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異世界Good Will Hunting:善意の狩  作者: 寄り目犬
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「あなたはあなた」というドラマとかでありきたりのセリフをリアルで聞いた夜

冷たい。

丸みを帯びた硬質の感触。

これは、河原の石だ。


ん?



頭の中は妙に

すっきりとしている。


すぐ側で焚き火が、パチパチとなって

暖かな火が揺らめいている。


恐る恐る上半身を起こし、

辺りを見渡す。


幸いテントやタープは

以前と変わらぬまま、

立っているようだ。


闇の中で木々や

谷の岩肌が薄ぼんやりと見えてくる。



寒さを感じて、

焚き火の方にもう一度向き直り

手をかざす。


ほっこりと心も解れて

目を細めて深く息を吐く。


そして、はたと気付く。


俺の倒した

あの人狼らしき生き物

の死体がない。


自分が木刀をふるい

頭を粉砕した光景がフラッシュバックして

思わず、ギュッと目を閉じる。


そして、もう一つのことに気がつく。


「あれ、そう言えば

 肩の傷が…」


全く痛くない。

恐る恐る触ってみるが、

何ともなっていない。


自分の体のあちこちを

手で触ってみるが

どこも怪我をしていないようだ。


(何が起きたんだ・・・。

 まあちゃんはどこだ?)


山の方から

「ガサガサ」と

かすかに

音が聞こえた。


風か?と思ったが

徐々に近づいてきているようだ。


一気に跳ね起きて

近くにあった木刀を構える。


夜のキャンプ場の河原で

一人木刀を構える。


冷めた目で現状を俯瞰する自分が

「大丈夫かお前・・・」

と、痛々しそうに

こちらを見ているようにも感じるが

今、そんなことを気にするべきではない。

と自分に言い聞かせ、

音がする方に集中する。


心臓は激しく鼓動し、

息も上がり、

感覚は研ぎ澄まされていく。


あ、あの時の感覚に似てる…

が、今は

力が内側から湧き上がってくるのを

全く感じない。

立っているのがやっとだ。


すると、木の陰から

人影が見えた。


「まあちゃん・・・」


脱力し

膝から崩れ落ちる。


まあちゃんは

買い物でもしてきたかのよう


焚き火に使えそうな

枝が抱えられている。


「おう、けんちゃん。大丈夫?」


まるで二日酔いの

友人を気遣うかのように

しれっと聞いてくる。


安堵するとともに

改めて、幼馴染のあまりの動揺のなさに

腹がたつ。



「まあちゃん、俺どうなった?」

「倒れた」

「いや、そうじゃなくて・・・」

苛立ち、髪をクシャクシャとかきあげ

「化け物になってたでしょ?」

と、やけくそになって吐き出すように

きく。


まあちゃんは表情を変えない。

真正面から賢治の目を捉え


「けんちゃんは、けんちゃんだよ」


とはっきりとした口調で言い放つ。


その言葉で

賢治は全てを理解した気がした。

おそらく自分は

まあちゃんが口をつぐむような

醜い化け物になったのだ。

人狼の傷を受けると

人狼になる

というような設定の映画を

前に見たことがあった。

まさか、賢治の身にも同じことが

起きているのではないのか。


自分の体が自分のものでなくなる

恐怖に今更ながらガクガク震えた。



「腹減った。夜食にしよう」

と言いながら

まあちゃんは拾ってきた枝に

手際よく火を起こしている。

クーラーボックスから

肉を取り出して焼きだした。


「……いらない」


「OK」

あれだけのことに巻き込まれ

そして、自らもやらかした

俺のことを意に介さず、

休むことなく肉を焼いて

黙々と食べるまあちゃんの姿を見ていたら

なんだかアホらしくなってきた。


いい香りがする。


「ごめん、やっぱ俺も食べる」

という間抜けなセリフが口をついて出ていた。

熱々の肉にがっつく。

こんな時でも焼肉のタレをつけて

食べると肉はうまい。


「今後のことなんだけどさ。

 とりあえず、今日は俺見張りやるよ。

 けんちゃん寝てて。

 明日、日が昇ったら片付けて、ここを離れよう」


「あ、ありがとう。」


「木刀貸して」

賢治は、頷いて木刀を渡した。


しげしげとまあちゃんは

木刀を眺めてから

「これ、持ってきてよかったね」

と、ニヤリと笑う。


賢治はため息交じりに

「本当だね」と答えるしかなかった。


どっと疲れを感じたので

テントの中に入りつつ

「まあちゃん、ごめん

 じゃあ、あとよろしく。

 なんかあったら起こして」


「おう、頼りにしてる」

と、平然と返してくる。


テント内に入り、

テント入り口の

チャックを閉め。


寝袋にくるまり目を閉じる。


いろんなことがありすぎたのに

久々に何も考えずに

賢治は眠りに落ちていた。

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