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異世界Good Will Hunting:善意の狩  作者: 寄り目犬
7/34

ここはどこ?

翌朝目がさめると隣で

まあちゃんが寝ていた。

しっかりと寝袋にくるまっている。


外はもう明るい。


「…え、見張りは?」

寝ぼけているせいか

心の声がダダ漏れになっている。


テントの外に出ると

清涼な空気に満ち溢れていた。

朝の日の光に川は、照らされキラキラ輝いている。


昨日のおどろおどろしい出来事があったことを

隠しているみたいで、なんだか白々しい風景に思えた。


のびをしながら辺りを見渡すと

見知らぬ人々が

遠巻きにこちらを見ている。


その面々に思わずギョッとした。


普通に日本人っぽい人もいれば

白人、黒人、東南アジア系

様々だ。


???

奥多摩ってこんなに外国人観光客多いの??


いや違う。

よく見てみると比較的若い女性が多いが、

その服装は、現代のファッションからは遠ざかったものだ。

着物とも違う。作務衣が一番近いが、どうもそれも違う。

少なくともキャンプをしにきた人たちには見えない。


なんかの宗教団体だろうか。


みんな、おけのようなものと

洗濯物らしきものを抱えている。


状況が飲み込めず

急いでテント内に引き返し

まあちゃんを呼ぶ。


「おい、まあちゃん!

 なんか外がおかしい!!」


ぱちっと目を覚まし

「了解」と、答える。

お前はアレクサか。

いや、アレクサの方がまだ愛想がある。


昨日から

「まあちゃんが本当に同じ人間なのか」

と疑念を抱く賢治だったが、

今ではそんな自分自身も人間かどうか疑わしい。


とにかく今はそんな二人でこの

非常事態を乗り切るしかないのだ。


テントの外に出ると

まあちゃんは当たり前のように

外のギャラリーに話しかけた。


「あなたたちは?

 キャンプの客?

 言葉通じる?」


すると、どよめきの中から

美しい顔立ちをした女性が

一歩前に出た。

様々な人種の顔立ちが

混ざり合って、エキゾチックな

魅力を放っている。

流暢な日本語で返答してくれた。


「私たちは、この近くの村に住んでいるものです。

 洗濯しに来ました。

 あ、あなた方は…?」


「東京から」


「トーキョー??」

その女性は、首を傾げ、本当に

知らないようだ。周囲の人々も何やらどよめいている。


自分たちは、思っている以上に

その場にいる人々の

関心を集めているようだ。


思わずまあちゃんと賢治は顔を見合わせた。


事態が思わぬ方向に転がっている感覚を

まあちゃんも感じているようだった。


なんで東京知らないんだよ…。


すがるような思いで

賢治は会話に入る。。


「えっと・・・ここは奥多摩だから

 あなたたちも東京都民ですよね??」


「??いえ、私たちは、マタックの村の者です」


「「どこ??」」

まあちゃんと賢治はハモった。


すぐに冷静さを取り戻したまあちゃんが

穏やかに話しかける。


「いや、失礼。

 我々は商いをしながら

 旅をしているのですが、どうやら道に迷って

 しまったようで・・・

 後で村長にご挨拶に伺いたいのですが

 案内していただけますか?」

同窓会の時に一瞬女子たちに見せた

あの愛想の良さだ。


女性は、ハッとしてから

顔を赤らめて

俯いて、もじもじしながら

「え、ええ、構いませんよ。

 この後、ちょうど村長のお宅に伺う

 予定でしたので・・・」


でたよ、この展開。


「では、お願いします。」

まあちゃんの、その一言でギャラリーも

賢治たちもそれぞれの作業に戻った。


女性たちは、まあちゃんの方を

チラチラ見ながら

何やらきゃっきゃとはしゃいでいる。


まあちゃんは

気づいてもいない。

「とりあえず、朝飯食べよう」


あくびをしながら

そんなことをいってきた。


賢治はまあちゃんに

自分がずっと感じている疑念を

漏らしてみる。


「まあちゃん、ここって異世界かな?」

まあちゃんが振り返ってこちらを見る。

「…かもね」

意外な返答に賢治はたじろいだ。


鼻で笑って

「そんなのありえない」

と否定してくれることを

どこか期待していた。


あっさりと自分たちが

「異世界もの」の主人公であることを

認められた気がして、急にドギマギする。


「まあでも、スマホの電波はあるし、ネットにはアクセスできる。

ただ、どういうわけか、カメラを起動させてシャッターを押しても写真は撮れないし、動画もダメらしい」


「え…」

慌ててポケットから取り出そうとしたが

「あれ、スマホがない」

昨日の戦いで落としたのだろうか。

慌てて、テントの中や、バッグの中身なども確認するが見当たらない。


「まあ、その村とやらに行けば

 何か分かるだろ」


そう言いながら

まあちゃんはカップラーメンをすすっている。


「なんでそんなに冷静なの?」

流石に賢治は聞いた。

「いや、冷静ではないと思うけど

 今はちと眠い。

 まだ、頭がフル稼働していないな。

 俺からみるとけんちゃんの方が

 よっぽど冷静に見えるよ」


驚いた。

「なんで…

 俺は今めちゃくちゃテンパってるよ。

 昨日のこともあるし・・・。

 でも、まあここが違う世界だったらと

 思うと逆に結構、嬉しいかな・・・」


まあちゃんはカップラーメンをすする手を止めて

「なんで?」

と、聞いてきた。

賢治の心中を射抜くように、その目は鋭い。


「だ、だって、向こうの世界にいても

 俺はもうダメだよ」


言い訳じみた口調になっていることに

気づき、慌ててラーメンをすする。

情けない。

まあちゃんの目を見ることができない。


「…そっか。」


なんとも言えない声色だった。

冷たいようにも聞こえるし、

温かいようにも聞こえた。

まあちゃんは今、どんな顔しているんだろう。

どうしようもないヤツと思っているのか

それとも哀れんでいるのか・・・


しばらく、二人のラーメンをすする音だけが

響いた。気まずい。


沈黙に耐えられなくなったのか

「まあ、理想はこの世界が異世界で

 こちらの都合で元の世界と行き来できれば

 最高だけどな。

 市場が一気に拓けることになる」


淡々と展望を語るまあちゃんに半ば呆れつつ

「……そうだね。」

と答える。


「顔洗ってくる」

まあちゃんは河原の方に向かっていった。


賢治は、しばらく外の椅子に座り

川で洗濯物を洗っている人々を観察した。


談笑しながら洗う人

黙々と洗う人


その光景は、

キャンプ場という非日常の中での光景ではなかった。

なんというか、あまりに日常臭さが漂っている。


生活の一コマの中に、

自分たちが唐突に現れたようだ。


…ん?いつのまにかまあちゃんが談笑に加わっている。

げ、あの笑顔。

同窓会で女子に見せたあの愛想の良さを発動しているな。


話しかけられた女子一同の眼が

みるみるうちにハートマークになっていく。


あーあーあー。


すると、まあちゃんもこっちを振り返り

おいでおいでをしてくる。


賢治は重い腰を上げて

まあちゃんのハーレムの輪の中に

突撃していく。


「どうした?」


「今から村へ行くってさ。

長老の家への案内はリリィが。

こっちの子は、シエラ。

家で昼食をご馳走してくれるらしい。

めぼしい食料はもうないし、いいかな?」


「お、おお。いいんじゃない?

 ご厚意に甘えさせていただいて・・・

 あの、よろしくお願いします…。」

と頭を下げるが、

女子はみんなまあちゃんの顔を見て

「えー、うちには来ないの?」

などと、聞いてる。


シエラは

「マーシーは好き嫌いある??」

なんて、聞いている。

もうあだ名で呼ぶ中なのか。それとも

マサトシと発音しづらいのか。


あの短時間に一体何が起これば

こんなことになるのだろう。


ここが異世界で

特殊な力に目覚めているとしたら

まあちゃんの能力は「女子魅了」

ってとこだろう。


まあちゃんは構わず、

「じゃあ、テント片付けようか」

と、その場を離れようとするので


後を追う。


追いつくなり、まあちゃんは声を潜めて

話しかけてきた。

「けんちゃん。ランタン。

 着火剤。寝袋。バーナー。

 ライター。

 あと、他に必要そうなもの

 なるだけリュックに詰めていこう。」


「必要そうなものって・・・?」


「生きるため、身を守るために必要そうなもの」


そう言ってまあちゃんは、

無駄のない動きで

ナイフをシースに収めてポケットに入れていた。

また、タープもポールもたたんでバックにしまっていた。


その真剣な様子を見て

まあちゃんがこの事態を

かなり警戒していることが伝わった。

賢治も必要になりそうなものを

手早くリュックに詰め込んだ後、

木刀をしっかりと握った。

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