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お嬢様と悪魔





すっかり元気になった私は、早速研究室へと向かった。


数日離れただけで新鮮ささえ感じるそこは、私がいない間も執事長のジョージさんが掃除をするよう誰かに指示を出しておいてくれたみたいで、埃一つない。


そのことに感謝しながら、大きなテーブルの前に立つとそこに手をつき、残り僅かとなったパンメガス草の煮汁をビーカー越しに見つめる。


カップに一口分残ったコーヒーくらいの量ではあるが、一滴滴下するだけで小指が親指ほどの大きさになるパンメガス草の煮汁。これを一気に飲んだら私は巨人になるのだろうか。


ちょっと試してみたいという気持ちを押し留め、椅子に腰掛けると早速準備を始める。


ウィリアム様が屋敷に戻られてから三日が経った。先ほど使いの者がウィリアム様の到着予定時刻を知らせに来たので、おそらく一時間もしないうちにいらっしゃるだろう。



「・・・・・・・・」



今日中にはウィリアム様の依頼も完了させたい私は、テーブルの上に乱雑に置かれた本を手に取る。それは薬草について書かれているものではなく、人体の構造が細かく記されたものだ。


ケイトに言って仕入れてもらったものだが、文字だけでなく素っ裸になった女性と男性のイラストもあるのでかなり渋られた。しっかり、()()()()もイラスト化されているので破廉恥だと言いたいようだ。


それを見たところで特に何も思わない私がおかしいのだろうか。


ともかく、その本をぺらぺらと捲り、目について書かれている部分を見る。


水晶体と呼ばれる部分で光の屈折を利用し、物体を網膜に信号を送り、それを受けた脳が物体を認知するらしい。ただ、その構造は複雑で、水晶体の他に光の量を調節する虹彩と呼ばれる部分があるなど、一度読んだだけでは理解は難しい。



「(虹彩は人によって違うのか・・・・)」



私は母譲りの若紫の瞳を鏡越しに見つめる。今まで気にも止めなかったが、確かに人によって目の色が違うというのは不思議だ。いったいこの世には何色の瞳が存在するのだろうか。


そこでふとウィリアム様を思い出す。夜の森のような深緑の瞳はとても美しい。それは宝石に匹敵すると私は勝手に思っている。


虹彩は、その色によっては光の調節が難しいと聞く。つまり、若紫の私の目と、深緑の瞳のウィリアム様では同じ場所に立っていても眩しいと思う度合いが違うということだ。


では、漆黒の瞳を持つブライトさんと私はどれほどの違いがあるのか。


ぜひ、じっくり観察させて欲しい。そう思うが、顔を至近距離に近づけてお二人の目を観察し、それをノートにまとめる様子をケイトが見たら発狂しそうなので心の中に留めておいた。



「お嬢様、ウィリアム様とブライト様がいらっしゃいました」



そうこうしている間に時間が過ぎていたようで、執事長のジョージさんが研究室のドアをノックし声をかける。


私は相変わらずお嬢様とは思えない、むしろ商人の息子のような身なりを適当に整えると、そっとドアを開いた。



「ウィリアム様、ブライトさんごきげんよう」


「ごきげんよう、お人形さん」



今日も絵画から飛び出してきたのではないかと思えてしまうほどお美しいウィリアム様と、白雪の瑞々しい肌を持つブライトさんに膝を曲げて会釈をする。


それに応えるようにウィリアム様が胸に手を当てお辞儀をする。ブライトさんもぺこ、と頭を下げたけれど私の格好を見て驚いたのか、その薄い唇を開いた。



「お嬢様、その格好は?」


「ああ、・・・・・こちらの方が動きやすいので」


「動きやすい、とは」


「はい。実験中はよく動き回りますし、薬草を育てているので庭いじりすることも多いから、こちらのほうがいいんです」


「・・・・・ウィリアム様はご存知で?」


「先日ね。私も初めて見た時は驚いたけれど、ジェニファーらしくて気に入っているよ」



そう言って笑うウィリアム様。しかし、本来ならブライトさんの困惑する表情が正しいものだと、変人の私でも思う。


下手にウィリアム様と関係を深めるつもりはないという意思表示のために先日この格好を見せたが、結果としてそれは失敗に終わった。その時珍しく敗北感というものを知った気がする。


ともかく、私の格好に引いているらしいブライトさんがウィリアム様より先に研究室へと入る。この様子だと今にも着替えてこいと言われそうだと思ったが、ブライトさんはそんな私の想像を超えることを呟いた。



「この格好で外を出歩いたら他のお嬢様を勘違いさせてしまいますよ。物好きな男性もこの世にはいるんです。間違っても、男物の服を着れば一人で出歩いても問題ないと思わないでくださいね」


「・・・・・・・」


「ウィリアム様もそう思いませんか」


「確かに、余計な虫がつくかもしれない」


「虫で済めばまだいいものの、奔放なお嬢様ですから知らない方にもついていってしまうかもしれません。お相手が他のお嬢様なら理由を話せば理解されると思いますけど、殿方だったら・・・・・」


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・」



顔を真っ青にして黙り込んでしまったウィリアム様とブライトさん。まるでケイトやジョージさんと同じような考え方だ。この二人もいよいよ屋敷の毒牙にかかってしまったのだろうか。


そこまで弱々しいお嬢様ではない、と思う私ではあるが、お二人は思うところがあるようで心配な目を向けてくる。その目がケイトのものと似ていたので、内心げっそりする。



「・・・・・、屋敷の外にはこの格好で出たことがないので、そのご心配は無用かと」



この話はこれで終わりにしてくれ。と思いながらお二人に伝えると、ほっとした表情になる。


それからブライトさんは一度研究室を出ると、研究室の前まで持ってきていたらしい木箱を両手に抱えて戻ってくる。


それが何かすぐにわかった私は顔を明るくしてブライトさんへと歩み寄る。


少し屈んで中を見せてくれたブライトさんに釣られて覗き込めば、そこには私が買い占めた虫眼鏡があった。



「ありがとうございます、ブライトさん。テーブルにおいていただけますか?」


「はい、お嬢様。あ、まだあるのでお待ちを」


「・・・・・まだある?」



私が買い占めたものは全てこの中に入っている。なので木箱は一つのはずだ。まだあるというのは、どういうことだろうか。


テーブルに虫眼鏡の入った木箱をおいたブライトさんは、また研究室を出ていく。そして、先ほどよりも小ぶりな木箱と、その木箱の上に大きな紙袋を乗せて戻ってくる。


何だろうか、と木箱と紙袋をじっと見ていると、紙袋の方をウィリアム様が手に取った。


それから少し眉を下げながらウィリアム様は微笑む。



「できるだけ集めたんだけどね、帽子は見つからなくて」


「あ・・・・・・」



紙袋に入っていたのは、私の研究ノートやペンだった。


暴漢に襲われた時に落とした品々が戻ってきた。わざわざ拾いに戻ってくれたということだろう。


ウィリアム様が袋から出して、ノートとペンを手渡してくれる。少し泥を吸ったのか、ノートは所々茶色に変色していたけれど、中は無事なようで私の汚い文字やイラストが読めた。



「・・・・・・」



律儀なものだ。もう戻ってこないというか、忘れていたというのに。


なんだかむず痒いものが背中に走る。それが気持ち悪くなって思わず俯いてしまう。しかし、ノートとペンを胸の前でぎゅう、と握りしめるとどこかそれは薄れた。


この感情は、感心というより感動というものだろうか。


大事なものが帰ってきた。それは自分で取り戻したということではなく、ウィリアム様とブライトさんのご厚意によるもの。二人からしたらただのノートとペンだというのに、私のために拾ってくれた。


それは、とてもありがたいことだと思う。



「・・・・・・ありがとう、ございます」



ただのプレゼントだったら、ここまで喜ばなかったと思う。私はそこまで物欲がないほうだ。魔術のために薬草や魔術具を集める時は歓喜するけれど、父から服を贈られても、母から新しいお化粧道具を与えられても感情はさほど動かなかった。


だけど、今回は違う。お二人のお優しさを、とても感じる。


なんだか気恥ずかしささえ覚え、お二人のご厚意に対して顔を向けて感謝を伝えられない。


そんな私の様子を見て、お二人が顔を合わせ眉を下げながら微笑まれていたようだけれど、そちらを向けなかったので気づけなかった。


私がぼんやりとテーブルの上のビーカーを眺めていると、そのテーブルに小ぶりな木箱をブライトさんが置く。


今度は何だろうか。ブライトさんがその上蓋を外すと、中は藁で敷き詰められていた。



「お嬢様、これは私からです」


「ブライトさんから?」


「はい、私のために実験をしてくださっているお嬢様に、お礼の品をご用意しました」


「・・・・・あ、これ・・・・・」


「はい、店でお見せした猫の置物です」



藁の中から顔を見せたのは、ブライトさんのお店にあった硝子の猫の置物だった。とても精巧に作られた猫の置物は、やはり二度見ても美しく、また本当に気持ちよく眠っている様子が可愛らしい。


きっと高価な物だろうに、気前よく私に贈ってしまっていいのだろうか。


思わず心配になりブライトさんを見上げると、なぜか悪戯を思いついたようなあどけない笑みを浮かべられた。



「まだあるんですよ」


「え?」


「グラスをお届けする予定だったのですが、ウィリアム様がそれよりもお嬢様が喜びそうなものがあると仰いまして。・・・・特別に作ってみました」


「わぁ・・・・!」



藁をごそっと抜いて、木箱から取り出したものに私は目が釘付けになる。なんとそこにあったのは、実験で使うビーカーやフラスコ、試験管だった。


すでに研究室には同じものが何個かあるが、実験を続けていくとその数も足りなくなる。そろそろ注文をしようかなと思っていたところの贈り物だったので、思わず目をキラキラさせてしまった。


ブライトさんの手からビーカーを受け取る。しっかりと目盛りも刻まれており、実験で使っても全く問題がない。屋敷にあるものと変わりないが、どこかそれらよりも軽く感じるのはブライトさんの成せる技だろうか。



「ここ、お名前も入れてみました」


「本当だ、私の名前が入っています」


「出会った日の日付も入れたんです。恐縮ですが、いつでも思い出していただけるように」


「・・・・・・・」


「受け取っていただけますか?」



その言葉に、私はコクコクと何度も頷く。なんて嬉しい贈り物だろうか。服や宝石、お化粧道具なんかよりも格段に嬉しい。


しかも、名前や出会った日の日付を掘るなんて粋じゃないか。私はこのビーカーを使うたびに、お二人に出会った日と、そして今日の喜びを思い出すことだろう。


でれでれと、涎を垂らす勢いで喜ぶ私にブライトさんが微笑む。どうやら、先ほどの悪戯っ子のような表情は私を驚かせようとしていたらしい。見事に驚きましたよ、それはもうしっかりと。



「お名前と日付を入れようと提案してくださったのもウィリアム様です」


「ブライト、」


「ああ、言わないお約束でしたか。失礼いたしました」


「まったく・・・・・・」



にこにこと笑いながらブライトさんがウィリアム様をからかう。ウィリアム様はそんなブライトさんに眉を下げてから、少し居心地が悪そうにこちらを向く。


ゆっくりとした動作で私に歩み寄ったウィリアム様は、その長い腕を伸ばし私の頬を撫でる。それからそっと指で髪を耳にかけた。


深緑の瞳はさらに下がって私の首元へと向かう。シャツをずらしたところに、まだ少しだけ残る傷跡はそれでも回復に向かっている。


しかし、ウィリアム様は長い睫毛を下げるとそのお顔に影を落とした。



「君を傷つけた。それは変わりようのない事実だ」


「・・・・・・・」


「だけど、君に出会えてよかったと私は我が儘にも思う」


「ウィリアム様」


「君もそう思ってくれたらいいと思ってね」



確かに、怖い思いをしたという事実は魔術で記憶を奪うでもしない限り消すことはできない。


だけど、ウィリアム様に出会わなければ私も狭い世界の中で身勝手に生きていくだけだった。


商人の息子のような格好で研究室に入り浸り、考え方が周りと合わないからと世間を避け、ケイトやジョージさんがいればいいと考える独りよがりの世界は、とても小さく狭かったと今ならわかる。


突然世界が広がり戸惑うことも多いけれど、それでも満足感は確かにある。つまり、私はこの状況を楽しんでいるということだ。脳がそう結果を出したのである。


私は一度、手の中にあるビーカーを見る。目盛りの下に、実験で邪魔にならない程度の小さな文字で私の名前と日付が掘られている。


この日から、私の世界は広がったんだ。



「ありがとうございます、ウィリアム様」



自分でも意識をしないうちに、笑みが溢れる。


それは必要な時に必要な分だけ見せる愛想笑いと呼ばれるものではなくて、ウィリアム様の気持ちを思うと出てくる不思議なものだった。


その様子を傍で見ていたブライトさんが、恥じらってなかなか咲かない花がやっと開いた時のような美しい笑顔に思わず頬を赤らめ凝視していたとも知らず、私は深緑の瞳をじっと見る。


深緑の瞳も私をじっと見下ろす。眠たげな瞼が一瞬ぴくりと動いたような気がしたが、次の瞬間にはうっとりと蕩かせたものだから今度は私がピシッと石になる。



「ジェニファー」



私の頬に手を添えるウィリアム様の表情はどこか虚だ。柳の葉のように美しい眉を顰め、蕩けた瞳を向けるウィリアム様は今まで見たどの瞬間よりも美しい。


けれどそのお美しさは天使というよりも、支配欲の強い悪魔のように思えた。


薄く開いた瑞々しい唇を見て、私はしくじったと後悔する。お美しさの中に漂う色気が凄まじく、脳がしっかり機能を働かせない。何なんだこの方は、人の動きを操作できるとは、本当に人間なのか。



「(ああ待って待って待って、それ以上こっち見ないで)」



近づくウィリアム様のお美しい顔に脳内大混乱で目が回る。ダメだこのままだと私ーーーー



「お嬢様!遅くなりました!頼んでいたものが届きましたよ・・・・・っ、きゃあ!」



そこに、場違いなほど元気な声が響く。ケイトだった。


私の頬に手を添え顔を近づけるウィリアム様を目にしたケイトは、手に持っていた籠を地面に落とし、顔を手で覆う。しかし、ちゃっかり目の間だけ覆っていなかった。


ウィリアム様はそんなタイミングの悪いケイトに小さく笑みを零すと、そっと私から離れる。しかし、最後に私の手の甲にキスを落とした。



「残念」


「(た、助かった・・・・・・)」



腰が抜けそうになり、近くのテーブルに手をつく。


息ができなくて窒息死するかと思った。何なんだあの人の美しさは。もうあれは凶器である。


私はばくばく、と喧しい胸に手をおいて深呼吸を繰り返す。それから、ケイトが落としたものを一緒に拾っているウィリアム様を見る。


今、何をしようとしていたのかはわかる。わかるが、わかりたくなかった。


もし、私にケイトのような感情があったら私はどうなっていただろうか。キスだけで妊娠していたかもしれない。よかった、私が私で。


落ち着いてきた私もケイトを手伝おうかとテーブルから離れる。けれどそれより前に今まで黙って様子を傍観していたブライトさんが心配そうに私の名を呼んだ。



「お嬢様、平気ですか?」


「ブライトさん・・・・、私は今何か魔術にかかっていましたか?冗談ではなく、本気で聞いてます」


「いいえ、あの人の本領を垣間見ただけですよ」


「あれで垣間見ただけですか。本気を出したらどうなるんです」


「・・・・想像もつきません」


「・・・・・・・」



あの人の本気はきっと一つの国を滅しかねない力があると私は思う。王だろうが女王だろうが全員虜にして好き放題できるだけのものをお持ちだ。女である私でさえも絶対に敵わないと思う。


それはブライトさんも思うところがあるようで、やや小さめのため息をつくと私を可哀想なものを見るような目で見下ろした。



「とんでもない方に気に入られましたね」


「・・・・・・・」


「ですが、それもまた珍しい。・・・あの方がお父様の言いつけでもないのに街の整備までするんですから」


「・・・・整備?」



何のことだろうか。その意味がわからず首を傾げる。


そういえば、先日ウィリアム様が帰り際に「仕事ができた」と言っていたが、そのことだろうか。


公爵家のご子息の仕事は何なのか興味もある私は、ブライトさんに目で続きをせがむ。すると、その視線に気づいてくれたのか、ブライトさんが薄い唇を開いた。



「お嬢様が拐われた地域は、街の中でも比較的治安が悪いんです。コールマン公爵の管理は素晴らしく、皆満足度も高いのですが、やはりその目を掻い潜り盗みや売春、人身売買を行うものもいるようで」


「・・・・・・」


「今回の一件で、それが明るみに出た。ウィリアム様の仕事は領地の新規事業支援がメインだと聞いておりますが、お嬢様に危険が及んだということもあり、ご自身で対応したいと思ったようです」


「・・・・なるほど・・・・」


「迅速なご対応により、領主に未申請のまま営業をしていた店舗には営業停止命令、もしくは土地の返却を命じ、従業員とその店を利用していた人間も厳しく罰したとのことです」


「徹底的ですね」


「あの方の頭の良さは、コールマン公爵が舌を巻くほどだと噂で聞いたことがあります」


「(本当にすごい人なんだな・・・・・)」



公爵家のご子息、という肩書だけ見ていたけれど、その中身は私が想像するよりも論理的であり完璧なものだった。やはり、あの人の頭の中を覗いてみたい。


私は改めてウィリアム様を見る。ケイトが落としたものを自ら拾うために屈み込み、使用人に笑顔を向けるウィリアム様。まるでその姿は公爵家のご子息には見えない。


気取らない、そうブライトさんは前に言った。まさにその言葉通りだと私も思う。


そんなウィリアム様が私のことを思い、ご自身の業務ではないことをした。そのことを、私はどう受け止めるべきだろうか。



「お嬢様!」


「ああ、ケイト」



腑をぐるぐる動き回るよくわからないものに眉を顰めていると、ケイトがキラキラと輝いた顔でこちらに歩み寄ってくる。なんだかその笑顔がうざったい。



「先ほどはお邪魔をしてしまい申し訳ありません」


「いえ、ナイスタイミングでした」


「もう、心にもないことを」


「そもそも心がないので、ケイトが思っているような感情は抱いていません」


「それはそれで困ります。喜べません!」



ケイトがにやにやと笑いながら小声で言うものだから思わず悪態をついてしまう。ぷんぷん怒っているが屁でもない。勝手に私の感情を間違って読み解かないでもらいたいものだ。



「それで、持ってきてくれたものは?」


「ああ、はい。これです」



もうこれ以上ケイトのフワフワとした会話に参加したくないので、ため息混じりに伝える。するとケイトが籠の中に入っているものを私に見せる。



「おお、これもナイスタイミングですね」



いろいろケイトに仕入れてもらっているので、どれが手に入ったのかわからなかったが籠に入っているものを見て私はほくそ笑む。これは本当にナイスタイミングだ。


私は籠を受け取ると、ケイトにお礼を伝える。



ーーーーさて、そろそろ種明かしだ。



「ブライトさん、ウィリアム様、どうぞこちらに。実験を始めます。ケイトも見ていきますか?」


「はい、ぜひ!」



道具は全て揃った。そしておまけも。


私は椅子を3つ用意し、そこに皆に座ってもらう。ウィリアム様とブライトさんはまるで催し物を見に来た子どものような表情で腰掛ける。ケイトはいつも通りにこにこしている。


その様子を眺めてから、私は使用前の眼鏡を実験用の皿に乗せ、スポイトでパンメガス草の煮汁を吸い上げる。



「まず、前回までの実験で判明している結果をお見せします」



まるで実験結果を発表するように、私は意気揚々と話し始めた。




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