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Under the Rose~ヒメゴトは氷の薔薇の許で  作者: 宵宮祀花
終幕✿葬送の鎮魂花
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葬送の黒薔薇姫

 黒一色のドレスに身を包み、ヴェールのついたトーク帽を頭に乗せて。首から足先まで一切の露出をなくした姿で全身鏡の前に立つ。葬儀のためのドレスはバッスルスカートの腰元に黒薔薇の花が咲いている他は目立った装飾もない、シックな作りをしている。

 フィユの身支度を整えたエマとヘレナの表情も沈鬱で、ヘレナに至っては泣き腫らした痕が目元に残っており、とても痛々しい。


「王女様。お支度が整いました」

「……ありがとう」


 静かに一礼して退室していった二人と入れ違いに、リヒトが入ってきた。彼もいつもの白い執事服ではなく黒の正装を身につけており、手袋も黒いものに変えている。


「参りましょう」

「ええ」


 王城に連れてこられてから、幾度となく王女として仕事をしてきた。

 公務の合間に詰め込むようにして女王教育を受け、グランツクリーゼの有り様を学んできた。国交、内政、外商……治世の全てを詰め込んだ半年だった。本来の王女であれば、年月をかけて少しずつ学んだであろう内容を短期間で修得するのは容易ではなかったが、デューンとの会合をきっかけにして心が決まってからは、自分でも驚くほどすんなり吸収することが出来た。

 果たしてシェルフィーユ王女がどれほど身につけているかはわからないが、少なくとも彼女よりは出来の良い王女になれているのだろう。フィユを見つめるリヒトの眼差しが、言葉無く雄弁に語っている。


 この国では、双子が生まれたら片方を外に預ける。

 後継に何事もなければ、そのまま王家の人間であることを知らずに生涯を送り、王国に万一のときあれば迎えが来て王女となる。

 もしも万一の事態が起きなかったら――――


「リヒト」

「はい」

「思い出したの。あなたと外で初めて出逢ったときのこと」

「然様でございますか」


 リヒトの声音は普段と変わらず淡々としており、いったい何処までが計算通りなのか。フィユは最早考える気にもならなかった。


「あなたが……わたしの記憶ごと、過去を焼いたのね」

「ええ」


 幼少期を過ごした家を焼いたことを指摘されても、リヒトの態度は崩れない。フィユも今更彼の行いを責めるつもりはないため、それ以上なにも言うことはなかった。


「全ては、王家とフィユ様のために」


 彼の言う全てとは、いったいどれのことを差すのだろう。

 あのとき、広い城下町の更に入り組んでいる路地裏でシェルフィーユと出逢ったのは。シェルフィーユが逃げていく方向の道にだけ、追っ手の騎士がいなかったのは。売り手を選べば一袋の金貨にもなり得る金髪の子供を、商人がたった数枚の金貨で諦めたのは。

 果たして、偶然だったのだろうか。


 以前に、リヒトが言っていた。


『証拠は、見つかるものではないということです』


 きっと最初から仕組まれていた。フィユはいままであの火事が発端だと思っていたが、恐らくそれよりも遙か前からリヒトは設計図を描いていたのだろう。


「ずっと、あなたのその言葉だけが頼りだった。でもいまは違うわ。わたしにはお父様が残してくれた言葉がある。だから……もう迷わないわ」


 最期のとき。フィユの目を真っ直ぐに見つめて零した、掠れた声。

 あの言葉はフィユと医者と、それからリヒトの耳にだけ触れた。そしてリヒトの命で、他言無用として今日まで来た。彼の医者は口が硬い人物で、国王のみならず女王の信頼も得ている男だ。

 そしてなにより、シェルフィーユの横暴と暴言を誰よりも憎んでいる人物でもある。


「間もなくです、フィユ様」

「そうね。もうすぐ、あなたの作った人形が、玉座に飾られるのよ」


 手と手を重ね、葬儀を執り行う大ホールへと向かった。

 見慣れた顔ぶれがフィユを出迎え、静かに目礼を贈る。普段は嫌味の一つでも寄越してくる貴族たちも、亡き国王の前では囀る歌もないようで、じっと口を噤んでいた。

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