まほりさ
四月四日は『し』と『し』が合うのでしあわせの日なのだそうです。
「あんまり恋に落ちるって感覚、してこなかったなぁ」
机に向かっているのも束の間、椅子の背もたれに体を預けて中空に向かってぼんやり呟くと、背中の方で寝転がって漫画を読んでいる理沙が震える声を出す。
「別れ話、しようとしてる?」
「いやいや、そういうわけじゃないから」
遅ればせながら、私、独り言をつぶやくミステリアスな女こと鹿波真帆と、クラスの他の人には絶対見せないくらい気が緩んでいる敷島理沙はお付き合いしている。
ただ成り行きが成り行きだったから、私が恋に落ちた、という感じではないのだ。
「なんていうか……告白してきたのも理沙だし、私は理沙のことは好きだよ? でも恋しているっていうより愛されているって感じの方が強いかな」
「なんか確認みたいに言うと怖いから! 好きってとこ強調しなくていいから!」
「心配性だなぁ」
理沙は感情が豊かというか、気分が変わりやすいところがある。落ち込むのも早いし、元気になるのも早い。
椅子から降りて、よしよしと頭を撫でながら大丈夫だよ~、と声をかけるとすぐ笑顔になった。これじゃあまだまだ子供だ。私みたいな大人びたミステリアスな女には程遠い。
「理沙は私のことが好きって、どんな感じだったの?」
「だったの、っていうか今でも好きだけど……。好きって伝えるより先にバレたって感じだったし、どうなんだろう」
「でも自分から言おうとしてたじゃん。その時の感じが恋っぽくない?」
なんて言いながら、少しだけ前のことを思い出した。理沙のことを嫌いだとこっぴどく振ってやろうと思った時のことだ。
結局、その時に私は理沙のことが好きだと気づいた。理沙と一緒にいたくて……それ以上のことは考えなかったけど、とにかくずっと理沙と一緒にいたいと思った。
そしてそれを伝えようとして、その時の感情がもやもや胸の中で渦巻いて、苦しく血を吐くみたいに、少しずつ言葉にしていく感覚。
「耐えられなかったから。言っちゃダメな気もしたんだけど、言わないと我慢できない……って感じかな。ずっとあのまま、真帆と一緒にいる時間が少ないままなのが嫌だったから」
「……そっか」
理沙の頭を撫でる手を、髪を撫でてすらっと伸びる背中にまで伸ばす。
空いた手で理沙の首に手を添えて、顔を近づける。
結局、同じことを考えてたんだと思うと、理沙のことが妙に愛しく思えてくる。
一緒にいれて嬉しい、ただの幸福感。他愛のない会話なのに日々幸せがアップデートされていくみたいだ。
「理沙、私のこと好き?」
「と、突然なに!? 好きだよ、もちろん。わかってるでしょ、そんなの」
「まあね」
同じ気持ちでいる。だったら、絶対に理沙と離れることはない。
「んん、ん、私も好きだよ」
この感覚。
たまには私から、きちんと愛を伝えようなんて思ったけれど、恥ずかしくて喉に引っかかる。顔をそらして目を閉じてしまって、ちゃんとした、なんて決して言えないへたくそな愛の告白だった。
ダメだなぁ、もっとクールな感じが大人の女性なのに。
恥ずかしながら、申し訳なさそうに理沙を見ると、ふるふる感動して震えている理沙が、即座に座り直す。
そして、ずずいっと顔を近づけてくる。
「私も! 私も!」
「いや先に聞いたから。先に聞いたから」
「真帆ーっ!」
抱きしめられて、押し倒されて、椅子に頭を打つ。
すぐに理沙は離れてごめんごめんと何度も謝る。
まだ私の方が大人だな、と思った。




