お嬢様とワンピース
それから数日経ち、朝食を済ませた頃、ウィリアム様から手紙が二通届いた。
一通は母に書かれたものだ。もう自他共に認める文通友達となったらしい。中身は教えてもらえなかったものの母がうきうきと封を開けていたところからして、さぞや楽しい会話が紙の上で行われているのだろう。お願いだから不倫なんてことになっていないでほしい。公爵家に悪い。
私も屋敷のリビングで手紙を開く。
お美しいウィリアム様は文字まで美しい。伝統を重んじる貴族らしい言葉が続いているが、それは比較的少なく、私も無駄に目を走らせる必要がないので助かる。
「・・・・・お」
手紙にはグロート卿との連絡が取れ、屋敷を訪れてもいいと了承をもらえた旨が書かれていた。もちろん、女性の私が行くことは書いていないのだろうが、こちらもそのための準備は『だいたい』できた。これで一歩前進である。
大事なところは読めた。あとは部屋に戻ってから読もうか、と思ったのだが流し読みをした最後の一文に、迎えにいくという言葉が書いてあることに気付き、はたと止まる。
「何と書いてあるんですか?」
「本日お昼過ぎにお迎えに来てくださるそうです」
「まぁ!こうしちゃいられない!奥様に知らせないと・・・・!!」
「・・・・・・」
バタバタと騒がしいケイトが走り去る。私はひとまず、必要なものを揃えたほうがいいかと研究室に向かうことにした。
長い廊下を抜け、自室へと向かうために階段を上がろうとする。しかし、その視線の隅に執事長のジョージさんが見えた。手に花を持っている。花瓶も持っているので、手入れでもしているのだろうか。
「ジョージさん」
「ああ、お嬢様。おはようございます」
「おはようございます。何をしていたんですか?」
「これですか?」
「はい」
特に急いでなさそうだったので、ジョージさんを引き止める。少し曲がった腰をそれでもビシッと伸ばして優雅に会釈をしてくれるジョージさんにお辞儀を返す。
それから手に持っている花を見ながらジョージさんに質問をすると、皺くちゃな顔を綻ばせて笑った。
「今日はお休みを旦那様からいただいたので、たまには趣味の写生でもしようかと」
「写生ですか」
「はい」
ジョージさんにそんな趣味があったとは知らなかった。そもそも、ジョージさんが休んでいるところを見たことがない。今日だってしっかり燕尾服を身に纏っているし。
休みの日だとしても、執事長として礼儀を欠かさないジョージさんはすごいと思う。私なら何もない日は寝巻きで過ごしてしまうはずだ。
「よろしければ、ご覧になりますか?途中まで描いているので」
「いいんですか?」
「はい、もちろんですとも。ですが、どうか感想はなしでお願いします」
「(ジョージさんが描いたものを悪く言うわけないのに・・・・)」
照れたように頬をぽりぽりとかくジョージさんが可愛らしい。やはりジョージさんの傍にいるとほっこりする。最近はバタバタとすることが多かったし、たまには癒されたい。
私はゆっくりと歩き出したジョージさんの後ろを歩く。
「(まぁ、まだウィリアム様がいらっしゃるまで時間はあるから、研究室に行くのはあとでいいか)」
「そういえば、本日ウィリアム様からお手紙が届いていたようですが」
「はい。お昼過ぎにいらっしゃるそうです」
「そうですかそうですか、それではお嬢様も支度がありますので、急ぎましょうね」
「いや、特に急いでいませんので」
「・・・・・・急ぎましょうね」
「は、ハイ・・・・・」
ジョージさんは私の味方だと思ったのに、結局はケイトたちの味方だったか。ちらりと皺くちゃ瞼の下にある鷹の目が鋭く光った気がする。
私は張り切った様子で走り去ったケイトを思い出し、げっそりとする。毎回コルセット付きのワンピースを着せられると、体に悪い。
そうこうしている間にジョージさんの自室に到着した。ゆっくりとドアを開き、私を招いてくれる。
「(ジョージさんの部屋、物が少ないよなぁ・・・・・)」
執事長ともなればある程度の給料をもらっているはずなのに、あまり浪費しないのだろうか。
あまりきょろきょろと部屋の様子を見るのも悪いので、用意してくれた椅子に座ってジョージさんを見る。ジョージさんは慣れた手つきでクローゼットから道具を出していた。
「ジョージさん、それは?」
「これはパレットです。ここに絵具を乗せて、画用紙に色をつけるんですよ」
「なるほど」
「お嬢様はあまり絵を描くことに興味がない方ですからね」
恋心と共に絵心も母の胎の中に忘れてきた私は美術にあまり興味がない。父に連れられ美術館に行ったこともあるが、色とりどりの油絵や水彩画を見てもそこから何かを感じとることはできなかった。
他の貴族からしたらパレットの存在も知らないなんて、と言われるかもしれないが、魔術に関するものでなければ覚える気にもならないから不思議である。
「これが、今描き途中のものです」
「これは・・・・庭ですか?」
「はい」
屋敷の窓から庭を見ている光景を描いているらしい。窓が開かれ、そこから見える庭は秋らしく紅葉した木々に覆われており、美しい。興味がなくたって美しいかどうかくらいはわかる。
「このテーブルに、この花と花瓶を描こうかと思いまして」
「ああ、なるほど」
庭に置いてある白い丸テーブル。その上にはまだ何もないが、ここに今ジョージさんが手に持っている花瓶と花を加えるらしい。実物であれば大きなテーブルだが、絵の中では拳ほどもない。繊細な部分まで丁寧に描きたいのだろう。
「絵はいいですよ、ただの絵具であり、画用紙でしかないものに命を吹き込むことができます」
「・・・・・・」
「自分の好きなものを描けば、いつでもそれを見返すことができますからね」
その言葉に、私は共感することはできない。しかし、絵を本に変えればいくらでも頷ける。ただの紙に文字を埋め尽くしただけのものだが、その文字は過去を述べ、未来を予想し、事実を伝える。
読み終わっても、また手にとればその世界に入り込める。
「素晴らしいことですね」
「ええ、素晴らしいです」
全く別のものを想像して伝えた言葉だが、ジョージさんは嬉しそうに笑ってくれた。
それから、ささっと鉛筆で記した花のシルエットに絵筆で色を入れていく。時折部屋においた花に目を向けながら描く姿は、趣味を通り越して巨匠に見えるような気がするから不思議だ。ジョージさんの佇まいがそう見せるのだろうか
パレットに乗せられた水色の絵具を、画用紙が吸っていく。
その様子は、いつまでも見ていられるような気がする。しかし、そんな私の安らぎの時間は長く続く物ではないらしい。
「お嬢様!どちらにいらっしゃるんですか!お風呂に入りますよ!」
「(ケイト・・・・・・)」
「ああ、ケイトみたいですね」
「・・・・・集中が切れてしまうといけないので、出ますね」
「はい。どうぞウィリアム様と楽しいお時間をお過ごしください」
「・・・・・・・」
「お過ごしください」
「はい・・・・・・」
ずずず、と黒いオーラを携えてジョージさんが微笑む。
私はその笑顔から逃げるようにジョージさんの部屋を出る。もう少し安らぎの時間を過ごしかったものだ。とほほ、と肩を落としながら今だに私の名前を叫んでいるケイトを探す。
すると少し遠くに鬼のような形相で廊下を走り抜けるケイトが見えた。
「(いやだ・・・・あの人に捕まりたくない・・・・・)」
「あっ・・・・お嬢様ああああ!!」
「・・・・・・・・」
ドドド、と馬が走っているんじゃないかと思ってしまうほど大きな足音を立てながら、私を見つけたケイトが走り寄ってくる。思わず逃げようと足に力を入れるが、それよりも前にケイトに肩を力強く掴まれ、どうすることもできなかった。
「お嬢様・・・・さぁお風呂に・・・・・」
「はい」
そこからはあれよあれよという間に部屋に戻され、服を脱がされ、湯船に放り投げる。他にも現れた女性使用人が私の体をごしごしと洗う。その間にケイトが取り寄せた薔薇の匂いがする石鹸で頭を洗れる。
「ぶっ」
ばしゃん、と頭の上から湯をかけられ泡を削ぎ落とす。そう、削ぎ落とす。そういう言い方の方が正しいと思う。とてつもなく俊敏な動きのせいでそう思わざるを得ない。たった一回の湯かけで身体中の泡が消えたのだから。
それからひょいと持ち上げられ全身をタオルで拭かれる。こういう時、使用人たちに『羞恥心』というものは存在しない。体くらい自分で拭けるし、大事なところは自分で拭きたいのだが。
バスローブのまま部屋に戻される。
すぐさま待機していた使用人が風魔術を使って髪を数人がかりで乾かしていく。その間にケイトが母から借りてきた何着ものワンピースを私の体に当てる。あれでもない、これでもないと呟くその目は鋭い。
「今日は黒にしましょう!色気は赤よりも黒です!大人っぽく仕上げます!」
「・・・・・ケイト、この服胸元が開きすぎでは・・・・・」
やけに艶のある黒のワンピース。絹でも使っているのだろうか。
丈は膝を隠すか隠さないかくらいの短さで、胸元はUの字に広がっており、鎖骨から拳二つ分くらい開いている。露出が激しい。そうケイトに伝えるのだが、ケイトは聞いているのかいないのかよくわからない顔で私の首にかかっている貴族の娘であることを証明するペンダントを整える。
「さぁ次はお化粧です!」
「あの、ケイト」
「今日はいつもより増し増しでいきますよ!目を瞑って!」
「(聞いちゃくれない・・・・・)」
それからウィリアム様がいらっしゃるまで、入念に化粧をされる。母まで部屋に現れ、ケイトの化粧に注文をつけ始めた時はさすがにげっそりした。
ウィリアム様の到着が知らされた時は、思わずその開放感から早く会いたいと思ってしまったほどだ。
「ごきげんよう、ウィリアム様」
「ごきげんよう、ジェニファー」
馬車から降り、今日も柔らかい笑みを浮かべる深緑の瞳。そのお美しさに玄関まで見送りに来ていたケイトと母がうっとりとしている。
私はいつも通り、ウィリアム様にワンピースの裾を掴んで膝を曲げ会釈をする。それにウィリアム様も右手を胸に当てお辞儀をする。その姿はとても品があり、美しい。お辞儀一つでこうも美しいと思うことはなかなかないのではないだろうか。
にこり、と微笑みながらウィリアム様が私に歩み寄る。
しかし、私の様子に気づいたウィリアム様はこちらに歩み寄るの止め、私を下から上まで眺める。
「今日は随分と綺麗だね」
「ああ・・・・ケイトが・・・・・」
頑張ったんです。というのは止める。なぜ頑張ったのかと聞かれたら困るからだ。
私は明後日の方向を向く。するとその様子を見ていたウィリアム様は、一度ケイトの方へと視線を向ける。そして、何かに気づいたのか悪戯を思いついたような笑みを浮かべた。口の片方だけ上げる姿が似合うのも、ウィリアム様くらいだろう。
「ウィリアム様?」
「まるで月夜に咲いた百合の花のようだ。その花言葉のように純粋なお嬢様は可憐でお美しい」
「・・・・・ウィリアム様?」
突然目の色を変えたウィリアム様がそっと私の首に手を添えながらうっとりとする。その様子に後ろで控えているケイトと母が思わずといった具合に声を漏らす。
その声に私が後ろを振り返ろうようとするのだが、ウィリアム様がそれを嫌うように首に添わせた指に力込める。苦しくはないが、まさか首を絞めるような行為に驚く。
「百合の花は茎が細いが、お嬢様の首も少し力を入れただけで折れてしまいそうです」
「・・・・・・」
「私以外の男を見ようものなら、私はこの美しい花を壊してしまう」
「・・・・・・・ウィリアム様」
「この瑞々しい肌も、全て私のものにしたい。誰にも奪われないように閉じ込めてしまおうか」
「キャー!!」
「ウィリアム様もっと言ってー!!」
そこで、もう耐え切れないのかケイトと母が顔を真っ赤にしながらきゃっきゃと騒ぎ出す。その様子に顔を青ざめて言葉を失くす私。何だこの茶番は。
どうもご機嫌がよろしいらしいウィリアム様が戯けたように私に目配せをする。私の手の甲にキスをすると、腰に手を添えて母やケイトの方に向き直らせる。
「お気に召しましたか?奥様」
「それはもう!もう!大興奮ですわ!」
「それはよかった」
「ウィリアム様のために、私頑張りました!」
はいはいはい!と手を上げてアピールするケイトにウィリアム様がケラケラと笑う。
どうも、ウィリアム様も私の味方というよりは母やケイトの味方だと思うのは、勘違いだろうか。私は思わずじとっとした目をウィリアム様に向ける。
すると、その視線に気づいたウィリアム様がうっとりと瞳を細める。それから私の頭にキスを落とした。そういうことをすると母とケイトが喧しいからやめてほしい。
「せっかく綺麗にしてもらったのに、浮かない顔をしていたからね」
「・・・・・・」
「綺麗だよ、お人形さん」
「・・・・ありがとうございます」
「それは彼女に言ってあげたら?」
そう言ってウィリアム様がケイトへと視線を向ける。私も釣られてケイトを見る。手を胸元でぎゅうと握るケイトの表情はとても明るい。そして幸せそうだ。
ケイトだって化粧をすれば私以上に綺麗になれるはずなのに、私にとびっきりのお化粧を施して、綺麗なワンピースを着せる。そしてウィリアム様に褒められる私を見て喜ぶ。
つまり、それは私の幸せを願う表情なのだと気づく。
私が幸せになれば、ケイトも幸せなのだ。きっと。
「ふむ・・・・・・」
確かに、私一人ではここまでの化粧もワンピース選びもできない。こうやってウィリアム様がわざとらしく甘い言葉を囁くことだって、ケイトがいなければなかったことだ。別にそんなこと望んでいなかったけれど。
そういうことか。
「ケイト、ありがとうございます」
「いいえ、お礼なんて・・・・・」
「いつも感謝しています」
「お、お嬢様・・・・・!」
ぶわっと涙を目に浮かべるケイトに驚く。そんな私にウィリアム様が微笑む。
どうやら、ウィリアム様は全てわかった上で、いつも綺麗に着飾ってくれるケイトに対し、私から感謝を伝える時間を設けるためにあの茶番をしたらしい。
私は嫌々受けるだけだが、その美しさは使用人としてのケイトの努力があるからこそだと。もちろんそれはケイトだけでなく、今日私を綺麗に整えてくれた使用人たちにも言える。
無下に扱ってもいいものではなかったか。
私は改めて自分の服を見る。足の爪先からヘアセットまで整えるためには、どれだけの技術と努力が必要なのか。私が嫌がれば、それは彼女たちの仕事への熱意を否定するのと同じだ。
「ウィリアム様」
「ん?」
「私、綺麗ですか?」
「ああ、とても綺麗だよ」
「そうですか、それは嬉しいです」
とても綺麗だよ、とウィリアム様が言う。その言葉は私ではなくケイトに届く。ケイトも、嬉しいだろうか。嬉しいよな。だったら私も嬉しいと思わないと。いつまでたっても嫌がっていたらケイトに悪い。
「それじゃあ、行こうか。今日はブライトにグロート卿の話をしないと」
「あ・・・・・その前に」
雰囲気を変えたウィリアム様が背中を押す。しかしそれをやんわりと断ると、私は馬車ではなく研究室がある方へと視線を向ける。
用意した道具や薬を持っていきたいのだ。ここで『男性』になろうものなら、ケイトが煩いだろうから。
「荷物が多いので手伝っていただけますか?」
「もちろん」
「ではお母様、ケイト、用事を済ませたらそのまま向かいます」
「気をつけてね。暗くなる前には戻るのよ?」
「お嬢様、ハンカチは持ちましたか?」
「持ってます。ちゃんと夕方には帰ります」
どこまでも過保護だ。そう思う私だけれど、私を思ってのことなので無下にもできない。
私はウィリアム様と一緒に研究室まで向かう。ドアを開け、テーブルの上に置いておいた木箱を持ち上げる。中には薬の他に、いつもの商人の息子のような服も入れてある。
「代わるよ」
「ああ、いえ大丈夫です。ウィリアム様はあの本をお持ちいただけますか?」
「どれ?」
「あの積み上げている本です」
「全部?」
「はい」
「随分と持って行くんだね」
「はい、ブライトさんのお店で男性になる最終実験をしようと思っているので」
「・・・・・・そう」
急に顔を暗くするウィリアム様に首を傾げる。しかしウィリアム様は「何でもない」と言って両手に本を抱えた。それを見てから私は研究室を出る。
庭を通り、馬車のところまで戻ると待っていなくていいと伝えたのに母とケイトがまだいた。
私が抱える木箱とウィリアム様の手にある本を見て何やら魔術を行おうとしていることに気づいたらしい二人が怪訝な顔をするけれど気にしない。
ウィリアム様と向かい合うように馬車に乗り込み、窓枠から顔を出して二人に挨拶をする。
「それでは行ってまいります」
手を振って二人が見送ってくれる。それに私も無表情のまま手をあげ応える。屋敷から馬車が出たところで顔を中へと戻せば、ウィリアム様が優しい顔でこちらを見ていた。
「仲がいいね」
「過保護すぎてたまに困りますが・・・・」
「いいじゃないか」
そう言って、ウィリアム様は窓の外を眺める。その横顔はどこか寂しげだ。
何かあったのだろうか。そう思うが、聞くに聞けない。誰にでも一つや二つ人には言えない悩みがあるだろうし。
おろおろと声をかけられずに戸惑っていると、ウィリアム様がふと視線をこちらに向ける。それから向かい側に座る私をじっと見つめ、顎に手を添える。
「・・・・・・・」
「・・・・ウィリアム様?」
「・・・・・・」
「・・・・・・・?」
無言のまま徐に上着を脱いだウィリアム様は、なぜかそれを私に手渡す。どういうことだろうか。よくわからず首を傾げれば、着るように言われた。
今は特に寒いと思っていないが、ウィリアム様にそう言われたら上着を羽織るしかない。
今日のウィリアム様の服はワインレッドのスーツなので、羽織ると赤と黒が相待って何だかギラギラしているようにも感じる。
なぜ突然上着を羽織るように言ったのか。いまだにこちらをじっと見つめるウィリアム様が気になった私は声を掛ける。
ウィリアム様の目は、どこか仄暗かった。
「あの、ウィリアム様」
「・・・・さっきの言葉、ただの台詞じゃないよ」
「・・・・さっき?・・・ウィリアム様?」
「誰かに奪われることがないように、閉じ込めたい」
「・・・・・・」
「それこそ、一生ね」
「・・・・・閉じ込められては困ります。実験ができません」
「はは、それもそうだ」
ケラケラと笑うウィリアム様は再び窓の外に視線を向ける。
今の雰囲気、少し怖かったな。本気のような目をしていた。いや、この人の本気は国を滅ぼしかねないから、本領を少し発揮しただけか。
「・・・・・・」
私はウィリアム様の香りのする上着を見つめる。背丈が違うので上着は私の腰下まである。腕の長さも、袖を掴んでみれば拳三つ分くらい長い。
男なんだな。
そう思った瞬間、ぐにゅりとあいつがまた顔を出す。もうやめてくれ。
「・・・・・お店に着いたら、私からもブライトさんに説明させてください」
「わかった」
ただ、話を誤魔化すことしかできなかった。
.




