになってしまったし、ウィリアム様の采配が素晴らしかったからだと思えば納得できる。


ともかく、ジョージさんの『理由』はわかった。私の予想は外れ、私とウィリアム様の仲をとろうとした結果だったということがわかり、どこか心もすっきりとする。


ケイトもいつになくお化粧やお洋服選びに力を入れていたけれど、ジョージさんも同じような考えだろう。この屋敷の人たちは本当に世話好きで助かる。と同時にその期待に応えられず申し訳ない。




「ありがとうございました。ジョージさんのおかげで、ウィリアム様のことを知ることができました」


「いいえ、お嬢様を思えばこそです。ウィリアム様はまたいらっしゃるとうかがっておりますので、ジョージも楽しみにしておりますよ」


「そ、そうですね」




そうだった。ウィリアム様、またいらっしゃるんだった。私は内心冷や汗をたらしながらジョージさんに笑顔を向ける。その笑顔をジョージさんはウィリアム様のことを気にしていると勘違いしたみたいで、なぜかグッと親指を立ててにこりと笑う。


私は恋愛感情を母の胎の中に忘れてきてしまったので、ジョージさんの気持ちに応えることは難しいだろう。しかしそれを今言えばジョージさんの寿命を短くしかねない。


私はひらり、と手を振って温室を出る。




「さて、それじゃあ始めようか」




いつも通り、お嬢様らしからぬどこぞの商人の息子のような男物の服を着込んで庭に出る。そのまま薬草を植えているコーナーまで向かうと、昨日より少し成長をしている《パンメガス草》が太陽の光を受けて青々と輝いていた。


ブライトさんの眼鏡の度を、お金をかけずに強くする方法。おそらくこの草が解決してくれると私は考えている。


だけどこの草は山岳部に生息する山羊の体そのものを大きくするだけ。魔術で眼鏡にその力を加えても、眼鏡が大きくなるだけだろう。それでは意味がない。眼鏡のレンズだけ強化する方法。その方法さえわかれば、きっと解決するはず。


私はそっと小ぶりな草の葉に触れる。物体を巨大化させることのできる草ではあるが、その姿は他の草と変わらない。その効能を知らなければ、そこらに生える雑草と変わらないほど地味な姿だ。




「やっぱり、世界は広く深いなぁ・・・・・」



この世は不思議で溢れかえっている。もし、私が普通のお嬢様だったらそう思うこともなかっただろう。恋愛小説や流行り物の本を読んで、休みの日には買い物をして、たまにお茶会をして、父が決めた相手と結婚をしていたはず。


こんなにも胸が躍る不思議になど、まるで気づかなかった。


だったら、やはり私の道はこれでよかったと思う。そんなちっぽけな人生を歩みたくない。のほほんと生きて朽ちていくだけの人生はつまらない。人生は一度きりと言う。その一度きりの人生を謳歌しないで生きていくなんて私にはできない。口に出したら父と母が顔を青ざめるだろうから言わないけれど。




「お嬢様?・・・・あ、いた!またこんなところにいたんですね!」


「ああケイト、ちょうどいいところに」




ぼんやり草を眺めながらいろいろと考えていると、後ろからケイトに声をかけられる。朝食を済ませたと思えば突如消えたお嬢様に困っていた様子で、私の姿を見つけると可愛い顔を膨らませながらこちらへと歩いてきた。



「もう、何も言わずにお部屋からいなくならないでくださいませ!心配しましたよ」


「すみません」


「それで、今日はまた庭いじりですか?たまにはお茶会のお誘いにお返事でも書かれては?」


「お茶会のお誘いなんて来ていましたか」


「来ていますとも!いつも招待状にお断りの代筆をする私の身にもなってください!」


「・・・・・ケイトは字がとても綺麗ですよね」


「あら、そんなことも・・・・って、ちがーう!」


「はは、」




こちらのお世辞にもころっと喜んでしまうケイトは可愛らしい。ケイトもそろそろ結婚を考える時期ではあるだろうに、いつまでも変人お嬢様の世話をしていては婚期を逃すだろう。


私は草に触れたまま、ぷんぷんしているケイトをじっと見上げる。すると急に空気の変わった私にケイトが身動ぎをしたのがわかった。あまりそういう表情を私がケイトに向けないからだろう。


一応、私とケイトは主人と使用人という間柄だ。私が叱ればケイトはそれを甘んじて受けなくてはならないし、暇を出せば文句も言わずこの屋敷を出ていかなければならない。


まぁ、そんなつもりは一切ないけれど、私の態度にケイトが若干困ってきていたのですぐに目をそらすとゆっくり立ち上がる。




「ケイト、」


「は、はいお嬢様」


「ちょっと、おつかいをお願いできますか?」


「お、おつかい・・・・・?」


「はい。おつかいです。今メモを書きますから一緒に研究室にいきましょう」


「はい・・・・・・・」



あれだけ勿体ぶった表情を向けておきながら、ただのおつかいを頼まれたことに首を傾げているケイトににこりと笑いかける。結婚したら、と言おうと思っていたなどケイトは気づいていないだろう。


きっとこの使用人は、私が結婚するまで自分もしないつもりだろうから。


変なところで律儀なところがあるケイトに申し訳なさを感じながら、離れにある研究室のドアを開ける。宝の宝庫、私の天国とも言える研究室には実験に使用できそうな本やビーカーなど必要なものが全て揃っている。


祖父も相当な実験マニアだと聞いているので、もしかしたら私は祖父の血を濃く受け継いだのかもしれない。おじいさま、本当に素敵な贈り物《血》をありがとうございます。


じーん、とおじいさまのことを考えながらも私は大きなテーブルの隅に置かれている紙とペンを手に取る。それにさらさらと必要なものを書いていると、後ろで静かに待機していたケイトが少し身を乗り出した。



「それでお嬢様、おつかいというのは?」


「ああ、安くていいので度がそれぞれ異なる眼鏡を大量に集めてほしいんです」


「眼鏡?」


「はい、実験に必要なので。あ、もちろんお小遣いを使います」


「・・・・・・本当にやるんですか」


「そうですね、ウィリアム様とブライトさんのお願いですし。断る理由もないので」




ウィリアム様は公爵家のご子息だ。地位や権力を使えばいくらでも子爵のお嬢様に強い態度を取ることもできる。でもウィリアム様からはそういった高慢な態度は一つも感じられず、むしろ無理を承知でお願いをしたいといったニュアンスで言ってくれた。


そういう心意気も、私は相談に乗るポイントになったと思っている。


何より、実験がしたかっただけということは誰にも言えない。




「でも、できるんですか?眼鏡の度を強くするなんて」


「どうですかね、私も成功するとは言い切れないです。なのでその点についてはウィリアム様にもブライトさんにも了承をもらっています。ただ、成功しないとウィリアム様はご自身のお金を使って本当にブライトさんへ眼鏡を贈られてしまうかもしれない。そうなれば、あのお二人の関係は知り合いや友人という枠から外れ、ただの領主と領民の間柄に戻ってしまうでしょう」



ブライトさんは大金を叩いて眼鏡を与えてくれたウィリアム様に対して、一生そのことを光栄に思い、また返しきれない恩情の重圧を感じることだろう。時に情けをかけすぎると、相手には荷が重くなってしまうのだ。真面目なブライトさんなら、そうなることも予想できる。


しかしそうなっては、ブライトさんを知り合いや友人だと慕っているウィリアム様は悲しく思うだろう。地位や立場など関係なく、接することができなくなるから。




「とにかく、やってみなくては成功も失敗もしないので材料は集めたいんです。お願いできますか?」


「・・・・・全く、お嬢様も人が良すぎますわ。お相手は公爵のご子息ですよ、期待に応えられなかったからと無礼をされてもおかしくないのに」


「まぁ、そうなったらそうなったでただケイトの考える私の結婚が遠ざかっただけですから気にしないでください」


「よくありません!あれだけのお美しさ、気品、そして何よりお立場のある方とお嬢様が結ばれることこそ私の願いです!」


「うーん・・・・じゃあ、そのフォローをするということでいかがでしょう」


「うまいこと言い包めようとしないでくださいませ」


「あら、バレましたか」


「可愛らしくお茶目なお顔をされてもケイトは騙されませんよ!」



ぷんぷん、と怒っていても私の世話を焼くことは忘れないケイトに私は笑う。今も嫌々ではあるものの私が書いたメモをひったくってポケットに入れている。なんだかんだ優しいからケイトを贔屓してしまうのは、主人としてよくないだろうか。




「それでは、私は少し屋敷を出ます」


「はい、お願いします。お金が余ったら甘いものでも買ってきてください、みんなで食べましょう」




そう伝えると、ケイトの表情が一気に明るくなる。線は細いケイトだけれど、甘いものには目がないみたいでよくクッキーをつまみ食いするところを目にする。るんるん鼻歌を口ずさみながら研究室を出て行ったケイトを見送り、私はとりあえず実験の準備をするためにテーブルの上を片付ける。


ポケットから紐を取り出し、腰まであるグレーの髪を一つに束ねる。できれば肩くらいまで短くしたいのだけど、父や母、それから使用人たちに「それだけはやめてくれ」と言われてしまい渋々伸ばしているのだ。髪くらいはお嬢様らしくしておいてほしいらしい。


いつも時間があれば櫛で髪を梳くケイトは私の髪を自慢に思っているようなので、しばらくは切れないだろう。そんな日が来ようものならいつぞやのように雷が落ちるに決まっている。




「よし、じゃあまずは文献を漁るところから」




祖父が遺した研究室の本。実験に使える魔術や薬草などが事細かに書かれているもので、とても貴重なものだ。こんな本、どこの本屋にも置かれていない。何回読んでも興奮する内容に、一時期ハマりすぎてケイトから気味悪がられたほどだ。あの世話好きケイトが引いていた。


本を手にしてテーブルに戻り、頬杖をつきながら使えそうな魔術を探す。物体を大きくするなら、土属性の魔術がいいかもしれない。土は養分を蓄え、草や花を育てる。つまり物体を成長、増幅させる力が強い。


この世の物体にはそれぞれ属性があるけれど、何も土属性は土を耕したり、地割れを作り攻撃をするだけではない。大地の力を利用するだけにすぎない。


土には成長や増幅、風には速さ、水には癒しなど、それぞれ連想できるものを人間が《細工》して生まれたものが魔術だ。簡易的なものは特に何も必要がないのだが、より高度な魔術を使うためには詠唱や陣を描く必要がある。詠唱は精霊の力を強化させ、陣形はその魔術を継続させるために使う。


といっても、そんな詠唱や陣形を扱う人間は軍人だけだ。私は女なので軍人にはなれない。ましてや子爵のお嬢様なんて程遠い世界だろう。やはり性別を間違えて生まれてしまったなと改めて落ち込む。




「あー・・・・・男の子に生まれたかったなぁ」



そうしたら、もっとやりたいこともできたのに。


そこでふと兄を思い出す。父と共に王宮で仕事をしている兄は4つ上の少し勝気な人だ。計算が早いので経理をしているらしいが、最近は王宮の近くにお一人で住まれているので顔を見ない。元気にしているだろうか。


私も王宮で働きたい。でも、子爵の娘にそんなものを望む人はいない。私はため息をつくと、テーブルにそのまま突っ伏してぼんやり研究室の壁を見つめる。



「ここは素敵なもので溢れているけれど、とても狭い世界ですね・・・・おじいさま」



祖父もそう感じたのだろうか。なんとなく気分が落ち、目を閉じる。


いつの間にか眠ってしまったようで、おつかいから戻ってきたケイトに「こんなところで寝たら風邪をひきます」と怒られ、笑うしかなかった。




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