凍てつく泉に沈む心
手際よくドレスを着付けられ、髪を整えられ、アクセサリで飾られて、あっという間にパーティに臨む姿へと変貌した。
「エマとヘレナは、今回はキッチン係なのよね」
「はい。私たちは元々、スカラリーメイドでした。王女様の身の回りのお世話を直接することになったのは、あのパーティの日からなのです」
「そうだったの?」
目を丸くするフィユに、エマとヘレナは照れくさそうに微笑んで頷いた。
彼女らはメイドの中でも最も身分が低い、皿洗いメイドだった。城の掃除や食器の管理などを一手に引き受けるメイドで、王女に直接対面するメイドではなかったという。
「王女様のお世話を担当していたメイドは、リヒト様の指示で他の仕事に移っています」
「今日は久しぶりに厨房へ戻ることになります」
「そう……忙しいのに、わたしのことまで手伝ってくれてありがとう」
「いえ、私たちはこうしてお会いできるだけでうれしいですから」
「では、仕事に戻ります」
そう言うとエマとヘレナは一歩下がってスカートを摘まんで揃ってお辞儀をし、部屋を出て行った。明るい彼女らと話したことで、フィユの表情も少し明るくなってきている。そのことを指摘すればまた意識してしまうからと、レダは別のことを口にした。
「間もなくリヒト様も戻られる頃でしょう」
そう言ったとき、見計らっていたかのような頃合いで扉がノックされた。
「どうぞ」
「失礼致します。お客様をお招きする時間となりましたので、広間までお供致します」
「お願いするわ」
扉を開けたままで声をかけたリヒトに歩み寄り、差し出された手にそっと手を重ねる。フィユとリヒトの後ろをレダが付き従い、広間へと向かった。
会場となる広間は綺麗に飾り付けられており、中央のダンスホールはもちろんのこと、奥の壁際に並べられたテーブルにはいつでも食事を楽しめるよう席が整えられている。
「王女様。お客様がご到着なさいました」
広間の入口から、声がかけられる。彼女は他のメイドとは形の違う制服を着た、接客を専門とするメイドの一人だ。若くて見目が良く、対人関係においてある程度優れた女性が選ばれるため、城勤めの中でも一種の花形と言われることもある。
フィユが「お通しして頂戴」と言うとメイドは優雅に一礼し、広間を去った。
それからは、忙しなく時が過ぎていった。
ヴォルフラート王国領内の殆どの貴族が訪れたため、一人一人に挨拶をするだけで日が暮れるのではと思ったほどだ。そして訪れた貴族たちの態度から、やはり王女は彼らにも暴言を吐いたり、失礼な行動を取っていたことを思い知らされた。
下を向いてはいけない。けれど、なにも気にしていないかのような、すました顔をしていてもいけない。数多の王家や貴族たちに非礼を働いた王女として、相応しい姿で立っていなければならない。
訪れた賓客たちの皮肉めいた挨拶に答えているうち、フィユは少しずつ感覚が麻痺してくるのを感じていた。全身が氷水に浸っているような、次第に痛みすらも感じなくなっていく、あの感覚。
それでも倒れずに立っていられたのは、レダやエマたちの言葉があったからだ。