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第2話 キス……してしまいましたの

 わたしは、キスを迫られながらもキスされない、この状況を理解しておりました。そして、殿方とキスしたくない気持ちも、もちろんありました。


 でも……


(こんな扱い、あんまりですわ!)


 たとえわたしが悪役令嬢だとしても、わたしという人間である以上は……この感情がある以上は! 〝当て馬〟キャラなんて絶対に演じたくありません。


 そんなわたしの心の中での反乱をつゆ知らず、金髪キス魔(あら失礼♪)は主人公のほうをチラ見しつつ、


「焦らすね……。その唇を奪いたい……」


 なんて心にもないことをわたしに向かって囁き続けてきます。

 焦らしているのはどちら様かしら?


 わたしは思い切って言ってみました。

「いいですわ。キスしましょう?」


 するとその方は、案の定、

「え!? いや、その……」


 初めて、わたしという存在に気づいたかのようなリアクションをなさいました。

 そうです。こんなに近くで延々囁きながら、ようやくわたしというものが、キスを拒む以外のことができる人間だと気づいていただけました。


 はじめまして、この野郎。


 わたしは油断しきっていたその方の唇めがけて、

「えいっ!」


「ッ!?」


 キス……してしまいましたの。


 さすがにディープなものは抵抗がありまくりますので、ささやかな、小鳥がついばむくらいの、軽い軽い、触れたか触れないか程度のキスでした。


 それでも、キスはキスです。


「ッ!? ……!? !? え!?」


 あなた焦りすぎでしょうが……!


 その方はご自分から求めていたものが得られたというのに、まるで被害者のようなショックを受けた表情をなさり――


「見られたか!?」


 すぐに主人公のほうをご確認なさいました。


 主人公の黒髪の少女は……


 見て、おられました。


 その可愛らしい目を可哀想なくらいにぱちくり見開いて。

 口も……あらあら、はしたないくらいにあんぐり開けて。


 周囲を取り巻いている大勢の殿方たちも、そんな彼女の驚愕に気づき、目線を追ってわたしたちふたりのほうを見ておられます。


(ふふふ、やってやりましたわ!)


 わたしは殿方とキスしてしまった嫌悪感よりも、主人公に勝った、という勝利の喜びが湧き上がり、とてもとても高揚してしまいました。


 まるで、キスで頬を赤らめる少女のように。


 すると――


「こうなっては仕方がない。ぼくも男だ。ロズリーヌ・ド・ヴァルタン、いや、ロズ。ぼくと……このマッケンジー・G・パンチと、結婚してほしい」


「は、はいぃ?」


 わたしにキスされた殿方から、突然プロポーズされてしまいました。


「えっと、えっと……」


 思いもしなかった展開にわたしはあたふたしながらも、


(マッケンジー・G・パンチ。……しまった、この殿方、主人公の攻略対象となるメインキャラクターじゃないかもしれないわ。G・パンチってダサすぎます!)


 そんなことを、頭のどこかで考えていたのでした。

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