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異世界Good Will Hunting:善意の狩  作者: 寄り目犬
9/34

マタック村の狩

ちょうどお昼時なのか

村に来た時よりも、人が家の前に出て

何やら煮炊きをしており

こちらに気づくと、不審そうにジロジロ見る人もいた。


それにしても腹が減った。

美味しそうな匂いが漂ってくる。


「あ、マーシー!!」


黄色い女子の声。

まあちゃん即席ファンクラブの一人

シエラだ。

家で昼食をご馳走する!!と

意気込んでいたな・・・。


「ずいぶん遅かったわね。

 どうせ、村長に魔法の自慢話でも

 されてたんじゃない?」


「まあね」


「お疲れ様。とりあえず、昼食にしよ!

 うちはこっち!」


無邪気に走り出す。


「すごいな・・・」

賢治は思わず呟いてしまった。


「何が?」


「いや、距離感の詰め方というか。

 まあちゃんの女子魅了能力」


「何だよ、それ。」

まあちゃんは苦笑しつつ

こちらを振り返る。


「いや、だってさ。

 いくらまあちゃんがモテるとはいえ

 得体の知れないやつを逆ナンして

 昼食に招待するっていうのがさ…

 この村の女子のパワーはすごいな」


不意にまあちゃんの表情は固くなり

賢治の目を凝視してくる。


「ケンちゃん…」


「え?」


「それだ」

どれだ?


「何してるのー?ここだよー」

シエラの能天気な声が白々しく響く。


「ああ、今いく」

愛想のいいまあちゃんが発動している。

これは何かある。


でも、とりあえず腹が減ったので

いい匂いのする家へ

のこのこ招かれる賢治であった。


穏やかな昼食だった。

パンとベーコン、ジャガイモとニンジン、キャベツのスープ。オムレツ。

食文化はこちらとほぼ同じだが、パンもベーコンも自家製で、めちゃくちゃ美味しい。

ジャガイモもキャベツもニンジンも卵も今朝取れたものだそうだ。最高。

高原のペンションで昼食を食べている気分で、ばくばく食べていたが、その間もまあちゃんは、シエラから談笑してる風を装い、情報を引き出していた。


食物に関して、外から買い付けるのは、小麦や魚、調味料くらいで、ほんとんど自給自足でまかなっているらしい。

畑、養豚場と養鶏場は、村の離れにあるが、ま肉のほとんどは、狩りによってもたらされるらしい。ちなみに、放牧も行なっているエリアもあるらしく、村の敷地は思っていた以上に大きいようだ。



シエラは、しきりに

「あなたたちの故郷はどこなの??」

「何で、あの河原にいたの?」

などと、答えづらいことを無邪気に聞いてくる。


そのたびに、まあちゃんは

「故郷はない」

「移動しながら、商いをして生計を立てている」

などと、無駄に影のある感じで答え

そのたびにシエラは

(あなたの過去を全て受け入れる)

と、言わんばかりに、目を潤ませ、深く頷き

真剣に話を聞いている。


何なのこれ。


「ところで、ケンジはマーシーの用心棒か何かなの?」


「え?」


「あなた、相当強いんでしょ?

 一度手合わせお願いしたいな」


「え?何で??」


久しぶりに話を振られ、

しかも「手合わせをお願いしたい」という

言葉の響きに、勝手に勘違いして

顔が赤くなる。



「私たちは、魔力は弱いけど、

 もともと原始的な

 狩りを得意としている部族でね。

獲物の気配を察知する力の発達とともに

相手の力量を見抜く力も

強まっていったんだ」



ほほう。私の真の力を見抜くとは・・・

などと、言いたいところだが

当の本人がその真の力がどんなものか

分かっていないので、

「へー」というしかない。


「今度みんなの狩りに

 同行させてくれないかな」

と、まあちゃん。


「ええ、もちろんよ。

 この後、日が暮れる前に私たちのチームは

 狩に出かけるから、良かったら…

 レーヤのバカも探しに行かないとだし・・・」


「レーヤさんは、一人で夜、何をしに行ったのか

 見当はついてるの?」

自分でも不思議なのだが

なぜか、レーヤという会ったこともない人が姿を見せないことに不安を抱いている自分がいる。

聞かずにはいられなかった。


「あいつは、昔からそうなのよ。

 古い一族の慣習を重んじていて

一人で夜狩に出て

 獲物を狩って、一番に

  ウプウアウト神に捧げるの。

今時長老たちでもやらないわ」


「ウプウアウト……」


「どうしたまあちゃん?」


「いや…」

なにやら考え込んでいる。

この場で言えない何かがあるようだ。


「そういえば、シエラは一人暮らしなの?

大きな家だね」

とりあえず話を逸らしてみた。


「この年で一人暮らししている子なんて、レーヤくらいよ。普通は一人前になるまで4,5人で狩のチームを組んで一緒に暮らすの。

経験を積んで、一人でも狩ができると判断されるのは30代になってからね。

年老いて、狩に不向きになったら、畑仕事や畜産に精を出すの。」


「へぇー。じゃあレーヤさんは狩の腕前がいいんだ」


「まあ、狩の腕はいいわよ。でもあいつの場合は、まあ色々とね…」


大学にいればなんてこともない質問だが、

この世界に来ると色々と話が広がるなあ。

レーヤのキャラクターもなんとなく見えてきた。

協調性0の天才肌。会ってみたいなあ…

などと考えていると

バタン!

勢いよく扉が開いた


「シエラ!見てよこれ!」

弓を携えて颯爽と

現れた勝気な美少女が

小さな青い宝石をちりばめた

ネックレスを見せびらかせている。


「買ったの?」


「まあね、昨日王都から帰ってきたの。

 ちょこっと魔法を

 付与してもらったら1発で命中よ!」


「ふん、魔法に頼るなんて…」


「また、そんな古臭いこといってー。

こないだも鹿を逃して悔しい思いしてたじゃないの。

 便利よ、魔法。あなたも村長に教わったら?」


「あのね!私が本気出せば、そんな

 ネックレスに頼らなくてもカプサより

 魔法もうまいわよ!ただ、狩には使わない。

 こそこそ小声で詠唱して、矢を放つなんてダサすぎ。

 そんな真似、リーダーとして絶対にできないわ」


カプサは、どこ吹く風で

当たり前のように、シエラの隣に座った。

つまり、俺の真正面だ。

「本当に頭硬いわね。ま、いいけどさ。

この二人が外の人?へー。

 私はカプサ。よろしく。

 あなた、強そうね。早速狩りやってみる?」



そうそういない美少女に

出会ったその日に狩に誘われ

戸惑わない方がおかしい。

ゆえにキョドる

「え、あ、いや、あの…」


「そ、し、て。こちらが噂のマーシー様ね!!」

はい、俺のターン終了。


「ほほおー、なかなか色気がありますなあ。

そして、力は…全く分からない。未知数ね。」


「相手の力量は、感覚で分かるのか?それとも、視覚的に見えるものなのか?」

ジロジロ見られていたまあちゃんは、まっすぐにカプサの目を見つめ返して訊ねる。


カウンターを食らった形になった

カプサは紅潮し、目をそらし

「え、ええと、感覚…かな?強い人をみると、ワクワクするの。」

お前は戦闘民族か。


それにしても、先ほどまでの勝ち気で好奇心いっぱいの元気キャラが嘘のように乙女化した。

もう、この現象はまあちゃんの能力によるものと結論づけていいだろう。


「ちなみに、脅威になる強さの気配はかなり遠くからでも察知できるよ。

それにしても強さの視覚化なんて、面白い発想だなあ…

そんな、能力は聞いたことがないなあ」

シエラは感心しているが、俺としては、強さの視覚化が一般的ではないことに落胆した。

異世界に来たら自分のステータスや相手のステータスなんて簡単に見えるもんだと思っていたし、その要素は異世界モノでは重要だと考えている。

自他の強さが数値で分からなければ、俺TUEEEができない。実際戦ってみて、「相手TUEEE…こんなはずじゃなかった…」などとなれば目も当てられない。強いでしょと指摘されてはいるが、それはどうやら感覚で言ってるみたいだし、自分を過信せず戦闘は避けよう。


「治癒魔法、治癒能力なんかもやっぱり珍しいものなのかな?」

怖気付いて守りに入って俺は、早速そんなことを聞いてみる。


「そうね。うちの村だと、王都から来た村長とピエタという薬師。

 あとコリンしか持っていないわね。

 王都に行けば、薬師はもっといるはずよ」



「なるほど、では治癒能力は特に珍しいものでもなくて

 魔法の適性があれば、誰でも習得は可能?」


「そうね。

 痛みを和らげたり、小さな傷口を塞ぐ程度は

 誰でも使えるわ。

 でも、それはあくまで応急処置。

 大抵、光玉を使って手当てするわね」


「光玉…?」

思わず、疑問を口にしたが、

大丈夫だろうか。


「これのことよ」

シエラは寝室からソフトボール大の

半透明の水晶玉のようなものを持ってきた。


「魔石のエネルギーを受信しているの。

これのおかげで、生活に必要な

火や水、光なんかも自由に扱えるようになるの。

怪我を負ったり、病気になった時にこの光玉に祈りを捧げて寝ているとすっかりよくなるわ」


なんて便利な!

ガス、水道、電気と医療

全部これ1つでまかなえちゃうのね!

と、感動したが、ああ、それね。

といった感じで頷く。


「この村は各家庭に光玉があるのか?」

まあちゃんが絶妙な質問をする。


「ええ、もちろん。

一応、この村も王都直轄の村になったからね。

この光玉をいただいたとき、王都の民として住民登録するの。

王都は直轄領に、どんな民が何人いるのか、一括管理しているそうよ」


「なるほど…

 ちなみに王都は、この村の住人は自由に

 行き来できるのか?」


「そうね。

 私の足なら5日もあればたどり着けるし、

 なんたって、王都直轄の村の住民登録済みだから

 顔パスよ!」


「だからって、勝手にいくな!」

シエラがカプサの頭をひっぱたく。


それにしても、村長の家から感じていたことだが…


異世界転移。おもうてたんとちがう…。


魔法というファンタジックなものがありながら、律儀に住民登録をしていたり、魔法がインフラとして人々の生活に地味に登場していたり。


なんだかあまり夢がない。


ついでに言わせてもらえば、村長に見せてもらった魔法も、カッコいい術式などがエフェクトとして見えるでもないし、詠唱も、超普通だし。「アレクサ電気つけて」と言ったら部屋に電気がついた、そんな感じだった。

全く、微妙な異世界に来てしまったものだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



(この世界サイコーーーー!!)

心の中で絶叫しつつ。

木から木へ、すごいスピードで飛び移る。

我ながら凄まじい身体能力を得たものだ。

この体でできないことなどないのではないか。

そんな気がしてくる。


はじめて補助なし自転車に乗れるようになった

日のような高揚感に突き動かされ、俺は今、異世界を駆け回っている。


眼下には、獲物(走る鹿のような生き物)が木々の枝と枝の間から見える。

賢治は弓を持たないことを後悔した。

武器らしいものは木刀だけだ。無数の枝をへし折りながら急降下して、鹿に一撃喰らわすのはさすがに無理だよな…

しかし、そんな弱気は一瞬で消し飛ぶ。体の内側から高揚感とエネルギーが溢れ

いや、本当に無理か?今の自分はエネルギーが有り余っている。そのくらいのことできるのではないか?と、改めて問いかける。


「できる」


呟くのと同時に、頭上の枝を強めに蹴って、左手で顔をガードしつつ鹿に向かって急降下する。

次から次へと枝が現れ

普通ならぶつかっただけで昏倒しそうや

太い木の枝が目の前に現れた。


あ、ぶつかる


と、思った瞬間、左腕と顔にぶつかった枝はなんの抵抗もなく、へし折れていた。体に痛みは感じない。


一気に視界が開けて

鹿の背中が間近に迫る。

艶々の毛並み、引き締まった後脚の筋肉の動きまではっきりと見える。


今だ


右手に握った木刀を、首元めがけて振るう。


狩りを絶対成功させる。

獲物に致命傷を与える。

なるべく痛みや、苦しみは感じさせたくない。


瞬きするよりも短い刹那、

俺は確かに祈っていた。

鹿の首に木刀は吸い込まれ、

反対側から音もなくするりと抜けた。


ズダン


それなりに大きな音を立てて着地していた。

着地点の地面は少し陥没している。

かなりの衝撃は感じたものの、これまた痛くない。


ズザァァァァ


首なしの獲物の体が俺を追い抜いて、

地面に崩れ落ちた。

鹿の頭がすぐそばの地面に転がっている。


鹿の首からは、血が吹き出して、血だまりができつつある。

不思議と木刀で首を切り落とせたことに対して、

戸惑いはなかった。

まあ、そうなるよね。と、妙に納得している

自分が不思議だった。

しかし、興奮のせいか、力を使った反動なのか

今更ながら、息が上がり、肩で息をしていることに

気が付いた。


「え、もう仕留めたの??」


3人の女子が茂みから飛び出してくる。

左からポニーテールのエレン、

ショートボブのマリー、

ベリーショートのクレア。

みんな美形で、3人並んで立たれると

圧倒されてしまう。


この3人もシエラの家であの後、合流し

まあちゃんと会話を交わして惚れる

といういつもの不愉快極まりな

展開となったので、そのシーンは割愛し

一気に狩りのシーンまで場面転換したわけだ。



遅れてカプサが登場。

「えーーー!どうなってんの?なにこの切り口」

早速獲物に近づいて、しげしげと眺めている。



そこへ木々を揺らしシエラが着地した

「これは…」

息をのんで、仕留めた獲物の傷口を見つめている。


いつの間にかまあちゃんもすぐ隣で涼しい顔をして立っている。どこから現れた??そもそも、どうやって追いついたんだろう。少なくともスタート時は、テクテク歩いていた。謎だ。

しかもどこで手に入れたのか、肩にメッセンジャーバッグのようなものを斜めがけしている。


「木刀で仕留めたのか?」

まあちゃんだけは、顔色ひとつ変えず、世間話するかのように聞いてくる。


「そうだね」


「ちょっとまってよ!そんな木刀で、なんでこんなことになるのよ」

カプサは明らかに困惑している。

対照的にシエラは、さすがリーダーというべきか、落ち着いたものだった。


「それがケンジの能力なんでしょ。マーシーといい、やっぱり外の人の力は私たちの想像を超えているわ」


「え、まあちゃんはもう狩ったの?」

獲物を追いかけるのに夢中で気がつかなかった。


「まあね」

そう言って、まあちゃんは肩にかけていたメッセンジャーバッグのようなものを掲げてみせた。


「え、すごい!いつとったの?てか、どうやってとったの??」


「それがそばで見ていたわたしにも分からないのよ」


興奮しながら語るシエラの話を総合すると

まあちゃんを置いてけぼりにするつもりで

獲物を追いかけていたところ、

突然はるか後方にいたはずのまあちゃんが視界に現れ、

獲物に向けて、手をかざした。

すると光とともに獲物は宙に浮き

ひとりでに解体され

血抜きされた肉となった。

周囲の木の皮や葉が繊維にとなって

編み込まれながらその肉を包み、

それをメッセンジャーバッグのようにして

マサトシが担いだというのだ。


「すごい!魔法じゃん!!」

思わず、俺も興奮して叫んでしまった。


「無詠唱であんなことやってのけるなんて

 魔法って言っていいものかどうか…」


「まあちゃん、この獲物、肉にできる?」


「…まあ」

しぶしぶといった感じで

まあちゃんは、無残にも

頭をなくした獲物の体に手をかざした。


その途端、青い光が獲物の体の中心から

球体状に展開された。

光に包まれた獲物の体は宙に浮き、

一瞬で皮は剥がれ

切り刻まれて、血は絞り尽くされる。

いつの間にか、獲物の下の地面に

穴があいており、そこに内臓も、

血も骨も全て吸い込まれるようにして

入っていく。

同時に周りの木々や葉がざわめいて

繊維がひとりでに編まれていく。

植物の繊維は血抜きが済んだ

肉の塊を速やかに覆い

俺の肩に

斜めがけのメッセンジャーバッグのように

かかけられた。

血や内臓が入った穴は

いつの間にか埋められている。


恐怖を感じていた。


無駄なく、緻密に、淡々と

命を持っていたものが

問答無用で食されるための肉塊に変わっていく。

目の前で展開されていく光景は

紛れもなくまあちゃんの魔法によるものなのだと、そう実感してしていた。

まあちゃんならこれくらいの力に目覚めるだろう。


パチパチパチパチ


ビクッとして音の方を見ると

村長が笑顔で拍手しており、

一歩下がってリリィが目を見開いて立っていた。


「いやー、すごい!素晴らしい!!」


まあちゃんは、村長をいつもの無表情で

眺めていた。

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