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Under the Rose~ヒメゴトは氷の薔薇の許で  作者: 宵宮祀花
七幕✿機構仕掛の花冠
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凍てつく泉に沈む心

 手際よくドレスを着付けられ、髪を整えられ、アクセサリで飾られて、あっという間にパーティに臨む姿へと変貌した。


「エマとヘレナは、今回はキッチン係なのよね」

「はい。私たちは元々、スカラリーメイドでした。王女様の身の回りのお世話を直接することになったのは、あのパーティの日からなのです」

「そうだったの?」


 目を丸くするフィユに、エマとヘレナは照れくさそうに微笑んで頷いた。

 彼女らはメイドの中でも最も身分が低い、皿洗いメイドだった。城の掃除や食器の管理などを一手に引き受けるメイドで、王女に直接対面するメイドではなかったという。


「王女様のお世話を担当していたメイドは、リヒト様の指示で他の仕事に移っています」

「今日は久しぶりに厨房へ戻ることになります」

「そう……忙しいのに、わたしのことまで手伝ってくれてありがとう」

「いえ、私たちはこうしてお会いできるだけでうれしいですから」

「では、仕事に戻ります」


 そう言うとエマとヘレナは一歩下がってスカートを摘まんで揃ってお辞儀をし、部屋を出て行った。明るい彼女らと話したことで、フィユの表情も少し明るくなってきている。そのことを指摘すればまた意識してしまうからと、レダは別のことを口にした。


「間もなくリヒト様も戻られる頃でしょう」


 そう言ったとき、見計らっていたかのような頃合いで扉がノックされた。


「どうぞ」

「失礼致します。お客様をお招きする時間となりましたので、広間までお供致します」

「お願いするわ」


 扉を開けたままで声をかけたリヒトに歩み寄り、差し出された手にそっと手を重ねる。フィユとリヒトの後ろをレダが付き従い、広間へと向かった。

 会場となる広間は綺麗に飾り付けられており、中央のダンスホールはもちろんのこと、奥の壁際に並べられたテーブルにはいつでも食事を楽しめるよう席が整えられている。


「王女様。お客様がご到着なさいました」


 広間の入口から、声がかけられる。彼女は他のメイドとは形の違う制服を着た、接客を専門とするメイドの一人だ。若くて見目が良く、対人関係においてある程度優れた女性が選ばれるため、城勤めの中でも一種の花形と言われることもある。

 フィユが「お通しして頂戴」と言うとメイドは優雅に一礼し、広間を去った。


 それからは、忙しなく時が過ぎていった。

 ヴォルフラート王国領内の殆どの貴族が訪れたため、一人一人に挨拶をするだけで日が暮れるのではと思ったほどだ。そして訪れた貴族たちの態度から、やはり王女は彼らにも暴言を吐いたり、失礼な行動を取っていたことを思い知らされた。

 下を向いてはいけない。けれど、なにも気にしていないかのような、すました顔をしていてもいけない。数多の王家や貴族たちに非礼を働いた王女として、相応しい姿で立っていなければならない。


 訪れた賓客たちの皮肉めいた挨拶に答えているうち、フィユは少しずつ感覚が麻痺してくるのを感じていた。全身が氷水に浸っているような、次第に痛みすらも感じなくなっていく、あの感覚。

 それでも倒れずに立っていられたのは、レダやエマたちの言葉があったからだ。

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